第151話 血まみれの修練場
「アレグリア、この槍もあの爺の打った物であろう」
「はい。やっぱり分かります?」
「当然じゃ!!そこそこの一品じゃな」
グルーヴはアレグリアの槍を手に取り言う。
「グルーヴ様、一度お手合わせをお願いします!!」
「よかろう!!では…修練場に移動するぞ」
「はい!!」
アレグリアがウキウキで席を立つ。
「お、お母様!?今は晩餐会の途中です!!」
「構わぬ!!メサイア、あなたも来なさい!!」
「えっ!?わ、私もですか?」
「当たり前じゃ!!あなたが修練をさぼっていなかったか。母、自らが確認してやろう。ファレノプシスとウオッカもついてきなさい」
『げっ!!!!!』
ファレノプシスとウオッカが思わず顔をしかめた。
「グランも行く!!」
今度はグルーヴが『ギョッ』とする。
「…グランはここに待機じゃ!!」
「いやだ!!なにかおもしろそうな匂いがするから、グランも行くの!!」
「まあ…良かろう。フェンリルの実力。見て見たい」
「やったぁ~!!!!!」
チビグランが嬉しそうに走り回る。
「グラン、手加減をするんだぞ!!」
「は~い、分かってます!!」
空中で一回転をしてから『キメ顔』を作るグラン。不安だ。
渋るファレノプシスとウオッカを咥え、引きずりながら部屋から出て行った。
「シーザリオ、大丈夫かな?」
「まあ、ハヤト様のポーションがあるのです。死にはしないでしょう!!」
「しばらくしたら、様子を見に行くか」
「ふふふっ、心配性ですね。みんな自分たちの力を高めてランクを上げたいという思いもありますが、一方でハヤト様に貢献したいとの思いも強いのです。ハヤト様はその気持ちを受け取ればいい。受け取ったうえで、今は食事を楽しみましょう!!」
「そうだな。みんなに感謝して楽しむとするか!!」
リスグラシューとジュリア、それにアパパネにブエナとゼニヤッタも加わり、食事の味付けやサービスなどを話し合っている姿を見つめながら、俺は公爵家の食事を堪能するのであった。
★☆★
「お~い、やってるか!!」
腹一杯になり、のんきに修練場に入っていく。
すると…
「ぐはっ!!」
全身血まみれのグルーヴが、口から大量の血を吐く姿が飛び込んできた。すでにアレグリアたちはボロボロになり、床に転がっている。なかなかの地獄絵図である。
「グ、グルーヴ!?」
思わず駆け寄るが…
「ふふふっ、今日二度目………死ぬ寸前まで追い込まれるという事が、これほどまでに楽しい事なのか。かなわぬ相手に立ち向かっていく。こんな経験は初めてである。ハヤト様、グラン…感謝する!!」
大量の血を吐きながらも『ニヤリッ』と笑うグルーヴ。なかなか頭おかしい。
しかし…
「ぐはあぁっ!!!!!」
もう一度、大量の吐血をし、崩れ落ちていくグルーヴ。
俺は必死で抱きかかえ、ポーションを飲ませようとする…が、受け付けない。グルーヴの意識がすでになく、口移しでポーションを飲ませていく。
グルーヴが目を覚ます。
至近距離で見つめ合う。
「もう少し、もう少しポーションが必要でございます」
グルーヴが静かに目を閉じる。
ポーションを口に含み、再びポーションを飲ませると…
「うぎゃあぁぁぁ~!!!!!痛たたたぁ~~~!!!!!」
床に転がって俺とグルーヴの姿を見ていたアレグリアやメサイア、そしてファレノプシスとウオッカが、わざとらしくのたうち回り出す。
「ハ、ハヤト!!ポーションを!!早く私たちにもポーションを飲ませて!!し、死んじゃう!!……………口移しでお願いね♡♡♡」
「……………」
俺は『それだけ動けて声を出せるなら、君たちは自分で飲めるよね?』と言おうかと思ったが、それは余りにも無粋だと思い、俺は一人ずつ口移しでポーションを飲ませていく。
(俺は紳士だ。無理やりじゃないからな!!)
