第169話 物件選び
みんなが着替えを済ませ、ダイニングへ戻ってきた。
俺は『やっと飯が食べられる』と安堵するが、そんな事は口にはしない。
「それにしても華やかになったね。とても綺麗だよ」
一人一人を見つめて笑顔を振りまくと、みんな満足そうに微笑む。
「冷めてしまったけど、頂こうか…」
俺の言葉に『ハヤト様、お待ちください』と言うナナ。そしてナナが手を上げ合図をすると、配下のメイドが鬼の速さで料理を交換していく。
「さ、流石です!!やっぱり、エアディドール家のメイドさんたちの動きは勉強になります」
アパパネが感嘆の声を上げる…が、しかし『ふふふっ、このくらいの動き、もはやアパパネさんにも出来るはず。もし私がエアディドール家にそのまま残るのなら、確実にアパパネさんの引き抜きに動いたのは間違いありませんよ』と、ナナが言う。
「ナナから見て、アパパネはそんなに成長して見えるのか?」
「はい。つい先日、指導をはじめたばかりですが、砂漠が水を吸収するかの如く、驚くべきスピードで、教えを吸収して自分の物にしていっています。ふふふっ、このままのスピードで成長していけば、私もうかうかしてはいられません。彼女を見ていると、自分自身もさらに成長しなければと考えさせられます」
「そ、そんな!?私なんてまだまだですよ」
「そんな事ありません。今まで私が指導した中で、抜群の才能と成長力を持っています。このまま素直に成長していけば、超一流の給仕やメイドになれることでしょう」
顔を真っ赤にしているアパパネだが、かなり嬉しそう。
「ナナさん!!ナナさんはグルーヴ様と一緒に、ハヤト様に付いて来られると聞きました。ベガのお手伝いもしてくれると聞いています。ぜひ、これからも私に厳しい指導をお願いします」
「そうですね。ですが、あくまでも私はグルーヴ様とハヤト様にお使いするメイドで、ベガはお手伝い程度の事と聞いています。指導は構いませんが、やはり、ハヤト様とジュリアさんの許可が必要となります」
「構わないよ」
「ナナさん。アパパネちゃんだけではなく、私にも指導してくれると助かるわ」
断る理由はない。俺とジュリアは快諾する
「ハヤト様、ジュリアさんがそう言ってくださるのなら、お引き受けいたします。アパパネさんに、私の全てのメイド道を伝授いたしましょう。覚悟はいいですね?アパパネ!!」
「はい!!ナナさん。いえ!!師匠!!」
アパパネに師匠と呼ばれ、一瞬、驚きの表情をしたナナだったが、すぐに笑顔になる。
周りは温かい目で二人を見つめているが、俺は『変な性癖まで教えないでくれよ』と、願わずにはいられないのであった。
★☆★
次の日、俺は平謝りのゼニヤッタと合流し、物件選びへと向かう。
「いやぁ~~~、ハヤトはん。ウチのスケージュールの都合で待たせてもうて、本当に申し訳あらへん。食いついてきた貴族とのディールの予定が入ってまして、でも、そのおかげで、相当ボッタ食ってやりましたから!!ぐひひひっ!!」
頭を下げながらも、お下品な笑いが抑えられないゼニヤッタ。
さらに謝りながらも『すいまへんでした。でも、そんな事より、あのドレスも商品に加えたいですわ。考えてくれはりませんか?』と、交渉してきた。たくましい。
「う~ん…止めておくよ。簡単に請け負うと、仕事がどんどん増えていきそうだからな。みんなのために作るのは構わないが、俺は基本、のんびりと過ごしたいと思っているんだ」
「ハヤトはんにそう言われてしもうたら、諦めるしかないですわ。でも、ウチにも作って頂けるとは…」
そう言って、ゼニヤッタは表情を一転させて、俺の腕にそっと腕を絡ませてきた。美人は卑怯である。
寄り添う二人。ちょっとしたデート気分。
しかし、残念な事に、すぐに大通りに面した物件に到着してしまった。
エアディドール家の使用人(キリっとした顔で、いかにも仕事が出来そうなキャリアウーマン的な雰囲気の女性。バリキャリ女子)に説明を受ける。
「立地はいいんじゃない?この通りはエアディドール領の中でも一番の賑わいがある場所らしいし…」
「はい。それは間違い無いと思いますわ。集客性も抜群やと思うねんけど…」
「どうした?」
「…ここ、エアディドールの中心地でっせ!?こんな一等地の建物を購入する資金、あるわけないやん!!いくらハヤトはんでも、払える金額ちゃいますよ?賃貸にしたって、固定費だけでアップアップやでっ!!ハヤトはん!!そこんとこ、分かってはります?」
興奮気味のゼニヤッタ。頭を抱えている。
「ご安心ください。ここの土地、建物はエアディドール家所有の物でございます。主、シェイディより『格安でお譲りするように』と言われておりますので、ご懸念は無用でございます」
その言葉に素早く反応するゼニヤッタ。
少しいぶかしげな顔をして『格安って…なんぼなん?』と聞く。
「そうですね…購入という事ですと………30億エンくらいでしょうか?」
「30億って!?」
ゼニヤッタは思わずのけぞる。
「払えるわけあらへんよ。ち、ちなみに…賃貸だと、月、なんぼなん?」
恐る恐る聞くゼニヤッタ。顔面蒼白。
「3万エンで」
「安っ!!ここに決めるわ!!ハヤトはん、絶対ここや!!」
店を持つという夢がかなった瞬間、ゼニヤッタは大はしゃぎで、俺に抱き着いてきた。
「落ち着けって、まだ一件目だぞ」
「ここでええよ!!ここしかあらへん!!」
俺の言葉も聞く耳をもたない。テンション上がりすぎ!!
