第147話 両手に母娘
「そうか、アレグリアが最初にハヤト様と出会ったのか」
「はい。私が森で薬草を探している時に、偶然出会いました。その時、ハヤトはこっちの世界に転移して来たばかりで、かなり戸惑っていました。ふふふっ、私の事をバケモノだと勘違いして、目を閉じながら木の棒を振り回していましたよ」
「そうかっ!!目を閉じて棒を振り回していたのか。それはそれで見て見たかったものじゃのう!!ふふふっ、恐怖におののいたハヤト様の顔も可愛かったであろう!!」
食事をしながら会話をしていくうちに、みんなもグルーヴとの接し方に慣れてくる。
今もアレグリアと楽しげに会話をしている。
「なんと!?アレグリアとジュリアは親子なのか!!とても親子には見えないが…そうか!!ジュリアもハヤト様が作った美肌ポーションを飲んだのだな」
「はい。おかげで、見違えるような瑞々しいお肌に。それに…胸やお尻の張りも戻ってまいりました」
「うむっ、その気持ち…痛いほど分かる。ナナはシミ一つ無い白い肌と世辞を言うが、そんな訳がない。若い頃は戦場を駆け回り、今も稽古で陽にさらされている女の肌、シミやくすみが目立っていた。しかし!!」
グルーヴは立ち上がる。
「この美しい肌…指…胸………そしてお尻。10代とは言えぬが、20代後半ぐらいには見えるであろう!!ほうれい線も目立たなくなり、プルンプルンじゃ!!」
ナナを手招きで呼び寄せる。
「どうじゃ、ナナ!!わたくしの肌は?」
「は、はい………とてもお美しくなられたと思います」
「んっ!?どうしたのじゃ?」
「………私は幼少の時から同い年のメイドとして、グルーヴ様のお側に仕えてまいりました。しかし………今はとても同い年には見えません。嬉しい反面、正直、女としては複雑な気分でございます。それに…」
「それに、なんじゃ?」
「自分だけが取り残されたような感情になり、グルーブ様が離れていってしまわれるのではないかと………それが恐ろしくてなりません」
寂しそうな顔をするナナ。
「………そうであったか。すまぬ、わたくしの気が回らなかった」
「い、いえ。ババアの戯言とお忘れください」
「ハヤト、すまぬがナナのための美肌ポーションをもらえぬか?」
「それは構わないけど………お高いですよ!!」
「構わぬ。私とナナは乳姉妹、長年に渡り私の事を支えてきてくれた礼じゃ。金は惜しまぬよ」
「では…俺のポーションを取り扱っている商人を紹介します。ゼニヤッタ」
ゼニヤッタが立ち上がり一礼をし、すぐに商談を始める。
「グルーヴ様、お初にお目にかかります。私はハヤト様に懇意にしていただいている、商人のゼニヤッタと申します。私が取り扱っている商品は多岐にわたりますが、ハヤト様関係の商品はと申しますと、シーザリオ様お墨付きの下級ポーション。これは、ハヤト様のお墨付きポーションと言う事もできるかと思います。あとは、この下級ポーションにハヤト様の魔力を加えられた中級、上級ポーションが少々。先ほどから話題の美肌ポーションに毛生えポーションがございます。しかしながら、美肌と毛生えの各ポーションは現在非売品という扱いで、ハヤト様の許可が無いとお売りできません。今回はハヤト様直々の商談という事になりますので問題ありませんが、何卒、美肌ポーションの出どころは、他言無用にお願いいたします。あと、すでにシャカール様より公爵家に出入りさせていただくという許可は頂いておりますが…」
ゼニヤッタは恐る恐るグルーヴに公爵家の御用商人許可のお伺いを立てる。
「うむっ、ゼニヤッタ。私もそなたがエアディドール家に出入りする事を認めよう」
あっさりと認めるグルーヴに『ホッ』とするゼニヤッタ。
相当緊張しているみたいだ。
「………ちょっと待て、今、毛生えポーションと言うたか?」
「はい。こちらはシャカール様と定期購入のお約束が成立しています」
「では…すでにシャカール殿の頭髪は………」
「ご想像の通り、ふさふさでございます」
グルーヴがニヤリッと表情を崩す。
「そうか、そうか。あの禿げ頭が…さぞ喜んでいたであろう」
