第167話 エアディドール家の女性は全裸がお好き?
朝食を終え、再び部屋へ。
残念ながら、急遽、内見の予定は明日にずれ込む事になってしまった。なにやら、ゼニヤッタの話によると『断れない金額を提示されてもうった!! 』との事。俺は『そっちを優先させて』とスケジュールを変更する。
仕方なく、俺はメサイアから大量の小さな魔石をもらってきた。
島民100人位の島への移住になる事を考えれば、今まで以上に不自由な生活になる事が考えられる。だから今のうちに、洗練されてきた魔法の能力を駆使して、生活必需品の製作に取り掛かろうと決めた。
みんなが頑張っているので『俺も頑張らなければ、申し訳ない』という思いが強い。
本心では、のんびり過ごしたいとの思いが強いのだが『今、頑張れば、後々楽できるから!!』と、無理やり自分に言い聞かせて作業の準備をする。
幸い、魔法を使えば、無から有を作り出せる。
(生活魔法で対応できるものも多い。それ以外、となると…やっぱり、トイレだろう。今までは異世界の生活に順応しようと我慢してきたが、いつまでも『ぼっとん便所』ではキツイ。この際、前世の仕様、いや、それ以上のトイレを作ってやる!!)
俺は便器を作り出し、次に水魔法を付与した魔石を作り、さらに浄化を付与した魔石を作り出す。一回一回の魔力の使用量は少ない。結果的に小さい魔石を用途に応じて分けるほうが現実的。魔石の大きさによって魔力を溜められる量が違い、値段も当然ながら、大きくなるほど高くなるからだ。最後に魔法を付与した魔石をボタンのように、便器にはめ込み設置完了。
(よし。試作品だが、完成した)
俺は部屋を抜け出し表に出る。
人気のない場所を探して歩き回っていると、海が見渡せる絶好のロケーションを発見。マジックバッグから便器を取り出す。
海から吹き寄せる潮風が心地よく、俺はリラックスして便器に座り、用を足す。
(快便、最高や!!って、そうじゃない!!機能を確かめないと…)
水魔法と浄化の魔石ボタンを押す。すると、排泄物が水に流され、お尻になんともいえない爽快感が走り、便器の下からは『飲めんじゃね?』と思うほど、浄化された綺麗きれいな水が排出された。
(………これ、環境に配慮した最高のトイレかも。排泄物も浄化され、匂いもない。掃除の必要もないし、もうこれ、試作品じゃなくて完成品でいいんじゃないか)
俺は調子に乗り、頭に思い浮かんだ生活に必要であろう物を、次々と作り出していく。別にDIYが特に好きでもないのだが、魔法で思い描いた通りの物がいくらでも無尽蔵に作り出せるのだ。楽しくないわけが無い。
(凄ぇ~な…俺。想像できる範囲なら、ありとあらゆる物を作り出せるぞ。確か創造や生産の能力が高かった事も関係しているのだろう。ふふふっ、これでシーザリオ島に移住したら、思い描いた通りの理想的なスローライフが送れることになるだろう!!)
