第158話 プレゼント
しばらくすると、グルーヴが目を見開き、驚きの表情で俺の顔を見つめる。
「魔法が発動したみたいだな!!」
「…はい。私が…魔法を発動させる事ができました。信じられぬ思いです」
「なんの生活魔法を発動させたんだ?」
「クリーンです!!」
「クリーンはいいよな!!一瞬で爽やかになる。あっ!?ちょっと貸してくれ。いつも身に着けていてもらいたいから、綺麗に加工してみる。ふふふっ、俺もいろいろと魔法の訓練をしているんだよ。見ててくれ」
グルーヴが魔石を持っている手に自分の手を重ね、魔法を発動させる。
魔石が輝きを増してくると同時に形を変えていく。
黒くゴツゴツとした魔石が、グルーヴの手の平の中でハートの形に変形し、色もわずかに青みがかった銀色に変色したのだ。
穴を開ける。
面白い!!俺はしばらくグルーヴの事を忘れて夢中になる。
魔石の穴にグルーヴがしていた金色のネックレスを通して、首にかけてあげる。
「ハ、ハヤト様…こ、これは!?」
「ミスリルって青みがかった銀色なんだろ?どうかな?グルーヴにピッタリだと思うんだけど…生活魔法は常時使う魔法だから、身に着けておいたほうがいいと思って。受け取ってくれないか?」
「ハヤト様!!」
抱き着き、歓喜するグルーヴ。
喜んでくれて、一安心をする。
「そろそろ城に戻ろうか?」
「はい」
うっとりと加工した魔石、いや、宝石を眺めるグルーヴが微笑む。
俺はみんなの分の魔石を買い、加工しながら、のんびりと馬車まで戻るのであった。
★☆★
「グ、グ、グ………グルーヴ様!?そ、そ、その格好は!?!?!?」
ミニスカメイド姿のグルーヴを見て、ナナが面白いくらいに狼狽する。
「ふふふっ、似合うであろう?ナナメイド長様」
ナナに向かって丁寧にお辞儀をするグルーヴ。なかなか様になってきた。
一方のナナは『!?!?!?!?!?』卒倒しそうになっている。
「お母様、その格好の意図は?」
「ハヤト様のお望みだ」
『えええええぇぇぇ~~~!?』
驚きを隠せないみんなは、一斉に俺の顔を見る。
「お忍びで視察に行くというのに、ド派手なドレスを着てきたから、それではお忍びにならんだろうという事で、メイド服を着てもらったんだ。実際、効果抜群で、誰からもグルーヴ・ド・エアディドールであると身バレしなかったよ」
「でも、グルーヴ様にメイド服はないんじゃない?しかも、なんていうか…あんなに短いスカートを穿かすなんて!!」
「そうですよ!!お母様はもう36歳。いい歳なんですから!!」
アレグリアの抗議に賛同するメサイア。
36歳をいい歳と言われて、わずかに顔をしかめた38歳のジュリアの事は、見て見ない振りをしておこう。
「いい歳とはなんじゃ!!いい歳とは!!メサイアよ。わたくしは今の今まで、女の武器を使い、男に媚びた事は一度も無かった。しかし!!これからは違う。ハヤト様の気を引けるのなら、女の武器を徹底的に使わせてもらう!!ふふふっ、10代のおなごもおるのじゃ。このくらいは当然であろう?」
グルーヴはそう言って、短いスカートをたくし上げ、真っ白な太ももを俺に見せつける。
「!!!!!」
無意識にガン見してしまう俺。単純すぎる…が、それくらいグルーヴの太ももには破壊力があるのだ。仕方が無い!!
しかし…みんなの視線が冷たく痛い。
(ふふふっ、こんな事もあろうかと思い、対策を考えているのだよ)
俺は一人一人に生活魔法を付与したペンダントを首にかけていく。
『き、綺麗!!ハヤト、これは!?』
「俺が作り出した魔道具だよ。魔石を加工したものだが、生活魔法が付与されている。プレゼントだ。受け取ってくれ」
「魔石!?本当に?むっちゃ綺麗なんだけど!!」
「綺麗だろ。それはアレグリアの事を思って、メタリックレッドにしてみたんだ。赤・桃・青・金・白・黒、そしてグルーヴの青みがかった銀色。ジュリアやリスグラシューたちには俺が好きな紫色で作ってみた。気に入ってくれたかな?」
『ありがとう、ハヤト様!!』
皆、嬉しそうに首にかけられたペンダントを見つめている。
(ふふふっ、嵐は避けられたようだな!!)
