第156話 FCLではなく…FCL
喉から手が出るほど、ポーションが欲しい…ブルーノさんの顔からは、そんな気持ちが伝わってくる。しかし、初見の相手、ましてやお客さんから対価なしに、ポーションをもらうわけにはいかない。そう思っているようだ。
「ブルーノよ。これはハヤト様なりのノブレスオブリージュじゃ。遠慮せずに受け取るがよいぞ!!」
俺を後ろから抱きかかえる様な態勢で、圧倒的上から目線のグルーヴが言う。
完全に態度だけは、実質的な領主『グルーヴ・ド・エアディドール公爵』に戻っている。
「グルーヴ…今はメイドプレイの最中だぞ!!」
「あっ!?そうでした。申し訳ありません。しかしながら…」
ブルーノさんに聞こえないように、小声で注意するが、グルーヴは異論があるという顔をしている。
「異質な雰囲気…オーラ的なものがあるお方だとは思っていましたが、やっぱりお貴族様だったんですね」
「い、いや。そのオーラは俺からのものではなく、メイドから出ているものだと思うぞ」
「えっ!?………確かに圧倒的な美しさと雰囲気を纏わせているメイドさんだとは思いますが…このオーラは間違いなく、あなた様から放たれているものだと思います」
「いやいやいや!!俺からはオーラは出てないだろう!!」
慌てて体を見回す。そもそも、その仕草や感覚が完全に庶民だと思うのだが、ブルーノさんの対応に戸惑う。
「ハヤト様、自覚をお持ちください。体から溢れ出してくる気品と威圧感は止められません」
「絶対に違う!!」
俺はピッタリと寄り添っているグルーヴから離れる。
「あっ!?………申し訳ございません」
ブルーノさんが、ばつが悪そうな顔をして謝ってきた。
「構わないよ。俺は庶民派だから!!」
「……………」
庶民派宣言に少し不服そうなグルーヴだが、いつの間にか、いったん離れた俺の背後に、ピタリッと寄り添っていた。
そしてパンパンに金貨が詰まった麻袋を『ドン!!』と置き『このお金とポーションがあれば、奥方の病気も治り、ピアノの製作に集中できる事でしょう。完成をしたら、すぐにエアディドール城まで連絡するようにお願いいたします』と、今度はメイドらしく対応する。
「前金だ。受け取ってくれ」
俺が自分のお金のような感覚で言うと、とてもグルーヴは満足そうな顔をしている。
「前金って………こんなに!?」
チラッと麻袋の中を覗くブルーノさん。体がのけぞる。
「この世界に存在しない新たな楽器を作るんだ。当然だろ!!」
「そうですね。この世の中に存在していない楽器を製作できる。胸が高鳴りますよ!!っと言っても、やはり製作には1年はかかると思われます。しばらく時間の猶予をいただけませんか?」
「いいよ。急いでないから。ブルーノさんが納得できるピアノを作ってほしい」
「ありがたい!!お礼と言っては何ですが、この神龍笛をサービスしますよ」
「ありがとう!!」
ブルーノさんから神龍笛を受け取り、俺とグルーヴは店から出ようとする。
「これから忙しくなる。まずはポーションを妻に飲ませて、その後は冒険者ギルドに仕事の依頼だ。これだけの資金があれば、上位の冒険者に依頼できる。前みたいな事にはならない」
慌ただしく準備に取り掛かっているブルーノさんの声が聞こえてきた。
「冒険者に依頼を出すのなら、FCLという冒険者パーティーを指名するといいよ」
「FCL?………聞いた事ないな。有名なのかい?」
「あぁ!!俺の一押しパーティーだ。直近では、王都からシーザリオ様とメサイア様をエアディドールまで護衛してきた」
「ほう~、王家筆頭魔術師のシーザリオ様とメサイアお嬢様を!!でも、人気パーティーなんでしょう?指名を受けてもらえますかね?」
「実力は本物だが、まだ結成して間もないパーティーだから知名度はない。間違いなく指名をすれば受けてもらえると思う」