「私のほうからも、ここが最高の立地かと思われますので、この物件をお勧めいたします」
「せやな!!おおきに!!」
バリキャリ女子に向かって手で合図をして、ゼニヤッタは大はしゃぎで建物の中に入っていくのだった。
【依頼へと向かうFCL…終】
ファレノプシスが、グルーヴが切り倒した木に近づいていく。
「長さ、約25mくらいですか…。どうやって運ぶか………考えてなかったわ」
アレグリアがコケる。
「リ、リーダー!?運搬方法を考えてなかったって、嘘でしょ?」
「本当よ。初めはエアディドールの大型馬車を借りる事を前提に、計画を練ってたのよ。ギルドに寄った後、馬車を手配していた場所に向かう予定が、勢いでグランの背中に乗って来てしまったから…」
「…そうなんだ。でも、あの状況なら仕方ないわね。とてもグランを止められる雰囲気じゃあ無かったしね」
二人は腕組みをしながら、倒木を見つめる。
「一本、丸ごと納品しなければならぬのか?」
グルーヴの問いに…
「あっ!?確か、書いてあったような気がする」
慌てて依頼書を取り出すファレノプシス。
「やっぱり、書いてあったわ。依頼書によると、幹の根元に近い部分を、出来得る限り、傷が無い状態で納品してほしいそうですね」
「うむ…グランよ。この木。どのくらいの重さまでなら運べるかの?」
グルーヴは、爪とぎしているグランに尋ねる。
「別に一本そのまま運べるよ。でも…長すぎて運びにくいのかなぁ~」
「あぁ…ハヤト様にマジックバッグ借りてこれば良かったわね」
「ウオッカよ。あれはハヤト様だから使いこなせるのじゃ。我々では魔力不足で使えまい」
「そっかぁ~、どうする?リーダー」
「幹の根元に近い部分という明確な指示があるから、グランが運びやすい長さに切って、その部分だけ持ち帰りましょう」
「うむっ、現実的な対応じゃな」
「じゃあ、グラン。ロープで両脇に固定して運ぶとして、どのくらいの長さなら無理なく運べるのか、印をつけてくれる?」
「は~~~い!!リーダー!!」
グランが鋭い爪を立て、倒れた大木に印をつけていく。
「では、グルーヴちゃん。よろしく!!」
「うむっ!!」
再びイカズチを抜くグルーヴ。
今度はいとも簡単に剣を振って、大木を切っていく。
「グルーヴちゃん、今度は簡単に切ったね。さっきは、かなり集中してたと思うんだけど…」
「ふふふっ、一度切ってしまえば、要領をつかむ事は容易じゃ。手に感覚が残っておる。ウオッカよ、何事も、経験が大切というわけじゃな」
「さすがは、グルーヴちゃん。勉強になります」
全員で切られた大木にロープを括りつけ、グランの背中に吊るして、体に固定していく。
「なんか…カッコいい!!ねぇ、グラン、カッコよくない?」
両脇に大木を携える形になったグランがご機嫌になる。四人でなんとか持ち上げられた大木、それを二本も両脇に吊るされているグランだが、軽々と身を動かして、楽しそうにジャンプを繰り返す。
「グラン、暴れすぎよ」
アレグリアが諫める。
「まるで、暴れ馬…いや、暴れフェンリルじゃの…」
グルーヴは苦笑い。
「あぁ…せっかく吊るしたのに落ちてしまう。グラン、落ち着きなさい」
「そうよ。もう、こんな大木、持ちたくないわ」
ファレノプシスとウオッカが必死でグランを落ち着かせる。
「ふふふっ、これで依頼は終了ね。予定より一日短縮できたから、帰りはゆっくりでいいわよ」
「…ふぁ~~~い。リーダー、了解であります」
ゆっくりと聞いて、気の抜けた返事をするグラン。少し物足りなさそう。四人を背中に乗せ、ゆっくりと山道を下るのであった。
☆★☆
「急げば今日中にエアディドール城まで戻れるとは思うけど…どうする?」
「まあ…急ぐことはあるまい。一泊しても、明日の昼過ぎには城に着く。ここらへんで休むとしようではないか」
ファレノプシスの問いに、グルーヴが答える。
「グルーヴちゃん、結構、冒険者を楽しんでるでしょう!!」
「ふふふっ、そう見えるか?」
「見える!!」
