第141話 エアディドール領へ!!
「明日の早朝に出発するだとっ!?なぜだ?手紙には王都を見て回り、学びを深めたいと書いてあったではないか」
「………それは」
メサイアが言い淀み、俺の顔を見る。
「実はグルーヴ様から催促の手紙が届いておりまして…。その内容が『早くエアディドールまで挨拶に来い!!』との内容で…。文面の雰囲気から想像するに、非常にご機嫌がよろしくないかと…」
「………まあ、そうであろうな。勝手に婚約者が出来たと言っても、グルーヴがやすやす認めるわけはあるまいよ」
「ですから予定を変更し、少しでも早くグルーヴ様にお会いして、怒りを鎮めてもらおうと、予定を変更しました」
「そうか…うむっ、そのほうが良かろう。ただし!!絶対に死ぬなよ!!」
「…さすがに娘が連れてきた相手を殺しはしないでしょう?」
「甘い!!ハヤト、お前がつまらぬ男と思ったなら、メサイアにお前を忘れさせるためにも、この世から葬り去ればいい、そうグルーヴは考える。グルーヴとはそういう女だ」
「……………」
俺はシャカール様に返す言葉が見つからない。
「そこは大丈夫です。お母様がハヤト様を殺す事はありえません」
「なぜだ、メサイア。なぜそう言い切れる?」
「お父様、私を見て、なにかお気づきの事はありませんか?」
「んっ?歳を重ねる毎にグルーヴに似てきよるが…それがどうした?親子なのだから、当たり前であろう」
「顔や体つきの事ではありません。私の肌をご覧ください」
「肌…どうした?」
「………これだから男は」
メサイアは立ち上がり、シャカール様の目の前まで歩み寄る。
「お父様、よくご覧ください。私の瑞々しい肌を!!きめが細かく、シミの一つもないでしょう。それに稽古でできたアザも無く、白く透き通った美しい肌を!!」
「お、おうっ…そうだな。綺麗だと思う?」
「なぜ疑問形なのですか!!お父様がそんなに鈍感だから、お母様の性格が日に日に刺々しくなっていくのです」
「そうか?昔っから、グルーヴはあんな性格だったぞ」
「だから!!夫婦なんですから、お父様がもっとお母様に愛情を注ぎこめば、お母様の性格も穏やかになったはずです!!」
「いや、貴族というものは利害関係で婚姻するもの。そこに愛情はあまり関係が無い。メサイア、お前も知っての通り、現に側室や愛人を多く持つ貴族がほとんどだ。男だけではない。奥方のほうも、よろしくやっている。まあ、グルーヴは剣の道をひたすら極めるという稀な生き方をしてはいるがな」
メサイアはがっくりと肩を落とし席に戻る。
「お母様だって女です。美や若さに対しての執着心があります。ハヤト様は毛生えポーションだけではなく、美肌ポーションまで作れるのです。この美肌ポーションを一度でも使えば、お父様と同じく、お母様もハヤト様を気に入る事でしょう」
「…美肌ポーション。二十歳を越えた年増女の考える事は分からんが…」
『年増!?』
メサイアとシーザリオとゼニヤッタ、そしてジュリアとファレノプシスとウオッカが思わず立ち上がる。
特にシーザリオからどす黒いオーラが洩れる。
「この腐れ禿げ公爵が!!」
シーザリオが暴言を吐き、腕に魔力をまとわせる。
「ふんっ!!いい度胸だ、シーザリオ。それに、禿げ公爵とは誰の事かな?」
シャカール様が金髪をなびかせ剣の柄を握る。
「お父様、おやめ下さい」
「とめるでないわ!!」
メサイアがシャカール様の前に立ちはだかる。
「まあまあ、シーザリオも興奮しないで…なっ!!」
素直に俺の言葉を聞いて、魔力を押さえるシーザリオ。
「無礼な物言い、申し訳ありませんでした」
「…いや、私のほうこそ、すまなかった。年増という言葉は撤回しよう」
二人は和解をするが、残念ながら晩餐会には微妙な空気が流れ、早々とお開きになった。
★☆★
翌朝、東の空がしらみ始めているが、まだ辺りは暗闇に包まれている。
俺たちはエアディドール領へ向かうための準備をする。
馬車に乗り込む前…
「ハヤト、毛生えポーションの事、礼を言う。本当に感謝している」
「俺たちの見送りのために早起きまでしてもらって、こちらこそ本当にありがとうございます」
シャカール様と俺はガッチリと握手を交わし抱擁する。
(見送りのために、自ら早起きをする。こういうところが親しみやすいと言われている理由なんだろうな。………ロリコンだけど…)
俺は最後に『これを』と言って、用意していた毛生えポーションなどを渡した。
「おおっ!!毛生えポーションであろう。感謝する!!………っで、この箱は?」
「自作ポーション類一式です。毛生えポーションは入っていませんが…」
「………そうか」
シャカール様は全く興味を示さず『せっかくのハヤトからの贈り物だ。宝物庫に入れておいてくれ』と言って、箱を執事に渡した。
