第142話 ありがとう…そして…死ね!!
エアディドール領へと向かう道中、水遊びをしたり、FCLが行う狩りのお手伝いをしたりと、楽しみながら進む。当然、野営も楽しいし、みんなで野外で食べる食事も美味い。
しかし…先日、届けられたグルーヴ様からの手紙を読み返すと憂鬱になる。
「なぜ、自分よりも早くシャカール様に挨拶をするのかって…これ、絶対怒ってるよなぁ?」
「…間違いなく」
「公爵はシャカール様なので仕方が無くって理由は通用する?」
「内情を知らなければ通用するかもしれませんが、私やシーザリオがいるので無理筋かと思われます」
「公爵家を牛耳る最強の義母か…戦ったと仮定して、俺、本当に殺されない?」
「………ハヤト様が強ければ強いほど、お母様は本気になると思われます。最近は全力を出し立ち向かう戦場も相手もいませんから…。ですが、その本気のお母様を跳ね返した時、心から認められる事ができると思います」
「はあぁぁぁ~~~」
メサイアの話を聞き、俺はさらに憂鬱になる。
『ハヤト様、頑張ってえぇ~!!』
自分たちは関係が無いと、シーザリオたちは無責任に声援を送る。
「頑張ってって言われても…」
「明日にはエアディドール領に入ります。覚悟を決めましょう。私としては、ハヤト様が本気になり、逆にお母様を傷付けはしないかと、そちらのほうが心配です。それに、一度も負けた事のないお母様がハヤト様相手に負けを知る…精神的にショックを受けてしまうのではないかと危惧しています」
「はあぁ~、メサイアは俺の事を買いかぶり過ぎだよ」
もう一度、手紙を読み返し、俺は大きなため息を付いた。
★☆★
いよいよエアディドール領に入る。
何か物々しい雰囲気。
俺たちの馬車はすんなり入れたが、そのほかの馬車はかなり厳重な検査が行われていた。
「エアディドール領へ入るには、いつもこんなに厳重な検査が行われているのか?」
「い、いえ…そんな事はないのですが…」
メサイアも困惑し、検査を行っている兵士に理由を尋ねる。
どうやら王都の屋敷が襲撃に合い、非常事態宣言が出されているとの事だった。国内の貴族か、はたまた外国勢力の仕業か分からず、臨戦態勢が引かれているらしい。
「………申し訳ない事をしちゃったな」
『……………』
俺の言葉に顔を見合わせ、苦笑いをするメサイアやシーザリオたちであった。
★☆★
襲撃の件はコロッと忘れ、エアディドール領の美しい景色に目を奪われる。
『おおぉぉぉ~!!凄い、海だ!!!!!』
山道を進む馬車から見下ろす海は雄大に広がり、日差しに照らされキラキラと輝いて見える。
海を見た事の無かったアレグリアやアパパネ、それにブエナが猛烈に感動して馬車から身を乗り出している。
「ハヤト、海よ、海!!」
「そうだな」
「もっと感動してよ!!」
「いや、俺のいた世界にも海はあったし、特になんとも…」
「もうっ、仕方が無いわね!!」
アレグリアから理不尽に怒られるが、海を見つめる嬉しそうな笑顔を見ると、エアディドール領に来た甲斐があったと思える。
山を下り終えると、街に入るための検問所があった。
当然、ここでも厳重な検問が行われていた。俺たちは素通りできたのだが、みんな迷惑そうな顔をしている。
「ハヤトはん、武器商人が多いですわ。ウチの知り合いも何人かいました。グルーヴ様、本気で戦争をやらかすつもりなのかも…どないしますの?」
「せ、戦争!?相手は………俺たちか?」
「ほかに誰がいますの?」
「いないな。俺たちが犯人だし…こんな大事になってしまうとは…どうする?」
俺はメサイアに話を振る。
「どうせ証拠はないんですから、知らない振りをするしかないでしょう。間違いなく誰も攻め込んで来やしません。犯人は私たちですから…。非常事態宣言など、すぐに解除されると思います。知らない振りですよ、知らない振り!!」
「はははっ、いざとなれば、ハヤト様と私、それにFCLでエアディドール城を攻め落とすのも面白い。そうなればメサイア、あなたはどちらに味方する?」
困り顔をするメサイアを相手に茶々を入れるシーザリオ。自分が原因なのに、実に楽し気である。
