第71話 やっぱりラーメンはとんこつ!!
「お、美味しい!!」
シーザリオの表情が和らぐ。
「お、お姉ちゃん!!凄い美味しいよ!!」
「あぁ…初めての味だけど、本当に美味しいな」
ブエナとファレノプシスさんが顔を見合わせ、驚いている。
対照的なのがウオッカさん。
「……………」
無言で、ただひたすら食べている。食べてはいるが、お皿に乗っている生姜焼きは無くならない。アパパネが気を利かし、どんどんお替りをお皿に追加している。
俺も久しぶりの生姜焼きを味わう。
(凄いな…リスグラシュー。俺の不完全なレシピで、ここまで完全な生姜焼きを完成させるとは…。ふふふっ、これなら、豚骨ラーメンも期待が持てそうだ!!)
俺は舌鼓を打ちながら、自然に笑みがこぼれた。
「お母さん、これも商品としてメニューに加えたら?正直、私はパスタよりも好きかな」
「そうねぇ…確かにすごく美味しいのは認めるけど、料理としての方向性は違うんじゃないかしら…」
「確かに…でも、修練の後は、お肉をがっつり食べたいのよ!!」
「分かるけど…何か高級店らしい料理ではない気がするのよねぇ」
アレグリアとジュリアさんが、メニューに加えるべきかどうか話し合っている。
「この生姜焼きは大衆向けの家庭料理だからね。仕事帰りのお腹を空かせたおっさんが空腹にかき込む、そんなイメージの料理だよ」
『あぁ、そう!!そのイメージ!!』
俺の言葉を聞いて、アレグリアとジュリアさんは納得する。
「宿泊しているお客さん向けに出すのはいいけど、高級レストランを目指していく店には合わないわね」
「まあ、私は食べれれば何でもいいからね!!」
ジュリアさんはアレグリアの言葉を聞き『まったく、この娘は…』と、苦笑い。ついでに俺も苦笑い。当のアレグリアは気にもせず『パクパク』とお肉を頬張っている。
しかし、そんな庶民的なアレグリアの目の前で、背筋を『ピンッ』と伸ばし、優雅にお食事を楽しんでいる女性がいる。公爵家のご令嬢、メサイアだ。ナイフとフォークを使いこなし食べるその姿は、同じ生姜焼きであっても高級料理に見えてしまうから不思議だ。
メサイアはナプキンで口を拭く。
拭いた後に口を開く。
「これが大衆向けの料理とは…信じられません。見た目は確かにそうかもしれませんが、味は高級料理と言っても過言ではありません。絶品です!!」
メサイアからのお墨付きを頂きました。きっとリスグラシューも喜ぶに違いない。あとで教えてあげよう。
「ハヤト様、豚骨ラーメンです!!」
「ありがとう」
白濁のスープに麺、そしてチャーシューが五枚も乗っている。あとは、ネギと半分に切ったゆで卵。
(ふふふっ、チャーシュー麺か。リスグラシュー、分かっているな。グッジョブだ!!あと地味に、ラーメンに入っているネギが多い。完全に俺の好みを理解しているな)
俺は、ここまで完全に再現してくれたリスグラシューに感謝をしつつ、ラーメンを食べる。
(美味い、美味いに決まっている。リスグラシューの作る料理にハズレ無しだ!!)
みんなの前にもラーメンが置かれていく。続いてカツ丼も出来上がったようだ。テーブルの上は生姜焼きと豚骨ラーメン、そしてカツ丼が並べられた。
アレグリアが俺をまねて、豪快にラーメンをすする。
「パスタと全然食感や味が違うわね!?」
「そうだよ。でも美味いだろ?」
「うん…すごく美味しい。でも、こっちも食べたい!!」
アレグリアはカツ丼にも手を出し、三品をローテーションにして、夢中で食べている。
その豪快な食べっぷりに、俺は思わず笑みがこぼれる。
そのアレグリア以上の豪快さを見せつけているのがウオッカさんだ。すぐに料理が無くなるので、アパパネも大忙しだ。
(ウオッカさん、汗を拭きながらも夢中で食べているな)
そう思ったが、それは汗ではなく、涙だった。
泣くほど美味いのか、好きなだけ食べれるのが嬉しいのか分からないが、とにかく大粒の涙を流しながら食べる。そして食べる。そして…また食べる。さらに食べている。
隣で食べているブエナも引き気味だ。
しかし、初めて食べるラーメンを目の前にしても、お上品なのがメサイアだ。
別に俺が教えたわけでもないのに、ラーメンを一度れんげに乗せてから、お上品に食べている。
(メサイアは一目で育ちが良いと分かるよな。食事をする姿にも気品が感じられるよ。上品に食事をする女性と、美味しい物を笑顔で豪快に食べる女性…どちらが良いか…。どちらも良いに決まっている!!)
みんな、さっきまでの重苦しい空気を忘れ、笑顔で料理を食べている。
料理を作り終え、リスグラシューとアパパネも合流する。
大絶賛の嵐に、リスグラシューも嬉しそうだ。当然、俺もリスグラシューに賛辞を送り、俺の不完全なレシピをここまで再現してくれた事に大感謝をした。
だが、リスグラシューは言う。
「まだまだです。これは試作品なのです。これからさらに研究をして、味を高めていかなければなりません。そして、その余地は十二分にあると思っています。ハヤト様、それにみなさんも、さらに美味しくなると期待をしてくれて構いません!!」
『おぉぉぉ~!!』
どよめきが起こり、期待感が高まる。
キッチンは相当暑く、そして大量の料理を作るという事は重労働だ。リスグラシューの額には汗が浮かび上がっている。しかし、窓から入ってくる日差しがその汗に反射し『キラキラ』と輝いて見える。俺は思わず、リスグラシューに見惚れてしまう。
リスグラシューは料理と出会うことで変わった。
俺は出会った頃の事を思い出し、前向きに生きてくれている事を嬉しく思うのだった。
【アパパネ視点】
「リスグラシューさん、器の大きさを調整してもらってもいいですか?」
「んっ!?どうして?」
「凄く大柄の女性もいますけど、私と同じくらいの年頃の女の子もいるので、さすがに同じ量は食べれません」
「そういう事ですか…了解しました!!」
私はキッチンでリスグラシューさんに器の調整をお願いをした。そして、すぐに出来上がった料理を運んでいく。
「お待たせしました!!」
笑顔でテーブルに料理を並べていく。
(えっ!?も、もう、ウオッカさんのお皿が空に…!?)
私は大慌てで空になったお皿を下げ、大盛りの生姜焼きが乗った新しいお皿を置く。そして、他の皆さんの料理の進み具合を観察し、頭の中で次にお出しする量とタイミングを考えていく。
(ハヤト様が豚骨ラーメンを食べ終わりそうだわ…。恐らく替え玉を頼まれる可能性が高い)
私は急いでキッチンに戻り、リスグラシューさんに替え玉の用意をお願いする。
ハヤト様が豚骨ラーメンを食べ終わり、一服すると同時に、どんぶりを下げにいく。
「アパパネ、替え玉って頼めるの?」
ハヤト様の言葉を聞き、心の中でガッツポーズを決めるも、何事も無かったかのように『はい。すぐにお持ちします!!』と答え、キッチンへと向かう。そして当然の様にキッチンには、すでにリスグラシューさんが替え玉を用意している。
「お待たせしました」
「早っ!?」
驚くハヤト様。
そして『アパパネ、ありがとう!!』と言って、美味しそうに麺を食べられている。
私は内心、滅茶苦茶嬉しかったのですが『当たり前の事です!!』という顔をして、クールに仕事に戻るのでした。




