第176話 空も飛べるはず!!
話で聞いていた通り、巨大なダムには水がほとんどなく、干上がっていた。
「シーザリオを連れてきてよかった。一人でダムを満水にするには、どんなに時間がかかるのか、想像もつかないよ」
「はははっ、二人でも、なかなかの重労働ですよ」
「まあ、エアディドールが攻め落とされても困るからな。頑張るとしよう」
俺とシーザリオは二人寄り添って、堤防の上に腰掛ける。
「では、やりますかっ!!」
「はい」
両腕を前に伸ばし、手の平から大量の水をダムに流し込む。
「おっ、さすがは水魔法Sランクだね。水の供給スピードが半端ないな。俺は水魔法はAランクだから、シーザリオには敵わないよ」
「いやいや、そもそも魔力量が段違いです。総量では圧倒的にハヤト様に軍配が上がりますよ。しかし…このままのペースでは、いつになったら満水になるのか分かりませんね」
「まあ、夜は長い。のんびりと行こうじゃないか」
「そう…ですね。二人きりになれる時間なんて、滅多にありません。お恥ずかしいですが、この際、思いっきり甘えさせていただきます」
俺の肩に頬を乗せて微笑むシーザリオ。
両手を使って水を供給しているので、抱き寄せられないのが残念。俺はシーザリオの髪にキスをする。
二人より添い、水を供給する事、三時間。
「………さすがに、飽きてきたな」
「…はい。ですが、まだ半分も溜まっていません。もうすぐ夜明けです。どうしましょうか?」
「力技だな」
「!?」
「水を作り出す事に関しては、シーザリオのほうが上だ。俺がシーザリオの体内に魔力を供給するから、その魔力を使い、水の供給スピードを上げてくれ」
「分かりました。では…」
シーザリオは立ち上がる。
俺はシーザリオを後ろから抱きしめて、体を密着させる。二人の体を一体化させる事により、魔力を体内に流し込んでいく。別に、後ろから抱きしめて体を密着させなくても、背中に手を当てれば魔力を供給できるのだが、そこは察してほしい。
「あぁ!?ハヤト様が私の体の中に溶け込んでくるような感覚。体が熱い!!…とろけて………しまいそうです」
「大丈夫だよ。心配しないで、俺を信じろ」
「は、はい。では…魔力をフルパワーにして、水を供給していきます」
二人の体が光り輝く。
圧倒的な水量がダムに流れ込んでいくと、ものの数分で満水になった。
俺は風魔法を使い、ダム周辺の大木を切り倒す。
「ハ、ハヤト様…なぜ?」
「もし、シェイディが戦術としてダムを決壊させるのなら、水だけじゃなく、この流木も凶器となって、敵兵に襲いかかる」
「………えげつないですね」
「相手も殺すつもりで来るんだろ?仕方が無い」
「ですね」
「帰るとするか」
「………申し訳ありませんが、しばらく歩けそうにありません」
「そっか…じゃあ」
俺はシーザリオをお姫様抱っこする。
「ハ、ハヤト様!?………重くないですか?」
「あはははっ、心配するなって!!軽いよ!!」
「本当に申し訳ありません。城までかなりの距離があります。回復したら、自分の足で歩きますので…」
「歩く?歩かないよ」
「えっ!?歩かないとは?」
「こうゆう事だよ!!」
地面を軽く蹴り上げ、俺はそのまま宙に浮く。そして、滑るように空中を移動する。
「と、飛んだっ!?あわわわっ、ハヤト様!?」
「慌てるなって!!落ちちゃうぞ。シーザリオは大人しくしていれば問題ない」
「で、でも、いつから飛べるようになったのですか!?」
「今、初めて飛んでみたんだ。空気中には微量の魔力が存在し、人間は体内に取り込んでいるんだろ。イメージとして『その空気中に漂っている魔力の上に乗っかり、滑って移動する』感じだ。意外と簡単だった。シーザリオもやってみる?」
「いやいやいや!?無理ですよ!!落っこちて死んでしまいます!!」
「そうか?それなら、もっとイメージを膨らませればいい。空気中に漂っている魔力の上に乗っかるイメージの他に…そうだな、空気中の魔力と、自分の体の中にある魔力を繋ぐイメージを思い浮かべれば、より簡単に飛べる可能性があると思うよ」
「………そんなに簡単にいくものなのでしょうか?」
「普通の人間より、圧倒的に体内に魔力を蓄えているシーザリオなら、できるんじゃないかな?やってみる?」
「は、はい。イメージしてみます」
シーザリオは目を閉じて集中する。
「じゃあ、離すよ」
「は、はい」
手を放すと、真っ逆さまに落ちていくシーザリオ。
「ぎゃあぁぁぁ~~~!?!?!?」
「あっ!?やべっ!!」
俺は全速力でシーザリオを追い、再び抱きかかえる。
「し、死ぬかと思いました!!やっぱり、私には無理です!!」
「まだ、分からないだろ?よくよく考えてみれば、今、シーザリオの体内の魔力が枯渇した状態だったじゃないか。だから、上手くいかなかっただけかもしれない。ほら、魔力をあげるから、もう一度やってみよう」
半泣きで俺を見つめるシーザリオに口づけをし、そのまま体内に魔力を送り込む。
「キスする必要があったのですか?」
「ないな。嫌だったか?」
「いえ、これからは、ハヤト様の唇と舌から、魔力を頂く事とします」
「構わないよ。でも、舌でいいのか?もっと違う物を入れて…いや、なんでもない」
「……………」
恥じらうシーザリオ。
俺も自分で言ってて恥ずかしくなる。
「じゃあ、もう一度!!」
手を放すと、シーザリオの体は不安定ながらも、空中に浮かぶ事に成功した。
しかし、上手く飛ぶ事ができない。浮かぶ事だけで、前に進まない。
俺は再び、シーザリオを抱きかかえる。
「………う、浮きました。私、浮かびましたよ!!空中に浮かぶ事が出来ました。信じられない!!こんな事…考えた事もありませんでした。本当に信じられません!!」
興奮状態のシーザリオ。顔が紅潮している。
「ふふふっ、やったな。今まで考えた事が無かったから、できなかっただけじゃないかな。シーザリオが上手く飛ぶ事ができるようになったら、二人で大空を滑空しよう。気持ちいいぞ!!」
「はい!!喜んで!!」
俺はシーザリオを抱いたまま、空からエアディドールの城へと戻るのであった。