「分かりました。FCLですね!!貴重な情報、ありがとうございます!!」
ブルーノさんは急ぎ冒険者ギルドに向かおうとする…が…
「お待ちなさい!!」
グルーヴが大きな声を放ち引き留める。
「FCL…ではなく、FCLです」
「えっ!?FCL…ですよね?」
「違います!!Four Color Ladies…ではなく、Five Color Ladies という事を、お忘れなきよう!!お願いいたします」
「???」
グルーヴの言葉に『わ、分かりました』と言い、困惑気味の表情でブルーノさんは店から出て行く。
満足そうな顔をするグルーヴ。
自分も参加する気満々なのが丸分かりである。
「グルーヴも参加する気か?」
「当然ですわ!!わたくしも、すでにパーティーの一員なのですから!!」
楽し気なグルーヴの表情から『これは止めても無駄そうだな』と思い『ミスリル備えのグルーヴ、みんなを頼むぞ!!』と激励する。
まるで獲物に飢えた狼のように『血沸き肉躍る世界が戻ってくる予感が致します』と言い、グルーヴの楽しげな表情が一転し、その眼光が妖しく光り輝くのであった。
【王都にて…③】
なんとも言えない顔をして、シェイディはシャカール、父親が小姓を抱き寄せて、イチャついている姿を見つめている。
「父上、息子の目の前でイチャつかれるのはお控えください。しかも…相手は少年という………」
「ふっ、なにを言うか。グルーヴなど、今頃、メサイアとハヤトと三人で………。どうだ。お前もまざるか?」
「!?………私にはそんな趣味はございません!!私はアニーだけで結構です!!」
「わはははっ、性癖は人それぞれ。それも良かろう!!」
シャカールは小姓にキスをする…と、アニーが部屋に飛び込んできた。
「シャカール様!!シェイディ様!!………えっ!?」
息子の目の前で小姓とキスをする父親というシチュエーションに、アニーは言葉を無くし固まってしまう。
「アニー、どうした?………アニー!!」
シェイディが目を見開き、固まっているアニーの肩をゆする。
「はっ!?い、一大事にございます!!屋敷が軍勢に囲まれ、シャカール様とシェイディ様の身柄を引き渡せと!!」
シャカールが小姓から剣を受け取る。
「どこの者だっ!!」
「………王家の旗印が」
「数は!!」
「おおよそ…500!!」
「ふっ…500とは、このシャカールも舐められたものであるな。グルーヴとの関係から、いつかはこうなるのでは…と思っておったが、シェイディが王都に来たタイミングを見計らって、都合よく二人を拘束できると思ったか。売られた喧嘩は買わざるを得ない」
「父上…では!?」
「突破し、エアディドールに向かう。準備をせい!!」
屋敷内は慌ただしく動き出し、僅か5分で臨戦態勢を整える。
門が開かれる。
シャカールが馬上から『突破せよ!!』との号令をかける。
『うおおおぉぉぉ~~~!!!!!』
シャカールを先頭に、王都エアディドールの精鋭30人とシェイディ、そしてアニーが剣を抜き突っ込んでいく。
奇襲をかけられた王家の兵たちは、簡単に突破を許してしまう。
「シェイディ、お前を先頭に、このままエアディドールへと走るのだ」
「父上は!?」
「しんがりを務める!!」
「私にしんがりをお言いつけください!!」
「ダメだ。お前だけは生き延びて、エアディドールにたどり着かなくてはならない。走れ!!ただひたすら走るのだ!!」
シャカールは態勢を整えて迫って来る軍勢に立ち向かっていく。
「シェイディ様、お早く…シェイディ様!!」
アニーの叫び声に、シェイディは歯を食いしばる。
そして…『エアディドールに向かう。全員、私について来い!!』と号令をかける。
シェイディとアニーを先頭にメイドや使用人たち、後方に王都エアディドール兵。そして最後方にシャカールという布陣で、エアディドールへと向かうのであった。




