第150話 ツンデレのミスリル備えのグルーヴ
「シーザリオ、大丈夫かっ!?」
俺は背中に手を当て、真っ青な顔をしたシーザリオに魔力を流し込む。
すると『ふうぅぅぅ~』と息を吐き、シーザリオは目を開けた。
「ごめん、負担をかけてしまった。俺のミスだ」
「ふふふっ、お役に立てて光栄ですよ。でも…体に負担がかかったのは事実。しばらく休ませてください」
「あぁ…ごめん」
シーザリオはそのまま目を閉じ、俺の胸に顔をうずめた。
「まあ、しばらく安静にしていたら大丈夫でしょう。しかし…この惨状は………」
メサイアは水浸しになった晩餐会場と、壁に空いた大きな穴を見渡しながら言う。
「ふふふっ、しばらくは使い物にならぬのう」
楽しげに言うグルーヴ。全く気にしている様子はない。
「すまん。弁償するから…」
「弁償?ハヤト様、わたくしは嬉しく思っておりますのよ。こんなにワクワクするのは何年振り…いえ、生まれて初めての事ですわ!!グルーヴの残りの人生、ハヤト様と共に生きていけるかと思うと、胸の高鳴りが抑えられません。早急にシェイディに公爵家を継がせる手続きを開始いたします」
グルーヴは躊躇なく片膝をつき、深々と頭を下げたのだった。
★☆★
シーザリオの体調も改善して、応接室に移動する。
「やっぱり、エアディドール城は広いんだね」
「そうですね。晩餐会場の周辺は、しばらく使い物にならないと思いますけど…特に問題はないですよ」
「ふふふっ、でも、ハヤト様。あの惨状を見た者は、間違いなく襲撃にあったのかと思う事でしょうね!!」
メサイヤと体調が回復したシーザリオと共に話をしながら歩く。
「はははっ、申し訳ないとは思ってる。王都の屋敷にエアディドール城、結構な破壊活動をしてしまった。シーザリオと俺とグランは反省しないとな」
二人と歩きながら軽口を叩いていると…
「ハヤト様、メサイアお嬢様。それにシーザリオ様。失礼ながら王都の屋敷への襲撃事件。もしかして…皆さまの仕業なのですか!?」
前を歩いているナナが振り返りながら聞いてきた。
その顔は驚きに満ちていると同時に、呆れているようにも見えた。
『ええぇっと…ごめんなさい』
俺たちは逃げきれないと思い、素直に謝る。
「エアディドール家創設以来の危機かと思いきや………身内の仕業だったとは…。この後始末、どうするのです?」
「う~ん、グルーヴに丸投げするしかない!!」
俺は深く考えるのは止めて、開き直るのだった。
★☆★
応接室に移動した。ここは一般的な客人の対応をする部屋ではなく、エアディドール家の身内や、その関係者に対応する部屋のようだ。
「ふふふっ、実のところ、察しはついていたのですが、やはりハヤト様の仕業であったか!!しかし…ハヤト様とグランはともかくとして、シーザリオがここまで強くなっているとは驚きじゃな。なにがあった?」
「あはははっ、私…魔人になりました!!」
「なにっ!?………魔人…じゃと!?」
「ハヤト様の魔力を体内に流し込む事により、人間の領域を突破いたしました。今、グルーヴ様と戦えば、私のほうが分が良いかと思われます」
「………納得いかぬな。わたくしは厳しい稽古をしても、すでに伸びしろはほとんどないに等しいというのに」
「ふふふっ、魔法使いの特権と言えばいいのでしょうか?」
「理不尽なものである」
グルーヴが少し恨めしそうな顔をしてシーザリオを見つめる。
「ところでハヤト様。まだ、わたくしの色をうかがってはおりませぬが?」
いきなりグルーヴから話を振られ焦る。
「あっ!?忘れて…いや、当然考えてるよ!!赤、桃、青、金、白、そして…黒。それらの色と一線を画す………銀色だ!!銀の光を放つミスリル備えのグルーヴ!!どうだ?」
『ミスリル備えのグルーヴ!!』