「はい。金に糸目は付けぬと………ご契約して頂いております」
「でっ、あろうな。ハヤト様、わたくしも美肌ポーションを定期購入したい!!これは、一度飲んだら止められるわけが無い。私も金に糸目は付けぬ、良いであろう?」
「断る!!」
「な、なぜじゃあ!?私が嫌いなのか?五人も子を産んだ年増は、すでに女ではないと…」
まさか断られると思っていなかったグルーヴは動揺を隠せない。
涙目になって、すがるように俺を見つめる。
その顔は愛する人を見つめる女性の顔になっていた。
「違うよ。すでにグルーヴは俺にとって大切な女性だ。お金なんて取らない。プレゼントするに決まってるじゃないか!!」
「ハヤト様!!」
グルーヴが立ち上がり、俺の胸に飛び込んできた。
体が密着し、ドレス越しにグルーヴの巨乳の感触が伝わってくる。
「ハヤト様、お母様を受け入れてくれて、ありがとうございます」
メサイアも満面の笑みを浮かべ喜ぶ。
「メサイアもこっちにおいで!!」
「はい」
俺はメサイアを呼び寄せ抱きしめる。
そして『これがこの世界の常識なんだろ!!』と思い、右手をグルーヴの腰に、左手をメサイアの腰に回し、母娘二人を『俺の女だ!!』と言わんばかりに抱きしめるのであった。
【ナナ視点】
(本当にグルーヴ様はエアディドールの名を捨て、ハヤト様と共に行ってしまうのか?………もし、グルーヴ様がこの城を去ったら…私は………)
人生の全てをグルーヴ様に捧げてきた。
あのままグルーヴ様が命を落とされたら、なんと言われようとも自ら命を絶つ事にためらいなどはない。むしろ喜んで自害し、グルーヴ様の後を追う。
私の心に不安が渦巻く。
(………私は…取り残される)
体から血の気が引き、寂しさで押しつぶされそうになる。
(嫌です、絶対に嫌です!!グルーヴ様と離れて生きていく事などできはしない)
その時、おトイレに向かうハヤト様の姿を確認する。
私の体が自然とハヤト様の後を追う。
なにも考えられずに本能のまま、トイレに入っていく。
そして、個室で座るハヤト様の前で土下座をした。
「ハヤト様、グルーヴ様の命を救っていただき、ありがとうございます」
「あっ…あのう~…」
個室で座るハヤト様は唖然としている。
「僭越ではございますが、お願いがございます。私もグルーヴ様と共にお連れ頂けないでしょうか?なんでも致します。雑用でもなんでもお言いつけくださいませ。このナナ、伊達にメイドを30年間勤め上げてきたわけではございません。必ずや、ハヤト様のお役に立って御覧に入れます。是非とも!!!!!」
トイレの床に額をこすり付ける。
「そ、そんな事、急に言われても…ここは…トイレの中で、俺は今…」
私は『ハッ』とし、我に返る。
グルーヴ様を失うかもしれないという思いが暴走し、ハヤト様が入っている男性用のトイレに侵入するという失態を犯している事に気づく。しかも、ハヤト様が用を足している個室のドアを開けている。
「も、も、も、申し訳ございません」
私はこれ以上できないというほど平身低頭して謝罪する。
「いいから!!許すから!!とりあえず、トイレから出てってくれないか?さすがに恥ずかしい………」
私は土下座で床に額をこすり付けながらトイレを出て行く。
しばらくして、ハヤト様が気まずい顔をしながらトイレから出てきた。私は土下座をしたまま迎える。
「グルーヴについてくるのは構わない…が、今後一切、土下座はやめてくれ。これは命令だぞ」
「ハ、ハヤト様、ありがとうございます!!」
私は歓喜に震え、再び床に頭をこすり付けてお礼を言う。
「だから!!土下座はやめてくれって言ってるだろう!!」
ハヤト様が私の体を抱きかかえるようにして立たす。
「………ナナ。よく見ると、幸が薄そうな顔をしているけど…美人だな」
「……………」
不意に呟かれたハヤト様の一言に、思わず『ドキリッ』とする。
(ま、まさか!?こ、これは…もしかして………『グルーヴ様についてくる事は許すが、俺の夜の相手も頼む』と、いう事ですか!?)