検問所を抜けると、石造りの建物が立ち並び、街は活気に満ち溢れていた。戦争が始まるかもという事態なのに、さすが武闘派貴族のお膝元という感じがする。
「ハヤト様、魚がたくさん並んでいます!!」
リスグラシューが歓喜の声をあげる。
「ふふふっ、浜焼きもいいが、普通にリスグラシューの調理した魚料理も食べたいね!!」
「食べたい!!!!!」
俺の言葉が聞こえたのか、御者を務めているウオッカが叫ぶ。
これにはみんな笑顔になり大笑いをする。
そうこうしているうちに、俺たちはエアディドール城に到着した。
馬車の中から見上げる城の壁が白く輝いて見える。
「このエアディドール城は『真珠城』との愛称で親しまれています」
「…真珠城………か」
メサイアに言われ納得する…が、俺にはどうしても、メサイアに似た白い肌の女帝が俺の事を見下ろしている感じがしてしまい身震いする。
城門を通り、中庭に出る。
ここで馬車から降りる。
「お帰りなさいませ。メサイアお嬢様」
「ありがとう、ナナ。大変な事態になっていますね。それで、お母様は?」
「はい。謁見の間に…。本日の予定を全て白紙にして、首を長がくしてお持ちになっております。ただし…非常事態宣言を出され、少し気分が昂っているご様子。お気を付けください。………それにしてもメサイアお嬢様」
「どうしたの?」
「………お肌が」
「ふふふっ、さすがね!!」
「一体、どうしたらその様な瑞々しいお肌に戻られるのでしょうか?」
「聞きたい?」
「当然でございます!!」
「愛よ!!ハヤト様への愛の力が、私のお肌を若返らしたのです!!」
ナナという使用人が俺の事をチラ見する。
「………愛、ですか?私には分かりかねます。その愛とやらを、グルーヴ様の前でも貫き通せれば良いのですが…」
ナナが俺たちを先導し、城の中に入っていく。
公爵家の家臣や使用人、それにメイドたちが一列に並び頭を下げている。
一見、礼儀が徹底されていて感心をするが、一糸乱れぬその姿は、威圧感をも感じさせなくもない。
しばらく歩くと大きな扉の前に出た。
扉が開かれる。
部屋の奥には戦闘服を身にまとい、半笑いで俺を見据える美熟女が座っていたのだった。
部屋の中央まで進み頭を下げる。
物音ひとつせず、緊張感が半端ない。
メサイアが俺たちを紹介する。
「………でっ…あるか。それにしてもメサイア。なにがあった。一体、なにがあればそのような瑞々しい肌に戻る事ができるのじゃ!?」
グルーヴ様は俺たちの存在など無視して、メサイアの肌に興味を持つ。
「ふふふっ、その話は後ほどいたします。今は…」
メサイアが俺に挨拶をするよう促す。
「ハヤトと申します。本日は………」
「メサイア、あなたが見染めた男がどのような男か楽しみにしていたのだが、ここにきて父親の血が目覚めたのか…見るからに弱々しい子供ではないか。ポーション売りとは聞いておったが、本当はエアディドールに相応しい、屈強な男を連れてくるのではないかと、楽しみにしておったのだぞ!!」
グルーヴ様が俺の挨拶を遮り言い放つ。
その声色には怒りと、若干の失望感が感じられた。
「エアディドールが未曾有の危機であるというのに…もうよい。下がれ!!」
グルーヴ様は立ち上がり謁見の間から去ろうとする。
「お母様、確かにハヤト様は年下で可愛らしく『私が守ってあげないと!!』と、母性本能をくすぐられる容姿をしていますが、お母様を納得させられる屈強さも持っておられます!!」
「……………」
グルーヴ様が足を止め、俺の事を見据える。
「ふんっ!!戯言を言うでないわ!!」
再び歩みを始めるグルーヴ様。
「お母様!!」
メサイアが叫んだ瞬間、グルーヴ様の姿が消えたかと思うと目の前に姿を現し、俺の首に剣をあてがった。
「………反応すらできぬではないか」
再び失望した顔をするグルーヴ様。
その表情には、俺に対しての哀れみさえ含んでいた。
背を向け、歩みを始めるグルーヴ様。
「避けようと思えば避けられたけどね」
俺はグルーヴ様の背中を見つめながら呟いた。
ピタリッと足を止めたグルーヴ様。
「舐めた口を叩くでないわっ!!!!!」
振り向きざま、俺の首をはねようと剣をふるう。
一瞬で目を血走らせ、その美しい顔が剣客の表情に変わった。
(た、短気過ぎるだろっ!?)