シーザリオとメサイア、そしてFCLのメンバーが声を揃えて言う。
「ふっ、ミスリル備えのグルーヴ!!悪くない、悪くないのぅ~!!さすがハヤト様じゃ。私の事を分かっておられる!!ミスリルは貴重な素材だが、幸いエアディドール家の宝物庫に蓄えはある。しかし、ミスリルを加工し、高品質の武具を作れる職人が…」
「それなら大丈夫だ!!イカズチを打った鍛冶職人を知ってる。その人に頼む」
「んっ!?先程、ブロディという名が聞こえたが………あのドワーフの爺に!?」
「ふふふっ、知ってるよ。イカズチを手に取り『まあまあの出来であるな』と、憎まれ口を叩いたんだろ!!」
とたんに顔を赤くするグルーヴ。初めて対峙した時は無表情で、なんの感情も感じさせなかったが、かなり喜怒哀楽が表情に出てきて、人間らしさが増した感じがする。
「な、なぜその事を!?メサイア、あなたが喋ったのですか!?」
「お母様、私はそんな事まで知りませんよ。ブロディさんが言っていたんです」
「………あの爺」
「ふふふっ、ブロディさん。お母様がイカズチを大切にしていると言ったら、嬉しそうにしてましたよ!!」
「はははっ、グルーヴはツンデレだよね!!」
「ツ、ツンデレじゃと!?ハ、ハヤト様、また私をからかっておいでなのですかっ!?」
「違うよ。ツンデレは可愛いって事だから!!」
さらに顔を赤くするグルーヴ。可愛いと言われるのは嬉しいが、まだ慣れないみたいだ。
俺は『顔を赤く染め上げ恥ずかしがる超絶美女、ミスリル備えのグルーヴ。嫌いじゃない!!』と、再びグルーヴを抱き寄せるのであった。
【アレグリア視点】
グルーヴ様がまるでハヤトに忠誠を誓うように、片膝をつき頭を下げている。
信じられない光景が目の前に広がり感動をする…が…『あのグルーヴ様がハヤトに忠誠を誓い、私たちのパーティーに加入する………夢でも見ているのかしら?』という気持ちもある。
しかし、そんな思いとは別に、ワクワク感が抑えきれない!!
(やってやるわよ!!もっともっと努力して、グルーヴ様に追いついてみせるわ!!)
無意識のうちに愛槍を握り締める手に力がこもる。
気合が入る…が、同時に『パーティーのお荷物になったり、置いてきぼりにはなりたくない!!』という思いが募る。
未来への期待と不安が、心の中で渦巻く。
だが、圧倒的に期待感の方が上回る。
(生ける伝説みたいな人がこんなに近くにいるんだ。吸収できるものは吸収して血肉としてみせるわ。そして…いつの日にか…必ずS級冒険者に!!)
ハヤトに抱きしめられているグルーヴ様の姿を見つめながら『グルーヴ様と対峙したなら、どう戦うか』をシュミレーションする。
(ハヤトに抱きしめられて腑抜けている今を狙えば、簡単に勝てそうなものだが…そんなんでは意味がないわ。たとえ負けたとしても、正々堂々と戦わなければ、現状の力の差さえ分からない。おそらくグルーヴ様の全盛期は20代。今は…30後半だったはず。持久戦に持ち込み、スタミナ切れを狙う戦法では………無理か。私の戦闘スタイルじゃないし、そもそも私にスタミナがなかった………。でも、速攻を仕掛ければ、グルーヴ様の思うつぼ。瞬殺されるに違いないわね。………勝ち筋が全く見つからない)
頭の中で何通りかの戦術を考えるも、一切勝てる気がしない。
(ふふふっ、考えるだけ無駄だわ!!ここは………当たって砕けろ戦法しかない!!あれこれ考えるのは私らしくない。今は勢いのまま突っ走る!!)
武者震いがする。
愛槍を握り締めている手に汗がにじむ。
(よし!!グルーヴ様に勝負を挑む!!)
そう思うと、私は居ても立っても居られなくなる。
グルーヴ様がハヤトの腕の中から離れた瞬間、すかさず勝負を挑みにいくために歩み出るのでした。




