第175話 クロカゲ暗殺部隊
シーザリオが着替えを済ませ、俺たち二人はダムへと向かう。
『……………』
しばらく口づけの余韻に浸り、無言の二人だが、お互いの気持ちを確かめるように、しっかりと、手だけは握られている。
「…無粋だな」
「…本当に」
途中、獣が襲いかかってくるが、俺がバリアで弾き、シーザリオが水の魔法で仕留めていく。
「おっ!?切断じゃん!!」
「はい。まだまだ、完成度は低いのですが、イメージは出来上がってきています。ただ、強敵に対しては、使う余裕はありません」
「少しずつでいいんだよ」
「はい。ですが…島へ向かい、開発を始める時までには、ある程度、完成度を高めたいと考えています」
「…そうか。強力な魔物とか魔獣が多いらしいからな。でも、あんまり時間がないぞ」
「はい。時間はあまりないですが、私の体内には、以前とは比べ物にならないほどの魔力が、蓄えられています。実際、何度でも好きなだけ魔法を放てるので、成長が段違いで早くなっています。ご期待ください」
「はははっ、頼もしいね。でっ、気がついてる?妙な気配」
「当然です。本当に無粋で嫌になります」
「見せつけてやろうか?」
「……………」
俺はシーザリオを抱きしめ、再び、情熱的な口づけをする。
月明かりだけの静まり返った森の中に、俺とシーザリオの情熱的な口づけの音だけが響き渡る。結構、エロい。
ただ、俺たちはお構いなしで、ディープな口づけを続ける。
唇を離すと、いやらしく唾液が糸を引いていた。
「囲まれたぞ」
「そのようですね」
「でも、問題ないな」
「すぐに終わる事でしょう」
「終わったな」
「そのようです」
妙な気配が消え、黒猫が数匹現れる。
「ストーム、ご苦労さん。暗殺まで、できるんだね」
俺が声をかけると、黒猫たちが次々と姿を戻して現れる。
「お久しぶりです。ハヤト様。ふふふっ、暗殺は気配を殺して、一刺しだけで終わりますから、戦闘力が低くても、ほぼ、成功しますよ」
「頼もしいね」
ストームたちは膝をつき、頭を下げる。
「あいつら、何者?」
「身元を特定できるものは持っていませんでしたが、間違いなく、アーキュリーの手の者かと思われます」
数人のクロカゲが、始末した死体を転がす。
「シーザリオ、見覚えは?」
「見覚えはありませんが、この黒装束は、間違いなく、アーキュリーの暗殺部隊で間違いありません」
「暗殺部隊を暗殺したのか。それも凄いな!!でっ、シーザリオを狙っていたの?」
「そこは分かりかねますが、おそらく、シェイディ様とシャカール様を狙って、エアディドールの城を見張っていたところ、私たちが城から出てきたので追ってきた。そんなところではないでしょうか?私はすでに王家に対して、筆頭魔術師としての地位を返上し、エアディドールに味方をするという書状を送っていますからね」
「こいつら、シーザリオの顔は知ってるんだろ?警戒が厳しく、二人に手が出せない所に、裏切り者の王家筆頭魔術師が、のこのこと姿を現した。手ぶらで帰る事もできないので、せめて、シーザリオの首を狙ったというところか」
「その通りかと」
「シーザリオの首を狙うとは、許せんな」
俺は火魔法を放ち、死体を数秒で灰にする。
「これで魔物も寄ってこないだろう」
「ふふふっ、その通りです。この世界の常識を理解されてきましたね。それにしても、威力がえげつないですが…」
「まあ、暗殺者をじっくり直火焼きにする趣味はないよ。一瞬でいいんだよ、一瞬で!!面倒だしな。でっ、ストーム、他の仲間は?」
「すでに、女子供は島に渡っております。私たちも、一旦、島に渡ったのですが…」
「どうした?」
「島全体に妙な気配が立ち込めていて、安易に森に立ち入られない状態なので、ハヤト様に報告をと思い、参上いたした次第であります。それに、島民も相当不安がっており、シーザリオ殿の家臣であるウララ家の人たちからも、シーザリオ殿にお伝えするように頼まれておりました」
「妙な気配、魔物とか魔獣の類?」
俺はシーザリオの顔を見る。
「魔物とか魔獣は、普段、森の中から出てきません。島のほとんどが森で覆われている上に、森には魔力が満ち溢れ、食べ物も豊富なので、あえて森から出る必要が無いのでしょう。それでも稀に、縄張り争いに敗れた個体が人里に侵入して、人間を襲う魔物や魔獣が現れます。各個体が相当の強さを誇るため、強烈な印象に残りますが、実際には人が森に侵入しなければ、ほぼほぼ実害はないのです」
「そうなのか…。以前にも似たような事はなかったのか?」
「私が島の主になって以来、初めてです。グランを思い出していただければ、お分かりになると思うのですが、魔獣は魔力を食べれば、人間など襲わなくても生きていけます。人間より魔力のほうが美味しいのでしょうね。なにかしら、森の中で変化があったのかもしれません」
「なにかしら、か…。想像はつかないのか?」
「………考えられるところでは『森の中の生態系のバランスが崩れた可能性がある』といったところでしょうか。島民が心配です。FCLが帰還したら、直ちに島へ渡れる準備を整えておきます」
「あぁ…頼む。みんな、ご苦労だったな」
俺はクロカゲたちに、ちゅーちゅを渡す。
「ところで、最近リバティの姿を見かけないんだが…」
「リバティなら、リスグラシュー殿に報告する事があると言って、今はエアディドールの城にいるものと思われます」
「あぁ…なにやら、人材確保がどうのこうのと言ってたな。でっ、いい人材は見つかったのか?」
「なかなか難しいですね。私たちが声をかけても、人間は警戒して、まともに話を聞いてくれません。例え、話を聞いてくれたとしても、シーザリオ島に移住となると、皆、露骨に嫌がります。ただ、30人ほどの兎人族を説得して、島へと連れて行きました」
「兎人族!?初めて聞く種族だな。シーザリオ、知ってる?」
「はい。非常に大人しく人間に対して友好的、なにより争い事は好まない平和的な種族です。主に農業に従事して生計を立てる者が多く、島の農業、食糧事情を改善していくには、役に立つと思われます。ただ…」
「ただ…なに?」
「寿命が50年と、人間より短いのですが、その分………繁殖力が非常に強く、ボコボコと子を作ります。本当にボコボコと子を産むのです」
これにはストームも『確かに…ボコボコと子を産みますなぁ…。ボコボコと…』と、苦笑いをする。
「そんなに子だくさんなのか。でも、俺、見た事ないんだが…」
「普段は森の中で生活してますし、基本、我々と同じく、食物連鎖の下位に位置していますから、子だくさんと言っても、魔獣、魔物に襲われ、命を落とす者も多いのです。まあ、だから子だくさんになって、バランスを保っているのかもしれませんけどね」
「そういう事か…ありがとう。俺たちはダムに向かう。ストームたちはみんなが心配だろう。島へ戻ってくれ。俺たちも準備が整い次第、すぐに向かうから」
「はい」
ストームたちは再び黒猫の姿に変化し、闇の中へと消えていくのであった。