心の中で言い訳をしながら、俺は一人ずつ、ポーションを飲ませていくのであったのだが、デカグランが俺を押し倒す。
「グランも、グランも!!」
俺の顔面を舐め回すデカグラン。一瞬で唾液まみれになる。
「グルーヴ楽しい!!ご主人様の魔力美味しい!!」
グルーヴやアレグリアたちは、グランに押し倒されている俺を、苦笑いを浮かべながら見つめているのであった。
【修練場の様子】
アレグリアが気合が入った顔つきでグルーヴの前に立つ。
「いい面構えじゃ!!」
ニヤリッと笑い、グルーヴは鞘から剣を抜く。
「イカズチではないんですね?」
「ふふふっ、物足りぬか?」
「はい。でも…イカズチを使う必要などないと思われているのでしょうが、その考えを変えて見せますよ。グルーヴ様!!」
アレグリアは頭上で槍を回してから腰を落とし、半身になって槍を構えた。
「ふんっ、眼帯を付けたまま、わたくしと対峙するとは…舐められたものじゃ。目は見えるのであろう。取るがよい」
「お気遣いなく!!」
「…でっ………あるか。わたくしと対峙し、怖気づかない所は誉めてやろう。ならば、遠慮なく行くぞ」
メサイアが二人の間に進み『始め!!』と、大きな声で合図をする。
(敵うわけがない…だけど………爪痕は残すわよ!!グルーヴ様は私の死角となる背中の方向から攻撃してくるに違いない。ならば…足を使って………えっ!?)
グルーヴはアレグリアの真正面から突っ込んできた。
(槍と剣では圧倒的に槍の間合いのほうが有利だわ。なんの変化もなく、ただ真正面から詰めてくるなんて…完全に舐められてる。私だって成長してるんだから!!)
重心をさらに低くして、石畳の床を力強く蹴り上げる。
(スピードだけは負けない自信がある。一突きに全神経を集中して、最速の突きを繰り出すわ!!見える!!グルーヴ様の動きが完全に見えるわ!!)
アレグリアは、なんの変化もなく間合いに飛び込んできたグルーヴを射程に捕らえ、渾身の突きを繰り出した…が、瞬間的にグルーヴの姿が消える。
(避けられた!?姿が見えない。死角に入られた。でも…)
すぐに槍を薙ぎ払うように死角に滑らす。
(!?…手ごたえが無い。グルーヴ様はどこへ!?)
右足を軸にし体を回転させるが、グルーヴ様の姿が見当たらない。
「どこ!?グルーヴ様はどこよ!!」
「ここじゃ」
背後から声がしたかと思うと後頭部に鈍い痛みが走る。
私の膝がストンッと落ちる。
跪いたところに、背後から首に剣があてがわれた。
恐ろしいほどの殺気に冷や汗が流れ落ちる。
「ま、参り………まし…た」
私は自らの負けを宣言する…が、今まで経験をした事ない殺気に、喉がカラカラに乾いて、うまく言葉が発せられない。
「でっ、あるか」
汗一つかかず、目の前に立ち、私を見下ろすグルーヴ様。
「なにもできなかった。倍以上の歳のグルーヴ様に、自慢のスピードさえも全く通じはしなかった」
「………上出来じゃ。スピードには目を見張るものがあり、槍の切れも申し分ない。さすがはハヤト様が鑑定をし、才があると断言するだけの事はある」
「失礼ですが、歳の差を考え、スピードだけは勝てると思っていました。でも…グルーヴ様の姿がまるで見えませんでした。正直………ショックです」
「ふふふっ、歳の差か。確かに、昨日までのわたくしになら、姿くらいは追えたであろう。しかし、ハヤト様のポーションのおかげで、肩やひじ、さらには長年患っていた腰痛まで、ものの見事に治ってしまったのじゃ。関節の可動域は広がり、衰え始めていた体が元通り。いや………どういうわけか、以前よりもスピードも瞬発力も増しておる。アレグリアよ、わたくしは今、20歳の頃のスピードと、年月を経て蓄えた経験が融合し、遅まきながら絶頂期を迎えたようなのじゃ!!」
「な、な、なんですってぇ~!?絶頂期のグルーヴ様になんて、通用するわけないわよ!!」
「ふふふっ、良いリアクションである!!実に愉快じゃな!!」
話を聞いていたメサイアやファレノプシス、それにウオッカが、そっと修練所から逃げ出そうとする…が『どこいくの?みんなで遊ぼうよ!!』と、グランが大きな声をあげる。
「ふふふっ、どこへ行く?遠慮など無用じゃ。メサイア、全盛期の母と戦いたいであろう?かかってくるがよい!!」
「ぜ、全盛期のお母様…この世で一番対峙したくない相手。アレグリア、大迷惑です」
「………ごめんなさい」
苦々しい顔をしたメサイアがアレグリアに愚痴るが、当のアレグリアは後頭部を押さえ苦悶の表情。一言、謝るのが精いっぱいの様子。
「なにをぶつくさ言っておる。お前たち、死ぬ間際まで追い込まれるのも悪くはない。ふふふっ、案外、限界を超えて成長するためには必須かも知れぬな。来ぬなら、わたくしの方から行くぞ!!三人まとめて相手をしてやろう」
『ぎゃあああああ~!?!?!?』
修練場には四人の悲鳴が渦巻き、絶える事が無かったのだった。




