第72話 成長したアレグリア
リスグラシューとアパパネが席に座り、食事を取り始める。俺達は大満足をし、まったりとお茶を飲んでいる。
お茶を飲みながら、シーザリオが言う。
「皆さん、エリクサーの事は他言無用、いいですね!!」
『はい!!』
「あと、ハヤト様は最低限の防御魔法を使えるようにしましょうね」
「そうだね。今回の事でそう思ったよ。シーザリオ、教えてもらえる?」
「はい、喜んで。では、早速午後からでいいですか?」
「俺は構わないよ」
「では…残りの仕事はメサイアさん!!お願いしますね!!」
シーザリオは満面の笑みを浮かべ、午後からの仕事をメサイアに押し付けた。
「こんな時にだけ『さん』付けにして…。でも、ハヤト様の為なら仕方ありませんね」
メサイアも渋々ながら仕事を引き受ける。
「ねぇ…今回の事って?」
アレグリアが首をかしげて聞いてきた。
俺は、一番後に帰って来たアレグリアには説明してなかった事を思い出し、ウオッカさんと出会ったところから説明をした。
「そんな事があったんだ。皆さん、ハヤトがお世話になり、ありがとうございました!!」
アレグリアはブエナとファレノプシスさん、そしてウオッカさんに頭を下げてお礼を言った。
「いいんだよ…そんな事は。エリクサーで助けてもらったのは、この私だからね。妹のブエナと一緒に、これからもハヤト君に協力していくよ。ところで、アレグリアさん。お昼からの予定は?」
「…もちろん修練の予定ですけど、内容については考え中です」
「じゃあ、私と一緒に稽古をしないか?ハヤト君からも頼まれているし、何より私自身が早く槍を使って体を動かしたいんだ!!」
「本当ですか!?ぜひ、お願いします!!」
待望の稽古相手ができ、アレグリアは握り拳を両手に作り、嬉しそうに答えた。
「悪いけど、一緒にウオッカさんも鍛えてもらっても良いかな?」
「へっ!?」
突然、俺から自分の名前を呼ばれて大慌てのウオッカさん。お茶を吹き出しそうになって驚く。
「わ、私は戦闘なんてした事がありませんよ」
そして、二人が持っている槍を見て『槍なんか持った事も、触った事すらもありません。無理です、絶対に無理です!!』と、大きな体を最小限に縮こませて言った。
「大丈夫だよ!!槍は使わないから…。でも、盾を使う。ウオッカさん、あなたは最強の盾役になれる才能を持っている。だまされたと思って少しの間、稽古をしてみてくれないかな?」
「盾…盾役…冒険者!?」
「そう!!冒険者!!」
「無理です、無理です!!」
「何故?」
「私なんて…何の取り柄もない人間。ただ、人より体が大きいだけの臆病者です」
「それでいいの?また殴られ蹴られる生活に戻りたいの?」
ウオッカさんは拳を握り締め、黙って下を向く。
「ウオッカさん、これは人生を変えるチャンスなんだよ。挑戦もしないでチャンスを逃すの?ダメかもしれないけど、挑戦だけはしてみようよ。自分の中に眠っている才能があるかもしれないじゃないか。挑戦をしてダメなら、その時に諦めればいいからね。」
「私に…私にできるでしょうか」
ウオッカさんが涙目で俺を見る。
すると『ウオッカさんの事は私に任せて!!』と、アレグリアが言った。
そしてアレグリアは立ち上がり、ウオッカさんの目の前に。
「ウオッカさん、私は少し前まで剣を使っていたの。でも、まったく上達しなかった。どんなに血のにじむ努力をしても、Fランクから抜け出せなかったの。正直、絶望しかなかったわ。何もかも嫌になりそうだった。でも、そんな時、ハヤトと出会ったの。そしてハヤトが槍の才能があると言った。正直に言って、最初は半信半疑な所があったんだけど、槍を初めて手にした時、体に衝撃が走ったわ。一瞬で世界が変わったの。それからは毎日が楽しい、楽しくて仕方が無い。今、私の目の前には希望しかないわ。だからウオッカさん、ハヤトの事を信じて、一緒に頑張ってみよ!!」
アレグリアはそう言い、ウオッカさんに向かい手を差し伸ばす。
「…アレグリアさん」
ウオッカさんは、目に溜まった涙をぬぐい、歯を食いしばる。そして目を閉じ、息を大きく吐いた。
「よろしく!!」
「ふふふっ、こちらこそよろしくお願いします!!」
ウオッカさんとアレグリアが固い握手をする。
俺はアレグリアに見惚れてしまう。みんなも笑顔になり、喜んでいる。
ただ、母親のジュリアさんだけは号泣している。
「うっ…うううぅぅぅ。アレグリア…成長したのね」
そう言って、愛娘の成長を目の当たりにし、零れ落ちる涙を止められないのであった。
【アレグリア視点】
(あっ!?シーザリオ様が悪い顔をして、メサイア様に仕事を押し付けてる。メサイア様は公爵家のお嬢様なのに、かなりの苦労人なんだなぁ…。それにしても、今回の事って…)
私はシーザリオ様の言葉が気になり、ハヤトに事情を聴いた。
(まったく…危ない真似をして。今回は助かったけど、防御の魔法は必要ね。私が常に付いていてあげたいんだけど…そんな事、無理だし…。ハヤトの事はシーザリオ様に任せて、私は今、私の出来る事を一生懸命にやるしかないわ)
そう思い、三人にお礼を言ってから、お昼からの修練のメニューを考える。
そんな時、ファレノプシスさんから思ってもみなかった提案が…。
「ハヤト君からも頼まれているし、一緒に稽古をしないか?」
私はその言葉を聞いた瞬間…
「ぜひ、お願いします!!」
考える間も無く、即答した。
(絶対、このファレノプシスさんは私より強い。この人と稽古ができるなら、実力が一気に伸びるかも…)
私はそう思い、無意識のうちに拳を握り締める。
そんな事を思っていると、ハヤトから意外な提案が…。
「ウオッカさんも一緒に鍛えてくれないか」
私は大きな体を縮こませて、大慌てのウオッカさんを見る。ハヤトの話では、盾の才能があるという。
しかし、本人は『私には無理です…自信がありません』と、顔を青くしている。何度も何度も首を振り、下を向き涙ぐんでいる。
(あぁ…この感じ…少し前の私と同じ。ウオッカさんの気持ちが痛いほど分かる。本当に痛いほど…)
私はウオッカさんを見て、胸が締め付けられる思いがした。
ならば、私のするべき事は決まっている。
「ウオッカさん、一緒に頑張ろう!!」
そう言って、手を差し伸べた。
ウオッカさんは覚悟が決まったのだろう。スッキリとした表情になり、私の手を握り返してくれた。
ファレノプシスさんが隣で微笑んでいる。
(ふふふっ、もし、この三人でパーティーが組めたなら…)
私は『ふっ』と、そんな考えが頭に浮かぶ。
(ウオッカさんが盾役として相手のスタミナを削り、相手が疲れたところでファレノプシスさんと私がとどめを刺す)
そんな事を考えていると、私の顔は自然と笑顔になってしまうのでした。