「シャカール様、お世話になりました」
「うむっ、道中、気をつけてな。まあ…メサイアとシーザリオがいれば、何事も無いだろうがな。だが、ハヤト!!グルーヴだけは別だぞ。分かっておるな!!」
「はい。なんとかします。心配してもらって、感謝します。では…」
俺たちは一礼して、馬車に乗り込もうとする…が、シーザリオの様子がおかしい。辺りを見回し警戒している。
「どうしたんだ?」
「い、いえ…アゼリ様が………な、なんでもございません。出発しましょう」
「???」
俺たちはエアディドール邸を後にする。
エアディドール家とゼニヤッタの馬車、二台が連なってエアディドール領を目指す。
「なんだかんだ言って、少しは王都を見学したかったな」
「そうですね。でも………あの惨状がバレたら…」
俺とシーザリオ、それにアレグリアとファレノプシスとウオッカが苦笑いをする。グランだけは我関せずと、アパパネとブエナと共に寝息を立てている。
「ハヤト様、あの惨状とは?」
メサイアが首をかしげながら聞いてきた。
「ふんっ!!戦闘力測定人形を破壊したのよ。いい気味だわ。私たちの事を年増扱いした罰よ!!」
シーザリオが鼻息を荒くして言い放つ。
「…破壊!?あの人形を?嘘でしょう?グランが暴れたのですか!?」
「………グランも暴れたな」
「グラン…も、とは?」
「そ、それはだなぁ…」
俺はメサイアの追及に言い淀む。
「私とハヤト様、それにグランで三体の戦闘力測定人形を破壊したのよ!!」
「…はあぁ~!?なにやってるんですか!!あの人形がどれほど高価なものなのか、シーザリオ!!あなたなら分かっているでしょう!!第一、そんな簡単に壊せる物では………」
「ふんっ、私の水魔法の連射、メサイア、あなたにも見せてあげたかったわ。それに、ハヤト様は初めて使う風魔法で人形を真っ二つに!!あとグラン!!体当たり一発で粉々に粉砕したわ!!」
「………なにをやってるのよ。もしバレでもしたら…」
シーザリオの話を聞いてメサイアが頭を抱える。
ここで馬車の上からリバティが『ひょいっ』と顔を出す。
「メサイア様、心配ございません。ハヤト様たちの犯行とは気づかれぬよう、証拠は消しておきました」
「リバティ………そういう問題では…」
「よくやった!!リスグラシュー、リバティに褒美のちゅーちゅを!!」
頭を抱えるメサイアを無視して、シーザリオはリバティにちゅーちゅを与えるよう、リスグラシューに指示を出す。
ちゅーちゅを嬉しそうに受け取るリバティ。
再び、馬車の上に戻ろうとする。
「リバティ、まだ余裕があるから、ここに座りなよ」
「ハヤト様、ありがとうございます。ですが、私の務めは影からハヤト様たちを守り、危険をいち早く察知する事。お気遣いは無用です」
リバティはそう言い、身軽に馬車の上に戻っていった。
【メサイア視点】
「…はあぁ~!?なにをやってるんですか!!あの人形がどれほど高価なものなのか、シーザリオ!!あなたなら分かっているでしょう!!第一、そんな簡単に壊せる物ではないはずです!!」
「ふふふっ、魔人になった私の水魔法の連射、あなたにも見せてあげたかったわ!!」
ドヤ顔のシーザリオが、やけにムカつく。
私は悩む…あの三体の人形、エアディドール家の人間としては、見て見ぬふりをしていいレベルではない高価なもの。
「メサイア、考えてもみなさい。ハヤト様の毛生えポーション、これがどれだけの価値があるのかを…」
「し、しかし…シーザリオ………う~ん…どうでしょうか…」
確かに、ハヤト様にしか作れない毛生えポーションも高価なものというのは理解できる。そこは間違いない。しかし…ポーションはポーション。消耗品と考えられなくもない。
「メサイア様、ご安心を…シャカール様にお渡しした箱の中には、エリクサーが入っております」
「エ、エリクサーを!?本当ですか、リスグラシュー!!」
「はい。昨晩、ハヤト様から事情を伺いました。お詫びの品を用意したいとの相談を受け、エリクサーなら破壊した三体の人形をはるかに上回る価値があると進言しました」
「確かに…しかし、エリクサーを気軽に作るのも、いかがなものだとは思いますが…まあ、エアディドール家にしてみても、エリクサーが手に入ったと思えば、人形の破壊など些事なことね」
ニヤリッと笑うシーザリオの顔が憎々しい。
我関せず…と、可愛く寝息を立てるグラン。
「シーザリオもグランも悪気はなかったんだよ。つい、調子に乗っちゃって…ごめんな」
ハヤト様が苦笑いを浮かべながら謝る。
私も苦笑いを浮かべ『分かりました。今回はそれでよしとしましょう!!』と言ったのでした。




