第155話 楽器屋のブルーノ
「俺の名前はブルーノ。自分で楽器を作って販売までしている。なあ、頼むよ!!」
ブルーノさんは悲壮感丸出しで頭を下げる。
(なんか訳ありだな)
俺は気になり鑑定する。
(…借金がかさんで、経営状態は苦しそうだな。そうか…森から貴重な素材の調達を冒険者に依頼したものの失敗。だが………前金で納めた依頼料は帰ってこず…か。こんなんばっかだな!!しかも、その借金を返すために無理をした結果、奥さんが体を壊してしまったのか…。なんともやるせない話だな。世の中にはこんな人がたくさんいるんだろう。俺は自分ができる事やるしかない。なんとかピアノの事を思い出してあげよう。それに、楽器作りに関しては、間違いなく才能がありそうだ。ひょっとしたら、この世界にピアノが誕生するかも!?そうしたら『ベガ』に置いて、お客さんの前で演奏しても面白い!!なにせ俺は、世界的なピアニストになる才能があったらしいからな)
俺は頭を下げたままのブルーノさんを見つめながら思う。
「う~ん…教えるのは構わないけど、内部の仕組みとか分からないから、どうやって音が出ているかまでは分からない。あくまで外見だけだぞ?」
「構わない。楽器っていうのは見た目が分かれば、内部がどうなっていて、どういう構造で音を奏でているかは、大体想像がつくものだ」
自信満々のブルーノさん。
俺は『そんなものなのか?』と思いながらも、弾いた事も触った事もなかったピアノの事を必死で思い出す。
「確か…白と黒の鍵盤というものがあって、基本、白の鍵盤がズラリと並んでいて、所々に黒の鍵盤が配置されていたと思う。その鍵盤を押すと音が出て、押す組み合わせによっては、複雑な音色になる………と思う」
「ほうほう…それで?」
「見た目は色々な形状があって一概には言えないな」
ブルーノさんが無言で紙とペンを渡してきた。
『書け!!』との圧力を感じる。
(俺、絵心が全くないのだが…)
苦笑いしながらペンを走らせていく。
すると…
(なんだ!?なにが起こった!!俺、むっちゃ、絵が上手くなっとるんだが?………そうかっ!!確か、芸術の値がかなり高かった記憶がある。それでか!!)
記憶の中のピアノを、まるで実物のように紙の中に蘇らせていく。
「ふふふっ、ハヤト様は絵もお上手でいらっしゃるのですね」
グルーヴがうっとりとしながら言う。
俺は何種類かのピアノを描き上げた後、ササッとグルーヴのメイド服姿もデッサンしてあげた。
「はい。俺からのプレゼントだよ!!」
「!?」
自分が描かれた紙を持ち涙ぐむグルーヴ。紙をギュッと胸に抱きしめて『大切にします!!』と言ってくれた。
神々しいまでの美しさに、俺は思わず息をのむ。
しかし、そんな俺の事などお構いなしに、ブルーノさんは質問の嵐を降らせてくる。
「だからっ!!内部の事までは分からないよ!!」
「いやいや、少しだけでも!!」
「本当になにも分からないんだって!!」
「………そうなのか」
ブルーノさんの目が怖い。
俺の描いたピアノの絵を凝視している。
「ブルーノさん、目が怖いよ」
「これだけ上手い絵なら、内部まで見えるんじゃないかって思ったんだがな」
「見えるわけないだろ!!」
意気消沈するブルーノさん。顔色さえ悪くなる。それはまるで、わずかに見えた希望の光が消えてしまったかのようだった。
しかし…
「あっ!?思い出した!!なんか…内部に弦が張ってあったのを見た記憶がある」
俺が僅かな記憶を思い出し呟く。
すると…
「弦!?………それだ!!」
ブルーノさんの顔色が変わり、なにやら紙に書き込みを始める。
「ヒントを得たみたいだね」
「あぁ!!イメージが湧いてくる。おそらく…この世界に存在しない、素晴らしい音色を奏でられる楽器になるだろう!!」
「マジでっ!?楽しみだなぁ!!」
「俺が一番楽しみだ!!5年待ってくれ!!」
「5年!?時間かかりすぎだよ!!」
「あぁ…残念だが金がない。金策をしながら試作品を作る予定だが………貧乏は辛い。それに…」
「それに?」
「なるべく多くの時間、病気の妻のそばに付いていてあげたいんだ」
「…そうなんですね」
俺は商品が入れてあるケースの上にポーションを置く。
「これを奥さんに飲ませてください。必ず回復すると思います」
「ポーション…ですよね?お客さんからはもらえないですよ。お気持ちだけで…」
ブルーノさんは一旦出しかけた手を、慌てて引っ込めるのであった。
【王都にて…②】
「父上!!父上!!」
屋敷に到着したシェイディはシャカールの私室を訪れる。
しかし…ドアを開けると、見知らぬ男が『なにをそんなに慌てているのだ。お前はもう公爵となったのだ。落ち着け!!』と言う。
(誰だ!?この男は…んっ!?………なにっ!?…えっ!!、嘘だろ!!)
シェイディは思わず『父上ですかっ!?』と叫んでしまう。
椅子に座っているシャカールは息子の反応に満足そうな顔をして、自慢の金髪をかき分けながら立ち上がる。
「はははっ、驚くのも無理はない。エアディドール公爵、元気そうでなりよりである」
「はっ!?…なにを言っておいでなのですか?公爵って!?いやいやいや、冗談を言っている場合ではなく、その髪はどうしたのですか!?………ヅラ?」
「ヅラとは失礼な!!」
シャカールはシェイディの前まで行く。
「…し、信じられない。地毛だ!!………一体…なぜ!?」
「ハヤトだ」
「ハヤト…メサイア姉様の想い人というポーション売りの男でしょうか?」
「そうだ!!」
「………!?も、もしかして、そのハヤトが作ったポーションを飲んで!?」
「ふふふっ、察しが良くなったな。さすがはエアディドール公爵だ」
「だから、エアディドール公爵は父上でしょう!!」
「グルーヴから伝書鷹にて連絡があった。俺と離婚をし、公爵をシェイディに継がせるとな」
「はっ!?い、一体…なぜ!?」
「なにがあったかは分からぬ。しかし、グルーヴはエアディドール家を離れ、メサイアと共にハヤトに付いて行くと書かれておった」
「えぇぇぇ~!?!?!?、な、なんで…嘘ですよね!!」
シャカールは伝書鷹からもたらされた密書を渡す。
「ほ、本当だ…でも、いいんですか!?父上はこれで!?」
「構わんぞ。なにしろエアディドール家を離れるのはグルーヴで、俺はなに一つ変わらぬ立場としてシェイディ、お前の後見役としてエアディドール家に居続けるのだからな。俺はもう四十を過ぎた。今後は気楽な立場でお前を支え、こいつらと楽しく生きていこうと思うのだ」
シャカールはそう言って、剣を持っている小姓を抱き寄せるのだった。




