第172話 ゼニヤッタ会長
エレオノーラがトイレに入っている間、俺とゼニヤッタは二階に上がる。
「ここのスペースには在庫を置くとして…」
嬉しそうにレイアウトを決めていくゼニヤッタ。
「ここは…ウチの部屋や」
「じゃあ、会長室でいいかな?」
「か、会長室って!?」
「ゼニヤッタ商会だろ?会長室だろ、普通。嫌なら、会頭、代表って呼び名も考えられるけど…俺的には会長が一番しっくりくるかなぁ」
「会長…会頭…代表………そ、そやな!!ウチも会長が一番しっくりくるわ!!」
「おう!!頑張れよ。ゼニヤッタ会長」
俺はプレートを作り、ドアに掲げる。
「おぉ…なんか、カッコええね!!」
「だなっ!!じゃあ、こっちの部屋は応接室でいい?」
「う~ん…二階にはお客さんを上げるのは、やめとこうと思うねん。あくまで、ウチと従業員のスペースにしたい。どうせ、在庫とかで散らかってしまうと思うねんからね。一階にまだ部屋があったやん。そこを応接室にするわ」
「了解。じゃあ、この部屋は、いっその事、風呂にでもしてしまおうか?やっぱり、疲れた時はポーションもいいが、風呂に入って、リラックスしたいもんな」
「風呂!?い、今、風呂って言わはりました!?」
「言ったけど?」
「店舗に風呂!!お貴族様やん!!!!!」
いきなりテンションMAXのゼニヤッタ。
「簡単だぞ。魔石に水魔法と火魔法を付与させて冷水と温水を出すだろ?24時間、いつでも入れるように、バスタブにも浄化の魔法を付与させた魔石を取り付けておく。さらに、排水溝にも浄化の魔法を付与させた魔石を取り付けておくと、環境にもばっちりだ」
要領を覚えた俺はサクサクと作業を進め、部屋をバスルームに改装していく。
「よし!!シャワーを取り付けたら完成だ!!」
「ほえぇ~!!」
唖然としながら、作業を見守っていたゼニヤッタ。
「ほら、温水が出るぞ」
「さわってみてもええのかな?」
「当たり前だ」
「…ほな。あ、熱っ!!!!」
「はははっ、熱かったか?そしたら、ここのレバーを調節したら、水温を調節できるからな。お好みの熱さにして入ってくれよ」
「ホンマ、おおきに!!」
大感激でゼニヤッタが抱き着いてきた。
(ふふふっ、何人かで入って、一緒に楽しめるように、バスタブや洗い場を広くしておいたからな。いつの日にかは…ぐふふふっ)
俺はゼニヤッタを抱きしめながら、不埒な妄想をするのであった。
☆★☆
トイレから飛び出してくるエレオノーラ。泣いている。
「もう、ここ以外のトイレには入れないです!!」
「せやろ?もう…入られへん!!」
「無茶を言うなって。よく考えてもみろ。二人とも、この建物の中に引きこもって仕事をするわけじゃない。普通に考えて、外出した時にトイレを我慢するなんてできないから。作った本人としては、喜んでくれて嬉しくはあるが、感動するのもほどほどにしておかないと、後が辛くなるよ」
「…そうなんやな。ウチら、どないしょう?」
絶望するゼニヤッタとエレオノーラ。
それでも『ウチはハヤトはんからもらったペンダント、宝魔石があるさかい、悪臭は消せるから、まだマシなんやけど…エレオは………頑張りや!!』と、勝ち誇った顔で言うゼニヤッタ。
「ゼニヤッタさん!?ペンダント…消臭………宝魔石!?それって…」
上目づかいで俺の顔を見つめるエレオノーラ。ヤバイ。なかなかの破壊力。
「まあ、エレオノーラの働き次第で、売ってあげてもいいと思う。そこはゼニヤッタ、いや、会長が判断してくれ。俺は関わらん!!」
間一髪のところで、俺は踏みとどまる。
(エレオノーラもクールなバリキャリ女子という雰囲気を醸し出しながら、しっかりと女の武器を使ってくる。要、警戒だな。俺の身と心が持たないよ。いや…待てよ。俺がチョロいだけなのかもしれん。気を付けなければ…)
気を引き締め、一線を引く俺に、エレオノーラは素直に諦める。そこらへんはわきまえているようだ。助かる。
しかし『ゼニヤッタさん、いえ、会長!!私、バリバリ働きますから、絶対に売ってくださいよ。その宝魔石』と、気合を入れて言う。
「ハヤトはんの許可も出たし、かまへんよ。でもな、従業員割引を適用しても…」