「実際、その通りじゃ。生活魔法が使え、美味しい食事も取れる。疲れを癒すポーションの効果も半端ない。致せり尽くせりじゃな」
「ですよねぇ~!!でも、生活魔法でクリーンが使えるとはいえ、グルーヴちゃん!!ここで休もうと言ったのは…温泉!!でしょう?」
「分かるか?」
「分かるよ。匂うもん!!」
「ふふふっ、実はな、ここにはエアディドールの秘湯があるのじゃ。どうじゃ、皆で入って行こうではないか?」
『秘湯!?賛成!!入って行こう!!』
「グランよ。この脇道に入っていくのじゃ。しばらく歩けば、温泉が湧き出しておる」
「は~~~い!!温泉、グランも好き。グランね、温泉でご主人様に救われたの。だから温泉大好き!!」
「はははっ、そうだったわね。温泉を出てハヤトを待っていたら、いきなりグランに乗って現れた時には、ビックリしたけどね」
「えへへへっ、まだグルーヴちゃんはいなかったけど、みんなと、そこで出会えた。グラン………今、幸せ!!」
目を閉じ微笑を浮かべる四人。グランの背中を優しく撫でる。
ゴツゴツとした岩が現れ始めると、間もなく湯気が立ち込めてくる。
「エアディドールの秘湯中の秘湯ゆえ、脱衣所などは整備されておらん。まあ、覗く輩もいないゆえ、安心して裸になるがよい」
そう言って、グルーヴは恥ずかしげもなく服を脱ぎ捨てていく。
「………やっぱり、グルーヴちゃんのおっぱい…大きい」
「アレグリアよ。そんな至近距離で見つめるでないわ。さすがに恥ずかしいではないか」
アレグリアにまじまじと胸を見られ、顔を赤らめながら、両手で胸を隠すグルーヴ。
「大きさなら、私も負けないわよ」
ウオッカが争うようにグルーヴの隣で胸を揺らす。
「二人とも大き過ぎね。普段はいいとして、戦闘になった時、胸が邪魔をして、動きが鈍りかねないわ。私くらいの大きさが一番いいのよ」
「………リーダー。負け惜しみですか?」
ウオッカが『これでもかっ!!』と胸を張り言う。
「ふんっ!!なにが負け惜しみよ。ウオッカ、あなたの乳首、少し大きくない?」
「大きくないわよ!!」
「そう?私のほうが綺麗だわ」
「ぐぬぬぬっ!!」
苦笑いのアレグリアだが『やっぱり、ハヤトも10代の胸が好きなんじゃないかしら。私の胸はグルーヴちゃんやウオッカさんはともかく、ファレノプシスさんよりも小さいけど………張りが違うわよ。張りが!!』と、まだ78cmの胸を張る。
『!?………若さをひけらかすな!!!!!』
一瞬で鬼の形相に変わる三人。
しかし…
「知ってる?ハヤトは尻派なのよ。し・り・派!!!!!」
アレグリアはそう言って、挑発するように後姿を見せつける。
「どう?10代のお尻は?プリプリでしょ?」
「なにがじゃ!!まだ青臭いわ!!見るがよい。成熟した大人のお尻を。色気が湧き出してきているであろうが!!」
対抗するようにグルーヴがお尻を突き出す。
「グルーヴちゃん。ハヤト様の美肌ポーションが無かったら、結構…垂れてたんじゃないの?」
「そうよね。美肌ポーションが無かったら、胸もお尻も、垂れてたに違いないわ」
「うふふふっ、だって、グルーヴちゃんは、私の倍以上の歳だものね」
ウオッカとファレノプシスにアリグリアが乗っかかり、グルーヴを挑発する。
『ぐぬぬぬっ!!!!!』
お尻を突き出し、いがみ合う四人。
だが…
「………ねえ、裸でなにやってるの?早く温泉に入ろうよ。風邪ひいちゃうよ?」
呆れ顔のグランに諭される。
『………なんか…ごめん』
四人は急に我に返り、顔を赤らめる。
「では、エアディドールの秘湯に浸かり、体を休めようではないか。のう、リーダー」
「そうですね。ウオッカさん。温泉から出たら、残りの食事、全部食べてもいいわよ」
「本当かっ!?さすがはリーダー、ファレノプシス。愛してる!!」
ウオッカが興奮して、後ろからファレノプシスに抱き着く。
「結局、最後はウオッカさんの食い気がオチなのね」
アレグリアは苦笑いを浮かべながら、温泉へと向かうのであった。