最後に刀を作り出し『俺は刀術がSSSなのだよ。逆らうものは切り伏せる!!』と腰にぶら下げて悦に浸る。
「まっ、今は、このくらいでいいかな?」
一通り作り出し、マジックバッグに収めたところで、すでに日が暮れかけている事に気づく。俺は急いで部屋へと戻るのだった。
★☆★
ダイニングへ入っていくとリスグラシューから『その腰の物はなんでしょうか?』と聞かれる。
「ふふふっ、刀だ」
「刀?」
「そうか…この世界には剣はあるが、刀は無いのか」
俺はなぜ、存在しない武器の才能がSSSなのかと考えるが『あの創造神様、やっぱり、かなりいい加減なのでは?』と不信感を募らせる。
「これは異世界の武器。特に俺が生まれ育った国で使われていた武器だ」
「そうなのですか…それをどこから調達したのですか?」
「ないのなら、作ってしまえばいいじゃない!!当然、自ら作り出した。こんなふうに!!」
俺はリスグラシューのために、包丁を作り出す。出刃包丁、刺身包丁、オールマイティーに使える三徳包丁などなど。
「リスグラシュー、使ってくれ。用途に応じた包丁だ」
「あ、ありがとうございます。宝物にします」
「いや、宝物にはしなくていい。包丁は使ってなんぼ。消耗品として使ってくれ」
「分かりました。大切に使わさせていただきます」
嬉しそうに包丁を手に取るリスグラシュー。これで一段と料理の質が上がってくれると、俺も嬉しい。
「もう、なんでもありですね」
「なんでもあり。それが魔法だろ?」
「………確かに、そうなのですが。明らかにハヤト様は異常です。このペンダントだって、普通では考えられません」
「普通では考えられない…か、前にも言っただろう?その考え方が魔法の使い方を限定的にしているんじゃないか?イメージの世界って言っただろう?頭の中のイメージなんて無限大だ。シーザリオ、もっと自由な発想でイメージを広げてみたら、より一層、魔法の可能性が広がるんじゃないかな?」
「………自由な発想…ですか…」
目を閉じ、考え込むシーザリオ。
「例えば…シーザリオは水魔法が使えるよな。極限まで水に加圧を加え、針のように細くして、音速を超えるスピードで指先から噴射する。すると、どうなると思う?」
「…どうなるのですか?」
シーザリオは目を開き、興味津々とした顔で聞いてくる。
「ふふふっ、ほぼ、すべての物質を切断できる!!」
「!?………ほぼ、すべての物質を………切断…ですか?」
「そうだ。シーザリオの水魔法の攻撃を見ていると、水を圧縮して相手にぶつけ、ダメージを与える。あまり、それ以外のバリエーションがないよな」
「はい。残念ながら…」
「打撃に加え、切断もできるようになれば、戦術の幅が広がる。そう思うだろ?」
「は、はい。ハヤト様、ご助言、ありがとうございます。自分なりに考えて、水魔法を使い切断ができるよう修練を積みたいと思います」
指先を見つめて、シーザリオはイメージを膨らませる。
「ハヤト様は異世界人。この世界の人間には、おおよそ考えつかない事を思い浮かべる能力が備わっているのかもしれませんね」
「確かにそれはある。特に俺が生まれ育った国では漫画と言って、想像力の塊みたいな娯楽作品があふれていた。その影響は確実に俺の中の想像力を豊かにしてくれていると思う。メサイア、手刀から風の刃を繰り出して、物質を切り刻むなんて発想を、この世界の人間は思い付くか?例えば、こんなふうに!!」
俺は目の前に座っているメサイアに向けて、手刀を振りかざして風魔法を放つ。
「!?!?!?」
メサイアは身構えるが、なにも起こらない。
しかし、次の瞬間、メサイアのドレスが切り裂かれ全裸に。
なにが起こったのか分からず、一瞬、呆然とするメサイアであったが『キャアアアーーー!!!!!』と叫び声を上げて、胸と股間を隠す。
「悪い、悪い。本当に悪気はなかった。許してくれ」
メサイアに自分の上着を羽織らせ、露になった裸体を隠す。
「ハヤト様…酷いです」
「悪かった。お詫びに」
俺はメサイアのために純白のドレスを作り出した。
そして『純白のメサイア。君のために作ったこのドレス。良かったら着てみてほしい』と、仰々しく頭を下げる。
「ハ、ハヤト様!!」
メサイアが涙を浮かべ抱き着いてきた。
「おいおい。裸という事を忘れてないか?」
「ハヤト様になら、見られても構いません」
「少し、公爵家のお嬢様としては、はしたなくない?」
「身も心も、ハヤト様に捧げると、メサイアは心に決めております」
