第68話 試食をお願いします
「え~とっ…」
俺はファレノプシスさんのほうを見る。
(さて、どう対応すればいいのだろう。初対面なのに、知るはずのない名前を呼ぶわけにもいかないし…)
俺が考えていると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん!!置いていかないでよ!!」
ブエナが大きな声を出しながら、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
「はあっ、はあっ、はあっ…お姉ちゃんはハヤトお兄さんと会った事が無いのだから、はあっ、はあっ…私がいないと困るでしょう!!」
「そうだったな。でも、急いできて正解だった。もう少しで斬られるところだったぞ」
「き、斬られる!?」
ブエナが『何をやらかしたの?』という顔をして俺を見る。
「この人がブエナのお姉さんなんだね。俺はハヤト、よろしくお願いします。本当に危ないところを助けてもらって、ありがとう!!ウオッカさんを助けようとしたら、逆に殺られそうになってしまって…助かったよ!!」
俺はファレノプシスさんに向かって頭を下げる。
「私はファレノプシス。お礼など…私が助けなくても、どうにかできたのでは?」
「う~ん…どうかなぁ?結構危なかったと思うよ」
「…そうか。でも、お礼を言うのは私のほうだ。ブエナから聞いたよ。どこまで話していいものやら分からないけど、本当にありがとう。心から感謝している」
ファレノプシスさんはしっかりと俺の目を見据え、深々と頭を下げた。そして隣にいたブエナも同じ様に、深々と頭を下げる。
「そんな…止めてください。大した事はしていないから…。それに、今、助けてもらった事で貸し借りは無しだよ」
「大した事はしていないって…」
ファレノプシスさんとブエナは…
「ブエナがもらって私に飲ませたのは、本物のエリクサーなんだろう?あり得ない事だから!!」
「そうだよ!!あんなに気軽に私に渡して…ハヤトお兄さん、凄くおかしいよ!!」
声を潜めて言う。
続けて…
「私とブエナは一生をかけて、君にお礼をしても、まだ足りないくらいだよ」
「そうだよ。伝説の万能薬なんだからね。それ一つの為に、戦争まで起こりかねない…そんな貴重な物なんだよ!!分かってるの?」
最後はブエナに説教をされる。なかなか厳しい。
まだまだ言いたい事がある様子なので『まあ…立ち話もなんですから、もし二人が良ければ、俺がお世話になっている宿に行って話をしませんか?ウオッカさん、美味しい料理を食べさせてあげるからね』と、提案する。
「本当!?嬉しい!!もう…お腹が鳴ってしまって…」
思わず本音が漏れるウオッカさん。口を押えて照れている。日に焼けて浅黒く、傷だらけの顔をしているが、よく見るとかなり整っている顔をしていた。磨けば光る素材。例えていうと、パワフル系美人でバスケットのセンターという感じ。
俺は人生相談所とポーション販売を取りやめ、三人を連れてベガまで帰った。
「いらっしゃいま…ハヤト君、どうしたの?こんなに早く」
「いろいろありまして…ダイニングを借りていいですか?」
「良いに決まっているじゃない!!お客さんいないから!!」
お客さんがいなくても笑顔のジュリアさん。その笑顔は美肌ポーションの影響で、普段より一段と輝いて見えた。美熟女というより、アレグリアの年が離れたお姉さんと言っても大袈裟じゃない気がする。
俺は三人をダイニングに招き入れると、キッチンから良い匂いが…。
ウオッカさんが生唾を飲み込む。
「あれっ!?ハヤト様!!お帰りですか。今、ハヤト様から教えて頂いたレシピを参考に、料理の試作をしているのですが、なにぶん量が多くて…。試食をお願いできませんか?」
「リスグラシュー、ちょうどいい!!このウオッカという人に料理をごちそうすると約束したんだ。試作で構わないからどんどん作って持ってきてくれ。ファレノプシスさんとブエナも試食に付き合ってくれるとありがたい」
俺がそう言うと、ファレノプシスさんは照れながら『実は家から急いで飛び出してきてしまって、朝食を食べてきていないんだよ』と言う。
その言葉を聞いてブエナが『ファレ姉は猪突猛進型の人間だから…』と、苦笑しながらツッコむ。仲の良い姉妹だ。
「わ、私は昨日から何も食べていなくて…力になれると思います。あはははっ、無限にお腹の中に入っていきそうですよ!!」
ウオッカさんは笑顔でお腹をさすりながら胸を張る。
「と、いうわけだ。リスグラシュー、どんどん作って構わないから!!アパパネ、出来上がった物からどんどん持ってきてくれ!!」
リスグラシューの目が光る。
「今日はラーメン、カツ丼、生姜焼きを、一杯作りたかったんです!!ふふふっ、ハヤト様の異世界レシピ、私が完璧に再現して見せます!!」
小走りでキッチンへ入っていくリスグラシュー。今は試作の事で頭が一杯の様だ。三人を見ても、余計な事は口にしていない。
俺は一安心をして、三人と話を始めるのであった。
【リスグラシュー視点】
私はハヤト様の書いてくれた、異世界料理のレシピを見ている。脳をフル回転させ頭の中で一から調理し、お皿に盛りつける。何回も…何十回も…何百回も、繰り返しイメージし、レシピの足りない部分を補っていく。
今日は生姜焼きとカツ丼、あとはハヤト様が一番好きだったという豚骨ラーメンを試作したいと思います。そのために朝一番で食材を仕入れて来たのですが…。
(ジュリアさんとアパパネの二人では食べきれないわよね…。私とした事が、試食要員を確保しておくべきでした)
私が腕組みをしながら、どうするべきか考えていると、ハヤト様の声が聞こえてきました。どうやら、お客様を連れて来た様子。
私は急いでハヤト様の元へ。
そこには三人の女性の姿が…。
(むむむっ、この人達もハヤト様に選ばれた女性ですか!?もしそうならば、洗脳…いえ、ハヤト様に身も心も捧げるよう説得をしませんと!!しかし、今は試作と試食が大事です)
私は三人の女性の中で、ひときわ体の大きな女性に注目をします。
(…何と大きな体をした女性ですか!!この人、使えますね!!試食要員としてはもちろん、買い出しの時に、荷物持ちにも使えそうです。私とアパパネだけでは荷物が多すぎて持ち切れませんからね)
私はハヤト様に試食のお願いをしました。
(ふふふっ、この女性。お腹がかなり空いている様子…。いいでしょう!!言葉による洗脳はいりません。私の料理で餌付けして差し上げますわ!!)
私は試作という考えを捨て、本気モードでキッチンに戻っていくのでした。




