第70話 取り調べ
「ただいま!!お腹空いた!!お昼ご飯出来てる?」
その場の空気を和ませる、能天気な雰囲気を醸し出し、アレグリアが帰ってきた。
「…槍!?…どちら様?」
アレグリアはファレノプシスさんの槍を見て、表情が険しくなった。やはり同じ槍使いは気になる様だ。一瞬で臨戦態勢になる。
「おかえり、アレグリア。二人は俺にポーションを提供してくれたブエナビスタさんと、お姉さんのファレノプシスさんだ。それに、こちらの女性はウオッカさんだよ』
「…そう。私はこの宿の娘のアレグリアです」
アレグリアは三人に向かって『ペコリッ』と頭を下げる。
「ファレノプシスだ…よろしく」
「ブエナビスタです。よろしくお願いします!!」
「…ウオッカです」
三人も立ち上がって挨拶をする。
アレグリアの視線とファレノプシスさんの視線が交錯し、火花が散った気がした。
しかし、ここではアレグリアが敏感に空気を読んで、大人しく俺の横に座る。
「まずは…ハヤト様、『エリクサーを持っていた』とは?」
シーザリオの圧が凄い。まるで取り調べを受けているようだ。
「エ、エリクサーを持っていた!?ハヤト、どういう事よ!!」
アレグリアが俺に顔を近づけ聞いてきた。あと数センチで唇が触れ合う距離。
しかし…シーザリオによって、アレグリアの首元が引っ張られ、唇が遠のいていく…残念。
「いや~、たまたまポーションに魔力を注入したら、出来上がっちゃったんだよ」
「ハヤト様、エリクサーはたまたま出来上がっちゃう物ではありませんよ!!」
「伝説の万能薬なんだってね。驚いたよ!!」
俺は何も噓を言ってはいない。素直にシーザリオの取り調べに応じる。あくまでも任意なのです。
どういうわけかアレグリアも取り調べに参加してくる。まあ、アレグリアは興味本位で聞いてくるだけなのだが…。
「もしかして、私の部屋で魔力を注入した時の…あれがエリクサーになったの!?」
「そうなんだ。俺はエリクサーなんて万能薬の事を知らなかったから、失敗作かと思っていたんだよ」
「まあ、ハヤトのいた世界に、エリクサーが無かったんなら、知らなくても仕方が無いんじゃないかな」
「だろっ!!」
何とかアレグリアを味方に引き込む事に成功する。
そして、アレグリアはその時の事を思い出し『ふふふっ、ねえ、ハヤト。あの時のヘンテコでおバカなポーズが、エリクサーができた秘密かもよ!!』と、大笑いしながら言った。
「ヘンテコでおバカって…俺は真剣だったけどね」
「あはははっ!!ごめんごめん!!」
「………はあ」
俺とアレグリアのやり取りを見て、ため息をつくシーザリオ。
「ハヤト様、エリクサーを生成できるという事は、この世界にとって大変な事なのですよ。これまでの価値観が根底から崩れる。もし、こんな事がバレたらと思うと…」
シーザリオはそう言うと、ブエナとファレノプシスさん、それにウオッカさんを睨みつける。
初めて見るシーザリオの真剣な眼差し。
鬼の形相と言うにふさわしく『あなた達、分かっていますね。この事を他人に漏らしたら…』と、無言の威圧を放つ。
(さすが王家筆頭魔術師、やる時はやる女だ!!)
俺も内心はビビりながらも、感心をする。そしてシーザリオ、この女性の実力は計り知れない。アレグリアとの対決など、シーザリオにとっては、ただのじゃれ合いだったのだろう…と思わせるのであった。
張り詰める空気。
誰も身動きすら取れない。
「シーザリオ…もういいでしょう」
メサイアがシーザリオに声を掛けた。
シーザリオは困ったような、心配そうな、とても複雑な表情になっていた。
「ハヤト様が連れてこられたという事は…つまり、そういう事だわ」
「…まあ、確かにそうですね。私が心配しても、仕方が無いという事ですか」
シーザリオは俺が鑑定済みなのだろうと納得する。
『……………』
緊張は和らいだが、まだ空気が少し重い。誰も口を開こうとしない。
そこにアパパネが料理を運んでくる姿が見えた。
「料理ができたようだよ。試食兼昼食を取りながら話さないか」
「はあ…仕方が無いですね。そうしましょう」
俺の提案に、ため息をつきながら同意するシーザリオ。
しかし…
「むむむっ、見た事の無い料理だわ。アパパネ、これは?」
一旦、関心が料理のほうに向けられる。
「これは生姜焼きといいます。熱いうちにお召し上がりください!!」
アパパネはそう言い、流れるような美しい身のこなしで、みんなの前にお皿を置いていった。
「これは美味しそうだね!!まずは熱いうちに頂こうか!!」
俺はそう言い、試食という昼食を取り始めるのであった。
【アレグリア視点】
(あぁ~お腹空いた!!)
私は朝の修練を終え、いったん自宅へと戻る。そして歩きながら、昼からの稽古内容を考える。
(…稽古の相手がほしいな。できれば格上の相手。自分でも着実に実力が上がっていという実感がある。メサイア様にお願いしたいんだけど、無理だよね。忙しいだろうし…)
そんな事を考えているうちに、自宅に着いた。
(まあ、それは置いといて…お昼ご飯だ!!リスグラシュー、期待しているからね!!)
リスグラシューが食事を作るようになってから、食事の時間が楽しみで仕方が無い。昨日の夜、明日は新しい料理を試作すると聞いていた。
(ふふふっ、実は朝食を控えめにしていたの。おかげで、いつもよりも腹ペコの状態よ!!)
期待に胸を膨らませ、ダイニングへと向かった。
「…槍!?…どちら様?」
無意識のうちに槍を構えてしまった。
見知らぬ女性が、鋭い目つきで私を見る。
私も臨戦態勢になる…が、ハヤトの知り合いという話。私は槍使いの女性が気になりつつも、落ち着きを取り戻しハヤトの横に座った。
しかし、いきなりシーザリオ様の口からとんでも発言が飛び出した。
ハヤトが幻の万能薬『エリクサー』を生成したとの事。
私は槍使いの女性の事など忘れ、ハヤトを問いただす。
(あぁ…あの時に。私の部屋で魔力を注入した時に『エリクサー』が生成できたんだね。偶然?いや、ハヤトの事だから必然ね。それにしても…うふふふっ!!あの時のハヤトのヘンテコなポーズ!!思い出しただけで笑いが込み上げてきちゃう!!)
私はシーザリオ様に問いただされているハヤトを慰めようとする…が、あの時のヘンテコポーズが思い出され、大笑いしてしまうのでした。




