第161話 収納
「ハヤト君、少しいいかしら?」
ジュリアが声をかけてきた。
「構わないよ。じゃあ、部屋に行こうか?」
俺はアパパネと手を繋ぎ、二人に割り当てられた来客用の部屋に行く。
部屋に入ると、ジュリアは浮かない顔をしているが、なかなか要件を言い出さない。なにか言いづらそうな表情。少し心配になる。
「どうしたんだ?心配事があるなら言ってくれ」
「………はい」
ジュリアの憂い顔にアパパネも敏感に反応。不安顔でジュリアを見つめている。
「も、もし………ハヤト君が望むなら、ベガを売りに出そうと思っているの」
「えっ!?ベガは亡くなった両親や旦那さんとの思い出が詰まっている場所だろう?」
「はい。でもね、シーザリオ島の開発には、お金と時間がかかるんじゃないの?島とリーズとの間には距離があるから、私とアパパネちゃん、それにリスグラシューちゃんは、ハヤト君と離れ離れになってしまうわ。数か月の事なら構わないのだけれど、話を聞いている限り、かなりの時間が必要なんじゃないかしら?」
「………確かに。初めは少し手伝うだけのつもりだったが、かなり大きな話になってきているな」
「リスグラシューちゃんの話では、大きな貿易船が停泊できる港を整備して街をつくる予定だとか…」
「港の整備!?」
「ハヤト君、聞いてないの?」
「…俺は少し森を切り開く手伝いをするだけかと思ってた」
「これだけじゃないのよ。港を整備するという事は、それに伴って周辺の街も拡張しなければならないし、食料も必要だから、田畑の開墾もしないといけないと言っていたわ。これ………数十年単位の時間が必要なんじゃないかしら?」
「ジュリア、それ…リスグラシューが一人で勝手に言っているだけなんじゃないか?」
「特にリスグラシューちゃんが気合が入っているけど、みんな…やる気よ!!だから私も覚悟を決めようと思ったの。『過去の思い出は捨てて、未来だけを見つめて生きていこう』…ってね」
ジュリアの表情からは、いつの間にか憂いが消えていた。俺に言った事で、胸のつかえが取れたようだった。
「ジュリア、正直に言って、俺にはロクな思い出が無い。家族団欒の思い出など皆無だ。出来得る事なら、ジュリアには家族との思い出を大切にしてほしい」
「………ハヤト君」
俺はジュリアを抱きしめて言う。
「大丈夫ですよ!!ハヤト様のマジックバックがあるじゃあないですか!!バックにベガを入れて、シーザリオ島まで運べば無問題ですよ!!」
ドヤ顔のアパパネの言葉に戸惑うジュリア。
アパパネの頭を優しく撫でて、諭すように話す。
「いくらなんでも、バックにあんな大きな建物は入らないわよ」
「えっ、そうなんですか!?………ごめんなさい」
「いいのよ。アパパネちゃんの私を思う気持ち。嬉しいわ。ありがとう」
ジュリアはそう言って、目に涙を溜めているアパパネを強く抱きしめた。
「う~~~ん」
「どうしたの?ハヤト君」
「試してみる?」
『できるの!?』
「分からないけど、できる気がする。バックを鑑定すると、容量は使用する者の魔力に比例すると書いてあるからね。俺の魔力量は、マリア様の加護のおかげで無限だし、試してみる価値は充分にある!!」
「やったぁ~!!」
アパパネが泣きべそから笑顔になり、俺に抱き着いてきた。
「じゃあ、リーズに帰ったら試してみましょう」
「いやっ、今から試してみよう!!このエアディドール城を収納してみる」
『えっ!?こ、この城を!!』
「そうだ。この城を収納できれば、当然ベガも収納できる。みんなを集めてくる。少し待っててくれ」
「ハヤト君、私も行くわ」
俺はジュリアと共に、各自の部屋を訪れる。
まずはアレグリアの部屋。
ノックをすると『は~~~い』と、呑気そうな声が聞こえ、ドアが開く。
「ハ、ハ、ハヤト!?ちょ、ちょ、ちょっといきなり!?ま、まあ、私もいつかなっと思っていたから、少しは期待してたんだけど…」
「なに言ってるのよ?」
「お、お母さん!?いやいやいや!!さ、三人で!?いきなりそれは………恥ずかしいわ」
もじもじして顔を赤らめ、うつ向くアレグリア。可愛いが、勘違いが過ぎる。