俺とメサイアは見つめ合う…が『メサイアお嬢様!!』とナナのお叱りが飛んできた。
そして『あぁ…情けない。エアディドールのお嬢様が人前で全裸になって平気でいるなど、許される事ではありません!!』と嘆き、わざとらしく、『およよ…』と、泣いてみせる。
「あぁ…ここにグルーヴ様がおいでになれば、なんとお嘆きになる事でしょう!!」
「つい最近、お母様も全裸で走っておられましたが?」
「……………」
メサイアにツッコまれ、ぐうの音も出ないナナ。頭を抱えている。
「あはははっ、エアディドールの女は全裸が好きなのかもしれないわね!!」
シーザリオが爆笑し、俺とみんなも苦笑してしまうのだった。
【依頼へと向かうFCL…②】
グランが四人を背に乗せ、森へと疾走している。
頻繁に前から来る馬車を、すれ違うわけではなく、グランは大きく飛び越えて、まったく速度を落とさない。爆速だ。
「グラン、ストップ!!休憩しよう」
「もう?わかった!!」
ファレノプシスの声にグランが反応し、走る速度を落とす。
「リーダー、あっちの川辺でいいんじゃない?」
「そうだね、アレグリア。グラン、川を飛び越えられる?」
「簡単だよ!!」
グランは助走をつける事無く、楽々と川を飛び越えて見せる。
「ふふふっ、なんでも有りじゃな」
「ふ~う…グランにしがみついてるのも、結構疲れる。ヤレヤレですね」
「だが、おかげで日帰りは無理じゃとしても、かなり日程を短縮できそうな勢いじゃな」
「そうですね。でも、お腹空いた!!」
「ウオッカ、あなたはしがみついていただけじゃろうが…」
「いやいや、大変じゃないですか?爆速ですよ、爆速!!ふり落とされないように、必死でしたよ」
「確かにのう。以前の私の体力なら、相当、疲労していたかもしれない…だが、これといった疲労感もダメージも感じられない。これも、ハヤト様のポーションのおかげじゃな」
グルーヴとウオッカが、グランの背中から飛び降りる。
「アレグリア、水を汲んできてくれないか。私はなんとか火を…」
「リーダー、これがあるでしょ。こ・れ・が!!」
「あぁ…そうだった。これがあったわね。これが…」
ファレノプシスがペンダントを手にすると、暖かな光と共に炎がともる。
「全員、魔法使いでもないのに、生活魔法全般は使える…。思わず笑ってしまうほど便利になりました。今までの依頼とは、まったく比べ物にならないくらいに快適ですよ。快適!!」
「リーダー、実感こもりすぎ!!」
「ウオッカ。あなたは冒険者になりたてだから経験がないだけですよ。昔は酷いものでしたよ。思い出したくもないほどにね…」
「そうじゃのう…私も戦場では不自由で、不快な思いばかりが思い出される」
ファレノプシスとグルーヴが昔を思い出し、うんざりとした顔をする。
「それって、今もそうなんじゃないの?ただ、私たちだけが、ハヤトのおかげで便利になっただけだよね」
『確かにそうに違いないわね』
二人は優し気な表情をして、ペンダントを握り締める。
「そうだよ!!その通り!!だから、早くご飯にしようよ!!」
ウオッカがお腹を押さえながら言う。
「…雰囲気をぶち壊しじゃな」
呆れ顔のグルーヴ。
「はいはい。分かりましたよ」
「グランのおかげで時短になるんだったら、三日目の食事は食べても…」
「ダメに決まってるでしょ!!」
「………すみません」
ファレノプシスに一喝されるウオッカ。
アレグリアとグルーヴは苦笑いを浮かべている。
「グランは食事は入らないから『ちゅーちゅ』だけちょうだい」
「ちゅーちゅだけ?食べないの?」
「うん。出発する前に、ご主人様の魔力を、いっぱいもらってきたからいらないの。グランの分はウオッカにあげる」
涙ぐむウオッカが、グランの目の前で跪く。
「グラン様、ありがとうございます。このウオッカ、グラン様のお心遣いに感謝し、頂く事に致します。できましたら、なにとぞ、このウオッカを下僕にしていただきたく存じます」
頭を下げ、グランの前脚にキスをしようとするウオッカ。
だが…
「ウオッカ、暑苦しいから嫌だ。離れて!!!!!」
完全拒否のグラン。ウザがられる。
「な、なぜに!?」
『あはははっ、拒否られてる!!!!!』
「くそ~~~、こうなったら、やけ食いだぁ~!!いただきまぁ~す!!」
『結局、食べたいだけじゃない!!』
「そうとも言うわね!!」
満面の笑みを浮かべながら食事をするウオッカを見て、アレグリアとファレノプシス、それにグルーヴは、あきれ果ててしまうのであった。




