第62話 お墨付き
「俺にそのポーションを売ってくれないかな」
「えっ!?本当に!!」
「あぁ、三千エンでどうだろう?」
「…いいよ。でもいいの?」
「構わないよ。彼女にもポーションを買ってくると言って来たからね」
「少しでもお金になれば…。本当にもうお金が無かったんです。三千エンあれば、何とか、もう一週間は暮らせるから…ありがとう!!お兄さん、いい人だね」
女の子は心底『ホッ』としたような顔をしていた。
(何とかもう一週間は暮らせそう…か。こんな感じの人が多いんだよな。その日を何とか生き延びる事に必死で、先を見据える余裕が無い)
必死で生きていても、余裕は生まれない。俺も嫌というほど味わった逃れなれない現実。
「じゃあ、20本で六万エンね」
「えっ!?ろ、六万エン!?」
「えっ!?六万エンだよね?」
「えっ!?えっ…えぇ~~~!!」
女の子の目が回っている。可愛い!!
「全部で三千エンでは無くて、1本三千エンで買ってくれるの!?」
「そのつもりなんだけど…安かった?」
「い、いえ…本当にその値段で買ってもらえれば、助かりますけど…。もしかして、お兄さん…馬鹿なの?」
「酷いな…俺はこれは売れると思うから買う。それだけだよ。俺、人生相談所を開いているから、そこで売ってみるよ」
「…売れるわけないよ。そんな事で売れるなら、最初から売ってるわよ!!個人では売れないから、みんな大きな商店に買い取ってもらうのよ。安値でだけど…」
「絶対に売れない?」
「売れない。じゃあ、聞くけど…お兄さん、出店でポーションを売っているのを見た事がある?」
「…そういえば、無いな」
女の子は『ヤレヤレ』という顔をしながらも、丁寧に説明をしてくれる。
「ポーションの作り方が広まった時にね、みんなが個人で売ったのよ。でも、品質が悪いポーションが多くて、結局誰も信用しなくなったのよ。粗悪品だと思われてね…。今では誰にも見向きもされないよ」
「そ、そうなのか…」
俺は『大きな店の品質も酷い物じゃないか!!』と思いつつも、何か良い方法は無いかと起死回生の策を考える。
その時、女の子が『ふっ』と呟く。
「貴族様か有名冒険者の『お墨付き』でもあれば違うのだけれど…」
「何!?それっ!!」
「えっ!?お兄さん『お墨付き』も知らないの?よくそれでポーションを売ろうなんて思ったわね」
「………すまん。良かったら詳しく教えてくれないか。このポーションは確実に買い取るから…」
「仕方が無いわね!!私はブエナビスタ。ブエナと呼んでね」
「素敵な名前だね。俺はハヤトだよ」
お互いに自己紹介をする。
「ハヤトお兄さん、『お墨付き』というのは、品質の証明書みたいな物なの。この人の作ったポーションの品質は私が保証しますというね」
「なるほど」
「でも、誰だか分からない人が保証しても意味ないでしょう?だから貴族様や有名冒険者の『お墨付き』が必要なのよ。ポーションだけじゃない。高級な物には大体付いているわ。あと、商店や商会自体に『お墨付き』を出している場合もあるわ」
「みんな『お墨付き』を見て、安心して買い物をするわけか…」
「そうよ。『お墨付き』を出した側は、そうして利益の何割かをもらうみたいだけど…。私はそこまでは分からないわ」
俺はここで良い事を思い付く。俺の周りにも有名人が一人いたのだ。
「今、リーズに来ているシーザリオの『お墨付き』がもらえたら、このポーションは売れないかな」
「…シーザリオ様ね!!様!!」
「ごめん。シーザリオ様」
「そりゃね…。もしシーザリオ様の『お墨付き』をもらえたら、間違いなく高値で売れるけど…」
「よしっ!!」
思わず、俺はガッツポーズをするが、ブエナはそんな俺を冷ややかな眼差しで見つめている。
「もしかして…シーザリオ様に頼もうと思っているの?」
「そうだけど」
「はあぁ~!!ハヤトお兄さんは凄く良い人だと思うけど…やっぱり馬鹿なんだね!!シーザリオ様が『お墨付き』を発行してくれるわけないでしょう…」
ブエナは大きなため息をつきながら、毒舌を放った。
「ふふふっ、問題ないよ。きっと『お墨付き』は手に入る。ブエナ、定期的にポーションを作れないか?」
「その根拠のない自信が、どこから来るのかは分からないけど…私は毎日一本しか作れないの。がんばって一か月で30本くらいね」
「よし。俺が全て買い取ろう」
「本気で言ってるの?」
