第165話 友情
「二人でなにを話しているのですか?」
「あっ、シェイディ様」
「ふっ、子供には早い話だ」
「…父上、俺はもう子供ではありません。立派な大人です。それに、ハヤト…さん。公務の時以外は呼び捨てでいいですよ。一応、将来の義兄であり、複雑な気分だけど義父でもあるんだから…」
俺はせっかくだからシェイディと話をする時間が欲しいと、ロリメイドにグラスと炭酸水を渡す。一回、俺が作るところを見ていただけで、そのロリメイドは、当たり前のようにハイボールを作ってくれた。優秀だ。
「……………」
少し不満顔をするシェイディ。
自分にだけジュースが渡されたので『ストレートを頼む』と、グラスを突き返す。
「はははっ、無理をするな。お前にはまだ早いぞ」
「父上、酒くらい飲めるようにしておかなければ、ランセット殿たちに馬鹿にされかねません」
「確かに………あいつら、馬鹿みたいな大酒飲みだからな」
グラスを渡されたシェイディが口をつける…が『ぐわぁっ!!』と顔をしかめてのけ反る。
「グラスを…確かオレンジを絞ったものが残っていたはず…」
俺はメイドからグラスを受け取る。
氷を作りウイスキーを入れる。ステアした後、1:1の割合で炭酸水とオレンジの果汁を注ぎ足していく。
「いきなりストレートはキツイよ。これ、飲んでみてよ」
「う、うん」
ストレートが余程強烈だったのか、シェイディは恐る恐る口にする。
「あっ…美味い!!これなら飲めるよ」
一口飲んだ後、笑顔になるシェイディ。
ぐびぐびと飲み干していく。
「13歳にしては、いい飲みっぷりだね」
「14になりましたよ」
「ごめん、ごめん」
少しでも大人に見られたいのだろう。
口を尖らせるシェイディ。本当に弟のよう。
俺は少し嬉しくなり『俺にできる事はない?なんでも協力するから!!』と提案する。
「そうだ!!毛生えポーションをもらえませんか?」
「毛生えポーション、シェイディに必要か?」
「はははっ、俺が使うんじゃないですよ。ランセット殿たちに頼まれてね。なんとかすると約束してしまったんですよ」
これにはシャカールも苦笑いで『あいつらの気持ちは痛いほど分かる。俺からもぜひ頼む』と言われる。
「………やっぱり貴重なものなんだ」
「お金は惜しまないから…お願いします!!」
「お金の問題じゃないし、いらないよ。でも、そんなに貴重なものなら、ただあげるのはもったいないんじゃない?戦果や戦功によって下賜するほうがいい。ポーション欲しさに死に物狂いで戦うだろうし、効果はある程度の期間で切れるから裏切る心配もない。それに、どちらの立場が上か、はっきりと分からせる事が出来る。どう?」
俺の提案に『それはいいアイデアだ。ハヤト、お前、為政者としての素質もあるんじゃないか?俺なら絶対に裏切らんし、裏切れるわけが無い!!」とシャカールは断言する。
「確かに…そうですね。じゃあ、調略の武器としても使えるかも。『毛生えポーションなるものをエアディドールが持っている』と噂を流せば…」
「ふふふっ、シェイディ。お前も悪だのう」
「いやいや、ハヤト…兄さんこそ」
「わはははっ、頼もしいな。若い二人に任せ、俺も気楽に隠居できそうだ」
ご機嫌なシャカール。ウイスキーを一気に飲み干す。
「シェイディ、これからも協力していこう」
「こちらこそお願いします。ハヤト兄さん!!」
俺とシェイディは顔を見合わせ、悪だくみの顔で笑い合う。良いのか悪いのか分からないが、心が通じ合えた気がした。それに…兄さんと呼ばれた事が地味に嬉しくもあったのだった。
マジックバッグから数本の毛生えポーションを取り出してシェイディに渡す。
笑顔でシャカールも手を出すが渡さない。
「シャカール様はゼニヤッタから、定価でお買い上げください。シェイディには友好の証として、渡しただけですから!!」
「…そんなつれない事を言うなよ」
「シーザリオ島の開発でお金がかかりますからね」
「………案外、しっかりしてるのな。仕方が無い。まだ一本ある事だ。しかし、無くなったらシーザリオ島まで押しかけるからな。必ず売ってくれよ!!」
「でしたら、ゼニヤッタに支店を出させましょうか?ここエアディドールに支店を構えれば、毛生えポーションだけではなく、様々な交易ができると思いますからね」
「いいな。その話!!あの島には珍しい鉱石や資源が眠っていると言われて久しい。だが、強力な魔物や魔獣がひしめいていて開発が滞っている。ハヤト、お前ならできるような気がする。ぜひ、エアディドールとの交易の話を進めてくれ」
真剣な顔をして話すシャカール。
完全に公爵の顔に戻っている。
「父上、それは俺の仕事です」
やんわりと指摘するシェイディ。少し苦い顔。
「はははっ、悪い悪い。癖でな、許せ」
今度はシャカールが苦い顔。
やはり親子である。苦い表情もよく似ている。
「ハヤト兄さん、話は通しておきます。兄さんもゼニヤッタという商人のほうに話をしておいてください」
「分かったよ」
交渉成立。