アレグリアが一体どんなエロい事を想像したのか、興味本位で鑑定しようかと思ったのだが止めておく。焦る必要はない。それは今後のお楽しみとして取っておく。
苦笑いを浮かべ事情を説明すると『な、なんだ。そういう事…って、早く言ってよね!!それに……この城を収納する!?本気?』と驚き、すぐに着替えてきた。
興奮気味に『みんなを呼んでくるね!!』と言い、片っ端から部屋をノックしていく。グルーヴとメサイアは、当然ながらエアディドール家の御殿があるので、お世話係のメイドに頼み込み、案内をしてもらう。
仕事をしていたのだろう。メサイアがすぐに出てくる。事情を説明すると、驚きながらも『ハヤト様なら可能でしょう!!』と言う。
そして…
「ハヤト様、来てくれたのですね!!」
全裸にスケスケの上着を羽織っただけのグルーヴが、巨乳を『ぶるんぶるん』揺らし、小走りに御殿から出てきたのだった。
【王都にて…終】
シェイディを先頭に、シャカール、ランセット、ネイチャ、アートが並んで、エアディドールへ向かう道を行軍している。
「シェイディ様、先程の言葉の中に、気になる事がありました。グルーヴ様がエアディドール家から離れたとは、一体、どういう事ですかな?」
「ランセット、それは…俺にもなにがあったのかは分からない。しかし、父上なら…
」
話をふられたシャカールが、苦笑いを浮かべて話始める。
「ふふふっ、若い男に惚れて、その男と共に生きていくそうだ。その男はハヤトと言い、メサイアの恋人でもある」
『ふぁあああぁぁ~~~!?』
「驚きすぎだろう?親と子、兄弟に姉妹、義母や義父。刺激に飢えた貴族の間ではよくある事だ。問題ない。俺もシェイディの後見役をしながら、こいつらと楽しくやっていけるというものよ」
振り向き、小姓を見つめながら話すシャカール。
アイコンタクトを送られた小姓が顔を赤らめている。
「しかし…あのグルーヴ様だぞ!?剣術以外興味が無かった剣鬼のような女性が、若い男に惚れるなど………信じられん」
「そのハヤトという者は、何者か!?」
ネイチャとアートが続けざまに言う。
「ハヤトか…俺にも分からん。ただ…異質の者。人知を超えた存在なのは間違いない。今、俺から言えるのはこれだけだ。でも、まあ…いいか」
シャカールは頭を指さし『これもハヤトのおかげだ!!』と言う。
『マジかっ!?紹介しろ!!』
三人が声を合わせる。
「……………」
『おいっ!!なんで黙っている!!』
「なんでって…口止めされてたんでな。機嫌を損ねて、毛生えポーションが手に入らなくなると困るじゃないか」
『毛生えポーション!?くれっ!!』
「今はね~んだよ!!………一本だけしか…」
『一本あるならいいじゃないか!!くれよ!!』
「………誰にやるんだ?」
突然、ランセットとネイチャ、それにアートに殺気がみなぎる。
『決闘だ!!三人の中で生き残った者がポーションを飲む。殺し合いだ!!!!!』
一斉に剣を抜き斬りかかろうとする…が…
「止めろ!!」
見かねたシェイディが一喝する。
『シェイディ様、これだけは止められませぬ!!』
「これから四家で力を合わせていくというのに………俺からハヤトに頼んでみよう。まだ会った事は無いが、メサイア姉様と母上の慕う相手なら、俺にとっても身内と言っても過言じゃない。義兄であり………義父ともいえる存在。なんとかしてやれると思う………たぶん」
シェイディは苦い顔をして言う。
「わはははっ、それでこそ公爵。頼もしいな。心配するな。一度会った印象だが、結構、話の分かる奴だと思うぞ!!」
お気楽なシャカール。大笑いしながらシェイディの肩を叩く。
『シェイディ様、何卒良しなに!!』
「はあぁぁぁ…最善の努力をする」
血が覚醒したシェイディだったが、いつしかボヤキも帰ってきた。ため息を付く。
「シェイディ様、もうすぐエアディドール領内に入ります」
「よし!!」
アニーの言葉に表情を引き締めるシェイディだが、まだ見ぬハヤトという人物の事を考えると、期待と不安が入り乱れているというのが事実なのであった。