俺は計算通りとほくそ笑む。
「ハヤトはん。売りましょう!!こんなん言い値で売れまっせ」
「作るの面倒くさいんだよ。大切な人のためになら作れるけど、商売として大量に作るのは気が乗らないな」
「…そないか。そう言われると嬉しいような、もったいないような。商売人としては複雑な気分ですわ」
ゼニヤッタがペンダントを見つめながら言う。
「私にも頂けるんですね。ありがとうございます」
「グルーヴについてくるという事は、俺についてくる事と同じだ。ナナにだけ無いというのは可哀想だからな」
深々と頭を下げるナナ。とても嬉しそうな顔をしている。
「でも、ハヤト。どうやって使うの?」
「魔法はイメージだよ。握り締めて強くイメージするだけ」
「…イメージ………イメージ…クリーン、クリーン」
アレグリアが目を閉じ、イメージやクリーンと何度も呟く。
すると『きたぁぁぁ~~~!?なんか凄いの来た!!メッチャさっぱりした!!』と、目を見開いた。
「便利だろ?」
「うん!!」
顔を紅潮させ興奮するアレグリア。とても嬉しそう。
他のみんなも次々と生活魔法を発動させている。大騒ぎで盛り上がる。
俺はみんなの笑顔を見て『作って良かったな』と、心から思うのであった。
【王都にて…⑤】
シェイディはエアディドールに向かい、懸命に馬を走らせる。
しかし、幼いメイドや使用人たちもいるのだ。休憩なしにとはいかない。守りを固めやすい地形を見つけては、適切に休憩を取る。ただ、エアディドール領に入るまでは気を抜く事はできない。常時、臨戦態勢を解く事はなかった。
エアディドールの精鋭たちが追い付いてくるが、誰もが傷を負っている。
脱出するときに持ってきたポーションも、残りわずかになってきた。
このままなら…全滅する。
そう思った時、地響きのような敵兵の鬨の声がこだまする。
「も、もしや…父上が!?」
立ち上がり、剣を抜こうとするが、アニーに制止された。
「私が参ります!!」
「!?」
「シェイディ様は一刻も早くエアディドールへ向かい、この事をグルーヴ様にお伝えください!!」
「そ、そんな事が出来るか!!」
「あなたはエアディドール公爵なのです。あなただけは生き残らなくてはなりません」
「しかし…しかし!!」
「ふふふっ、シェイディ様。お慕いしておりました。この命をあなたとエアディドールの未来に捧げる事が出来るのなら、本望でございます」
アニーは覚悟を決め、馬に騎乗する…が、遠くから一頭の馬が向かってくるのが見えた。
「ち、父上!!」
馬上のシャカールは、明らかに生気を失っていて、今にも落馬寸前という様子だった。
シェイディが駆けつけると、左腕と右足を失ったシャカールがシェイディを見て微笑み、剣を落とし落馬する。
「ふふふっ、エアディドール元公爵として、恥ずかしくない戦いであった。300は討ち取った。しかし…すぐに追手がくる。シェイディ、逃げるのだ」
そのまま目を閉じるシャカール。
「………アニー、父上を頼む」
シェイディの雰囲気が変わる。
全身から闘気が溢れてくる。
「シェ、シェイディ…様!?」
「アニー、僕は母上から『お前は優しすぎる。もっと非情になれ!!そうすればエアディドールの血が目覚めるであろう』と言われてきた。本当だったようだ」
シェイディは馬に乗り、剣を抜く。
「私も行きます!!」
「ダメだ。アニーは父上を頼む。最後に俺が成長した姿を見せて安心させ、旅立たせたい。………皆殺しにしてくる!!」
全身から溢れ出てくる闘気を纏わせながら、シェイディは400人の追っ手に向かい、突撃をしていくのであった。
★☆★
しばらくして、全身に返り血を浴びたシェイディが帰ってきた。
「……………」
無言で下馬してシャカールの元へ…。
虫の息のシャカールが、僅かに口を動かす。しかし、もう目は開けられないようだった。
「見事である。これで心置きなく逝ける。ただ………一つだけ願いがある。俺に従ってついてきた者たちは、全員、戦で親や兄弟を亡くした者たちだ。ひいきをしてくれとは言わぬ。ただ、ただ、公爵として、気にかけてやってほしい」
「…分かりました。お約束いたします」
微笑むシャカール。
「ポーションを…」
「もう…ポーションは…」
「…そうか、成長した息子の姿を一目見てもらいたかったんだが………残念だ」
一人のメイドが箱を持ってくる。
「この箱は?」
「ハヤト様からの贈り物です。確か、ポーションが入っていると聞いています」
「ハヤト…ふっ、あの世で髪の毛の事で悩まぬよう、最後に毛生えポーションを飲ませてあげるのも良いかもしれないな」
シェイディは箱を開け、ポーションを手に取り、シャカールの口に…。
少しだけ口に含ませる。
すると…
「ぐびっ………ぐびっ、ぐびっぐびっぐびっ」
最後はポーションの入った瓶を奪うようにして、シャカールはポーションを飲み干した。
『!?!?!?』
誰もがシャカールの最後を悲しみ涙していたのだが、その光景を見て呆気にとられている。
シャカールの体が金色の光に包まれる。
シェイディたちは眩しさに顔をそむける…が、光が収まった後、顔を上げると、そこには左腕と右足が元に戻ったシャカールが、仁王立ちしていたのであった。
『……………』
誰もが驚きのあまりに言葉を失っている。
「わはははっ、凄いな。ハヤトのポーションは!!生き返ったぞ!!!!!」
『えっ!?えええええぇぇぇ~~~!?!?!?』
上機嫌で剣を振るうシャカール。
剣圧だけで大樹を切り倒す。
「生き返っただけではなく、体も若返ったようだ!!皆の者、これからもよろしく頼むぞ!!」
上機嫌のシャカールとは裏腹に、シェイディたちは腰を抜かし、バケモノを見ているような眼差しで、シャカールを見つめているのであった。