「ふふふっ、頼もしいな。少し寂しい気持ちもしないではないが、これで安心して任せる事が出来そうだ」
シャカールはそう言い、グラスに残っていたウイスキーを飲み干し、後ろ向きに手を振って去っていった。
残された俺とシェイディ。
「俺は公爵家の嫡男として生まれ、歳が近い近習や従者はいたんだけど…、友達と呼べる人間はいませんでした。だけど…ハヤト兄さんなら、すべての壁を越えて、心の底から話が出来そうな気がします」
「シェイディ、実は俺もなんだ。周りに女性しかいないんで、気を使う事が多い。特に…グルーヴとかな。気軽に話ができる同年代の友達が欲しいと思ってたんだよ!!」
言葉はいらない。
拳と拳を合わせ、友情とも言える、信頼関係を確かめ合ったのだった。
【アニー視点】
ここはエアディドール城内、危険はない。それでも、少し離れたところからシェイディ様を見守っている。
シェイディ様がジュースが入ったグラスをメイドに返し、代わりにお酒を要求する姿が…
(あっ!?い、いけません!!無理ですよ)
見守りながら慌てふためく。
案の定、一口、口にしただけで、シェイディ様はのけ反ってしまわれました。
私は頭を抱えながら『まだまだお子様なんですから…』と呟く。
「ふふふっ、そんなに心配ですか?」
背後から不意に声を掛けられる。
メサイア様だった。
メサイア様には幼少の時から、シェイディ様を加えた三人で、グルーヴ様の厳しい剣の修練を行い、まるで本当の妹のように可愛がって頂いていた仲。
「これが私の職務ですから…他意はございません」
「ふっ、本当にそうですか?」
「そ、そうです!!わ、私は職務中でございます。これ以上は…」
「迫りくる討伐軍を退ければ、完全にエアディドールは独立し、シェイディは王として即位する事になるでしょう。そうすれば、ヴァレンシュタイン家はもとより、ベルフォール家、それにアスター家からも縁談の話が舞い込む事は必定。その時、あなたはどうします?」
「!?…どうするも…こうするも………、おめでたい話かと…」
胸が締め付けられる思い。
「私など、貴族のお嬢様たちと比べられては…。体中はアザだらけ。肌も日焼けして浅黒い。到底、かなうはずありません」
「アザや日焼けした肌など、そんな事は問題ではありませんよ。実際、ハヤト様は『努力の証』として褒めてくださいます。それに、私の顔を見て分かりませんか?」
「…分かります。異常なほど瑞々しく、シミの一つもありません。元々、とてもお美しいとは思っていましたが、その以前に比べても、見違えるほどの美しさです」
「よろしい。では、これをお飲みなさい」
「…これは?」
「美肌ポーションです」
「び、美肌…ポーション!?はっ、もしかして…」
「はい。もしかしてです」
「これを飲めば、私もメサイア様と同様に…」
「肌が生まれ変わりますよ!!」
「よ、よろしいのですか?私なんかに…貴重なものなのではないでしょうか?」
「貴重ですよ。基本的には非売品ですからね」
私は震える手でポーションを受け取る。
「私は、気心の知れたアニー、あなたとシェイディが結ばれる事を望んでいます。他家の姫ほど厄介な存在はありませんからね。出来得る限り、排除したいと思っています」
「私がシェイディ様の妻に…」
「おそらくは、シェイディも望んでいる事だと思います。問題ありません」
「…ですが、グルーヴ様が………」
「ふふふっ、お母様も大賛成をしてくれると思いますよ」
「えっ!?で、でも…グルーヴ様はいつも『婚姻でエアディドール家の勢力を強めねば…と』おっしゃっておられました」
「ふふふっ、以前であれば…ですね。アニー、ハヤト様の出現により、以前の価値観は完全に過去のものになったと認識しなさい。あなたが妻になりシェイディを支え、エアディドールになにかあれば、すぐに私に知らせるのです。エアディドール家にとって、ハヤト様との強固な絆こそが、繁栄への道しるべになるのです」
「わ、わかりました。やってみます」
私は頂いたポーションを一気に飲み干す。
「アニー『やってみます』ではありません。今からシェイディの部屋に行き『ヤッテきなさい!!』」
「えっ…えええぇぇぇ~~~!?!?!?」
「今、シェイディは初めて飲んだお酒のせいで、気分が高揚しているに違いありません。そこを狙うのです。既成事実を作っておしまいなさい。いいですか、これから王になったシェイディには、いろんなところから誘惑が舞い込んできます。いつまでもアニー、あなたの事を思ってくれているなんて考えるのは甘いのです。既成事実さえ作ってしまえば、もし、シェイディが心変わりしたとしても、私とお母様でシェイディを脅迫…いえ、説得しますから!!」
「…メサイア様」
「お姉様と呼んでくれても構わないわよ」
「メサイアお姉様!!頑張ってきます!!」
その後、私はシェイディ様がハヤト様と別れ、寝室に戻るのを確認する。
もう一度、メサイアお姉様の顔を見ると、ニッコリと微笑んでくれた。
私はその微笑みに後押しされ、覚悟を決め、シェイディ様の寝室へと向かうのでした。