「もちろん!!何なら料金を先払いで払ってもいいよ」
「本当に先払いでお金を払ってくれるの?だったら、頑張って作るけど…どうしてそんなに良くしてくれるの?」
ブエナは俺の真意を知りたい様だった。なぜなら自分の作り出すポーションの本当の価値を分かっていないのだ。誰よりも優れたポーションを作り出せる才能に気づいていない。
「単純だよ。ブエナの作るポーションに価値があるからね。だから俺の付けた値段はブエナのポーションの本当の価値という事だよ。売れるか売れないかは俺次第という事。ブエナは気にしなくていいよ」
「…なんか嬉しい。そんな事を言われたのは初めてだから…。私ね、いつか『エリクサー』を作りたいと思っているの。片足を失って、意識が戻らないお姉ちゃんの為に…」
(エリクサー?どこかで聞いたような…)
「私のお姉ちゃんは若いけどCランクの冒険者だったの。17歳でCランクに昇格してね…地元では有名人だった。でも…強力な魔物が現れた時、ギルドの緊急招集で討伐に行って…殺られそうな他の冒険者を助けるために…自分が…」
「……………」
「奇跡的に命は取り留めたのだけれど、片足を失って…それ以来、意識も戻らないの。だから私は伝説の万能薬と伝わる『エリクサー』を作って、お姉ちゃんを助けたいの!!」
「そうか!!ブエナなら作れるよ!!エリクサーを!!」
「ありがとう!!」
「じゃあ、これ。今回の代金と、次回の代金の合計した金額。15万エンな」
「本当に…ありがとう!!絶対に作って見せるからね、エリクサーを!!」
ブエナはやる気に満ちた顔をして言う。その顔を見ると、何か俺までやる気が出てくる様だった。
「俺は出店で人生相談所を開いているから、用事がある時はそこに来てくれよ」
「わかったわ。ハヤトお兄さん、本当にありがとう」
俺はブエナと別れて帰ろうとするが…昨日、俺が作った物の事を思い出した。
「あっ!?」
「どうしたの?」
「これ」
俺は昨日、偶然作った『エリクサー』をブエナに渡した。
「下級ポーション!?」
「いや、エリクサーだよ。お姉さんに飲ませてあげて!!」
「はっ!?」
ブエナは唖然としてエリクサーを受け取り、立ち尽くしている。
俺は後ろ向きに手を振り、ベガまで帰るのであった。
【ブエナビスタ視点】
(おかしな人…でも、私の作ったポーションを評価してくれて高値で買い取ってくれた…。良かった、これでしばらくは安心して生活ができる)
私は足取りも軽く、自宅までの道を歩いていく。
「ただいま!!ファレノ姉、異常はなかった?」
意識不明で寝たきりのファレノプシス姉さんに声をかける。当然の様に反応は無いが…。
「今日ね、凄くおかしな人に会ったんだよ。でも凄くいい人で、私の作ったポーションを品質が良いと言って、高値で買い取ってくれたの」
今日あった出来事をファレノ姉に伝えていく。反応はできないが、私の声がファレノ姉に聞こえてくれていると信じて…。
「それと…じゃん!!そのお兄ちゃんからエリクサーをもらったんだよ!!」
私はハヤトお兄さんからもらったエリクサーの瓶をファレノ姉の枕元に置く。
「………はぁ。エリクサーって名前の下級ポーションだけどね…」
苦笑いを浮かべながらファレノ姉の顔を見る。
そして…
「またおしゃべりがしたい…。ファレノ姉とおしゃべりがしたいよ。うっ…ううっ…寂しいよ…ファレノ姉…」
綺麗な顔をしながらも、一切反応をしてくれないファレノ姉に抱き着いた。
ぬくもりを感じる。このぬくもりがあるから今まで頑張ってこられたが…まだ幼い私には限界に近い。
なんとなくファレノ姉の枕元に置いたエリクサーが目に入り口元へ…。本気で本物のエリクサーだとは思っていないが、藁にもすがりたいという気持ちでファレノ姉に飲ませた。
当然、何も起こらなかった。
「はははっ…あはははっ!!私ったら、何考えているのよ。本物のエリクサーのわけないじゃん!!バッカみたい…」
私は涙をぬぐい、食事の支度をするためにキッチンへと向かった。
(今日は久しぶりにまともな食事ができるわ)
そう思いながら食事の用意をしていると、間の抜けた大あくびと、久しく聞いていなかった懐かしく、優しい声が聞こえた。
「ふわぁぁぁ~、よく寝たわ!!ブエナ、お腹が空いた!!」
信じられない事に、そこには下着姿で立っているファレノ姉の姿が…。私はしばらく息をするのも忘れ、立ち尽くしてしまったのでした。