ゼニヤッタがエレオノーラの耳元でゴニョゴニョと囁く。
「なっ!?えっ!!………無理です…よ」
「これはお貴族様から、ぼったくりにぼったくる商品なんや。まあ、実際にそんだけの価値は、あるねんけど。働き次第によってはローンも認めるさかい、頑張りや!!」
俺はエレオノーラの絶望的な顔を見て『どんな値付けをしてるんだ?』と不安になるが、ここは商才豊かなゼニヤッタに口出しはしない。
ただ…
「ゼニヤッタ。部下に気持ち良く働かせるのも、上に立つ者の務めだぞ」
そう助言する。
まあ、実際の仕事で部下を持ったことが無いので、聞いただけの話…なのだが。
「ふっ、分かってまんがな、分かってまんがな!!なにも心配する事あらへん。エレオノーラは黙ってウチについてきたらえぇ!!路頭には迷らせへん」
ニヤリッと笑うゼニヤッタの顔が、あくどくも頼もしく見える。
(これが豪商の片鱗っていうやつなのかもしれない)
エレオノーラの肩を叩き、胸を張るゼニヤッタを見て、俺は一安心をするのであった。
【ゼニヤッタ視点】
エレオを連れてトイレまで来た。
「さあ、使い方を説明するさかい、思いっきりキバりいやぁ!!」
「……………」
迷惑そうな顔をするエレオを強引にトイレの中に入れる。
「………なんですか?…これ………」
「見て分からんか?トイレやがな」
「私の知っているトイレと全然違うんですけど…」
「話、聞いとったんか?異世界と魔法のハイブリッドトイレやがな」
「ハヤト様が異世界人だと噂では聞いていましたけど、本当だったんですね」
「まっ、大ぴらにはしとらんけれども、本当や。エレオもハヤトはんに仕えるんなら、黙っときや。ハヤトはんの周りには、えらいおっかない人もいるさかい。キレたら、なにされるか分からへんで!!」
「………あの…グルーヴ様も、ハヤト様に夢中だとか…嘘ですよね?」
「本当や。すでにシャカール様とは離別したらしい。エアディドールの名も捨てられ、ハヤトはんと共に、シーザリオ島に渡られる。エレオもこの先、顔を合わす事があると思うんけども、恐ろしいでぇ~!!」
「………本当なんですね。真面目な話、プレッシャーでお腹が痛くなってきました」
「ここトイレや。ちょうどいいやん」
「………ですね」
「使い方を教えるさかい。出すもん出しときや!!スッキリするでぇ!!」
ウチはトイレの使い方をエレオに教えてハヤトはんの元へ。
一緒に二階へと上がる。
「この大きなスペースは、在庫置き場でええな」
おおまかなレイアウトを決めていく。
自分が仕入れてきた物が、所狭しと置かれているところを想像すると、胸が躍る。
(ふふふっ、補充も二階から下ろすとなると大変やでぇ。それに、ハヤトはんのポーション。売れすぎて、在庫が足りんくなったら、どないしよう。エアディドール家御用達のお墨付きももろうたし、儲かって儲かってしゃあないでぇ!!ぐひひひっ!!)
ウチの笑顔を見て、ハヤトはんが隣で、引き気味な顔をしている。
(おっと、いけない。内なる思いが顔に出てしもうた)
顔を引き締め直し『ここは、ウチの部屋やな』と、ドアを開ける。
まだ、なにも置いてはいないが、十分なスペースが確保されていて、机を置いてどっかりと座る、自分の姿を想像する。
(ぐっ…ぐひひひっ………いかん、笑いが漏れてまう)
漏れ出しそうな笑いをかみ殺していると『会長室でいいかな?』という、ハヤトはんの声が聞こえてきた。
(会長室…誰が会長やねん!?………ウチかっ!!)
思わず『会長室って!!』と、ハヤトはんにツッコミを入れてしまう。
夢見心地で顔がニヤケていると、ハヤトはんがプレートを作って、ドアに掲げてくれた。
重厚なドアに掲げられた『会長室』というプレートを見ると、甘い想像など吹っ飛び、重圧が押し寄せてくるのを感じる。
(ハヤトはん、ウチのために、ここまでしてくれるんや。めっちゃ、嬉しいやん!!絶対に損はさせられへん!!この恩は、女性として身と心、そして商人として、莫大なお金で返しますわ。見といてんか!!)
お風呂を設置しているハヤトはんの背中を見つめながら、ウチは決意を新たにするのであった。