私は赤面しながら『こんな年増でもよろしいのですか?』と聞いてしまう…が、どうやら考え違いのようだ。ハヤト様は苦笑いを浮かべている。
「少し話がしたい。どこかに空いた部屋はないかな?」
「はい。では、こちらの部屋へ」
私とハヤト様は空き部屋に入っていく。
ハヤト様は椅子に座り、私は正面に立っている。
「すまないが鑑定させてもらう。あまりプライベートな部分までは踏み込まないが………一応な」
「私に隠すところなどはございません。グルーヴ様一筋との思いで生きてまいりました。心の奥深くまで、ハヤト様が納得するところまで鑑定をお願いいたします。清廉潔白、品行方正、謹厳実直。すべて私の心を言い表す言葉でございます!!」
私は自信満々で答える…のだが…
「ナナ、すまないが、やっぱりお前を連れていくわけにはいかない」
鑑定を終えたハヤト様が苦々しい顔をして言い放った。
「な、なぜです!?私の清く正しい心が、お気に召されませんか!?」
予想外の返答に、思わず食って掛かってしまう。
「どこが清廉潔白なんだよ!!お前が言うから、心の奥深くまで鑑定してみたが、毎夜毎夜、グルーヴの尻を叩く事を想像しながら、一人遊びを楽しんでるじゃないか!!」
「でっ!?な、なぜ、その事を!!」
「俺がマリア様と同等の鑑定スキルを持っているという事を聞いていなかったのか?お前の不埒でふしだらな感情はお見通しなんだよ!!」
私は膝から崩れ落ち、頭を抱える
そして言い訳をする。
「ハヤト様、違うのです!!現実と想像の区別はつけております。本当に私はグルーヴ様のためだけを思い、仕えてまいりました。約30年間もの間、グルーヴ様を不快な気持ちにした事など、一切ございません。でも…でも………夜な夜な一人きりになると、脳が勝手に想像し、指が勝手に秘部へと…」
言い訳をしながら、自然と涙が溢れてくる。
(もう…ダメだわ。こんなグルーヴ様への不埒な思いが知られては…もう………諦めるしかない)
絶望が押し寄せるも、すがるような気持ちで顔を上げ、ハヤト様の顔を見る。
以外にも、目を閉じて頷いているハヤト様。
そして…
「その気持ち、分からないでもない!!」
「わ、分かるんですかっ!?」
「実は…俺も………少し興味があるんだ!!」
予想外の言葉に私は思わず立ち上がり、スカートをたくし上げる。
「ご存分に!!ご存分に満足するまで、ナナの尻をおぶちください!!」
勢いで四つん這いになったはいいものの、ハヤト様の反応は鈍い。
そして…
「ナナ、俺はぶたれたい方なんだよ」
顔を赤らめて言うハヤト様。可愛い。
そして…微妙な空気が流れる。
しばらくの沈黙の後、ハヤト様が何かを決断した様に言う。
「この話は俺が預かる!!実は俺の生きていた世界でも、夫婦や恋人同士で尻を叩くというプレイは行われていた。ふふふっ、大人の遊びだがな」
「なんて素敵な遊びなんでしょう。私も異世界に生まれたかった」
「嘘を言うな。お前はグルーヴにしか興味がないはずだ」
「確かに…そうでございます」
「ナナ、お前のその欲望。叶えてやってもいいぞ」
「へっ!?ほ、本当でございますか?」
「うむっ、今すぐにとはいかないが、そのうち時期が来ればな。グルーヴについてくるという事は、俺に付いてくるという事と同義。これからは俺のメイドとしても働いてもらうし、ジュリアが経営する宿の従業員としても働いてもらう。いいな!!」
「はい!!グルーヴ様と同様、ハヤト様にも心からの忠誠をお誓い申し上げます」
「いつ出発するかは分からないが、準備はしておけよ」
「お任せください!!」
ハヤト様はドアノブに手をかけ、部屋から出て行こうとするが振り返り『想像までは禁止はしない。これからもいろいろ想像して楽しむがいい。だが!!俺に黙ってグルーヴに手を出す事があれば容赦しないからな』と言い、最後は笑顔を見せて去って行かれた。
私はハヤト様が出て行かれた後も、しばらくはドアに向かって頭を下げるのでした。