慌ててバリアを張る。
「ガギーーーーン!!!!!」
剣がバリアに阻まれ稲妻が走る。
なおも強引にバリアを突破しようとするグルーヴ様。
至近距離から見える顔は、目が血走り、歯を食いしばって歪んで見えるのだが………美しかった。
「ピシッ…ピシピシッ……ガギィーンッ!!」
剣が圧力に耐えられなくなり折れる。
回転しながら剣先が吹っ飛んでいき、天井に突き刺さった。
一旦バックステップを踏み、距離を置くグルーヴ様。
その表情は驚きに満ちていて、無残に折れた剣を見つめる。
「………ナナ、宝物庫からイカズチを持ってまいれ」
ナナが大慌てで謁見の間から飛び出していく。
「ハヤト…メサイア。弱々しい子供と言った事は撤回しよう。ふふふっ、実に愉快であるなぁ~!!」
グルーヴ様は破壊された剣を投げ捨て、俺の体を舐めるように見つめながら、真っ赤な唇を舐める。
その表情は、俺をどうやって料理して食べてしまおうかと楽しんでいる顔に見えた。
(むっちゃ…エロい!!)
俺はグルーヴ様の妖艶な舌の動きに魅了されそうになる。
「お母様、ハヤト様の力の一旦は分かったはず。もう…」
「…力の一旦………っであるか。メサイア、それならなおの事、止めるでないわ。これからが楽しいのではないか。私は長い間、つまらぬ時間を過ごしてきた。ふふふっ、命のやり取りほど興奮し、快感を味わえる事はない。メサイアもそう思うであろう?屋敷の襲撃と合わせ、血がたぎるわ!!」
「ここは戦場ではございません。今はハヤト様の力を見極めるだけ」
「止められぬ。もう…私の熱き血が、永い眠りから目覚めてしまった。ふふふっ、ハヤト、それにメサイア、そなたたちに礼を言わねばなるまい。ありがとう、ハヤト。そして、死ぬがよい!!」
「お母様!!このまま戦いが続けば…死んでしまうのは………お母様です」
「………でっ、あるか。それもよかろう。戦って死ねるなら本望じゃ!!」
メサイアの必死の叫びにも、グルーヴ様は耳を傾けない。
ナナがイカズチを抱え部屋に戻ってきた。
鞘から剣を抜き…舐める。
「ハヤト、もし私の一撃をしのいで命があったのなら、今夜、私を抱くがよい。貴様の子を産んでやろう!!」
「へっ!?母娘丼は一杯で十分なんで…って、なんでそうなる?俺はメサイアを嫁に…」
「わけの分からぬ事をぬかすでないわ!!行くぞ!!」
殺意むき出しで眼光を鋭くするグルーヴ様であった。
【エアディドール家の危機】
「シェイディ!!王都の屋敷が襲撃にあったという緊急の連絡があった」
「襲撃!?…何者の仕業ですか?」
「分からぬ。王都のほうも混乱を極めているらしい。確定的な情報は、まだ入ってきてはいない」
「しかし、国内でエアディドールに弓を引く者がいるとは思えません。外国勢力という可能性も考える必要がありますね。母上?」
「………いずれにしても、エアディドールにとって、未曾有の危機である!!」
「もしかして、父上になにかあったのですか!?」
「負傷者はなしと書かれている…が、戦闘力測定人形を三体………破壊されたようじゃ…」
「えっ!!本当ですか!?」
「うむっ、シェイディ、あなたに壊せるか?戦闘力測定人形を?」
「無理に決まっております!!失礼ながら、母上でも難しいのではありませんか?」
「………すべての力を出し切れば、一体くらいは可能かもしれん。しかし、その反動で、この身も無事とは言えぬであろうな。それを壊す事ができる敵であるという事じゃ…しかも三体も!!」
「……………」
「一体はバラバラにされ、もう一体は脳天から股にかけて切断されていたようじゃ…。そして最後の一体は、バラバラに破壊された上に、残骸が凍っていたそうじゃ。驚く事に、その残骸は数日の間解ける事も無く、未だに凍ったままであるらしい…」
「………そんな氷魔法、聞いた事がありません」
「これはエアディドールに対しての戦線布告!!そして未曾有の危機である!!シェイディ、王都へ走れ!!詳しい情報を確認してまいるのじゃ!!」
「はい!!」
「ふふふっ、あなたを元服させておいて良かった。血がたぎるのう…シェイディ!!」
「母上、いつエアディドール領に敵が襲ってくるか分かりません。どうぞ…ご無事で!!」
「うむっ!!そなたも道中、油断するでないぞ!!」
「心得ました!!」
「皆の者!!戦の準備じゃ!!!!!」
エアディドール領内は殺気に満ち溢れ、臨戦態勢を整えるのであった。




