第140話 ゼニヤッタの交渉術
しばらくすると、メサイアたちが戻ってきた。
「シーザリオはどうしましたか?」
「んっ!?そ、それはだなぁ…実はシーザリオと話し合ったんだけど、早めにエアディドールに向かう事にしたんだよ。それで、視察の報告のために仕事に向かった。晩餐会までには帰ると言っていたので心配ないんじゃないかな…」
「シーザリオが積極的に仕事に向かった!?………そうですか。早めにとは、出発はいつなのですか?」
「明日…早朝………」
「明日の早朝!?」
驚くメサイア。何か違和感を感じたようだ。俺たちをいぶかし気に見る。
「まあ…いいでしょう。私も自分より年下の愛人とイチャつく父親の姿を見るよりは、ハヤト様と旅をするほうが楽しいですしね。ただし…なにがあったのか、教えて頂けますか?」
「………それは、えぇっと…」
俺が言い淀んでいるとドアが開いた。
「まいどっ!!」
公爵家の使用人に案内され、ゼニヤッタが入ってきた。
「おぉ!!ゼニヤッタ。待ってたよ!!用事はすんだのか?」
俺は思いっきり話題を変えて、メサイアとの話をうやむやにする。
「終わったでぇっ!!冒険者ギルドに行っててんけど、懸賞金や賠償金をガッポリ巻き上げてきたわ!!」
「懸賞金に賠償金、どういう事?」
「実はな、盗賊の首領や幹部の凍り付いた首を持ってきてたんや。それを冒険者ギルドに持っていったらビンゴや!!懸賞金が懸けられてた。ほら、ファレノプシスはん。これがその懸賞金や。受け取っといてや!!」
ゼニヤッタはパンパンの麻袋をファレノプシスの前に置いた。
「あとな、逃げだした冒険者共の処分を求めたんよ。最初は取り合ってはくれへんかったけど、シーザリオ様のお墨付きをチラつかせたら、態度を一変させよった。ガッポリ賠償金を巻き上げてきたから、これで当分の資金繰りは大丈夫や!!逃げ出した冒険者パーティーも冒険者ギルドから追放されたし、ウチもスッキリした。ハヤトはん、それにメサイア様やシーザリオ様、FCLのみんなのおかげやでっ。ほんま、おおきにな!!」
「それは良かった。じゃあ、ゼニヤッタも晩餐会に出席してくれ」
「いいんか?ウチなんかが出席しても!?」
「定期的にシャカール様に毛生えポーションを販売してもらう事になる。紹介しておくよ」
「マジでっかっ!!ウチを公爵様に…なんか、話がポンポン進みすぎて怖いくらいや」
「はははっ、死んでもおかしくなかったからな」
「ホンマそやでっ!!人生、分からんもんやね」
そうこう話しているうちにシーザリオが戻って来て、晩餐会の用意が整うまでのんびりと過ごすのだった。
☆★☆
シャカール様が金髪をかき分ける。背が高く細マッチョで、その外見はスーパーイケオジというに相応しいものであった。その上、剣の達人で公爵という地位や人望もある。
(完璧な男だが…ロリコンとは………もったいない!!)
晩餐会で挨拶をしているシャカール様を見ながら思う。
挨拶が終わると、メサイアが俺たちを一人ひとり、シャカール様に紹介する。紹介し終えると、シャカール様は親しみ深い笑顔を浮かべて、俺に話しかけてきた。
「ハヤト!!私はお前を応援するが、メサイアを娶れるのかは、正直、分からんぞ。公爵家の実権はグルーヴが持っているからな」
「………グルーヴ様に認められなかった時には、俺はメサイアを奪ってでも一緒になります」
「はははっ、父親の目の前で娘を奪っていくと申すか…死ぬなよ!!」
「死んだら毛生えポーションは二度と手に入らなくなりますよ?」
「なにっ!?もしかして………効果が持続しないのか!?」
シャカール様が大慌てで髪の毛を触る。
「お父様、ポーションなのです。例えば、怪我や病気の時にポーションを飲んで治っても、また怪我や病気をしてしまいますよね?それと同じで、効力が薄まると毛が抜けて………」
メサイアの話を聞いて顔が青くなるシャカール様。
「ハ、ハヤト。ポーションを、ポーションを定期的にもらえないだろうか!?」
「できません!!」
「!?………なぜだ!!頼む、公爵として、そして義父として、最大限の便宜を図る用意があるぞ」
「ふふふっ、お高いですよ?」
「構わん!!金に糸目は付けられん。付けられるわけが無い!!ハヤトからしか買えないのだ。言い値でよいぞ!!」
「ありがとうございます。俺のポーションは、全てこのゼニヤッタという商人が取り扱う事になっております」
俺はシャカール様にゼニヤッタを通しての取引を申し出る。
「うむっ、ゼニヤッタを公爵家の出入り商人として認めよう」
シャカール様はそばに控えている執事に指示する。
俺とゼニヤッタは、揃って頭を下げたのだった。
【ゼニヤッタ視点】
「バタンッ!!」
冒険者ギルドの扉を勢いよく開ける。
ギルド内にたむろしている、厳つい冒険者たちがウチを睨む。
受付に行き『ギルドマスターに用事があるんや。呼んでくれへん』と掛け合う。
「申し訳ありません。ギルドマスターは大変忙しいお方です。アポを取ってお待ちください。そうですね………10年くらい待っていただければ、もしかしてお会いできるかもしれません」
「……………」
半笑いで返答をする受付嬢。
完全にウチを馬鹿にしている。
「さよかっ…、じゃあ、しゃあないなぁ。ギルドを通して依頼した冒険者が盗賊に襲撃された際に、依頼者をほったらかして逃げよったと、お貴族様に訴え出ようかいな。その上、依頼者の訴えを聞く耳も持たず、事実を闇に葬り去ろうとするってな!!」
「うふふふっ、あなたがお貴族様とお知り合いだと?夢でも見ているんじゃないかしら?それとも脅しているつもり?ギルドも暇ではありません。言い掛かりをつけて賠償金でもたかるつもりなら、ギルドとしても対応しなければなりません」
受付嬢が合図をすると、冒険者上がりなのだろうか?厳つい男たちがウチを威圧するために、事務所の裏から出てきよった。
「お前は夢を見ていた。そうだな?」
受付嬢が雰囲気を変え、威圧的に言い放つ。
「………おっと。ポケットの中に大切なお墨付きが入っとった」
「なっ!?そ、それは…偽物よ!!」
「偽物じゃあらへんよ。これは正真正銘の王家筆頭魔術師、シーザリオ様のお墨付き。ウチはシーザリオ様の意向を受けて、リーズまで商売に出かけてたんや」
「………シーザリオ様の意向を受けて!?」
「そやで!!あっ、そうそう。シーザリオ様の盟友、エアディドール家のメサイア様にも、ウチに商品を仕入れてくるよう頼まれててんなぁ」
「エ、エアディドール………、公爵家!?しょ、少々、お待ちを!!誰か!!この方にお茶をお出しして!!」
ウチは事実と嘘を織り交ぜて脅しをかける。
受付嬢が大慌てで事務所の裏に入っていく。
(くくくっ!!お墨付きの効果、抜群やでっ!!)
形勢逆転!!どっかりとソファーにふんぞり返る。
(殺されてもおかしくなかってん。このくらいはええやろ!!また、舐められてもアカンしな)
ウチは『どんくらいの賠償金をせしめたろうかいな』と算段していると、奥から強面のおっさんが現れる。
(ギルドマスターやな。さすがに怖そうな顔しとるでっ…)
「お墨付き、どうやら本物のようだな。おいっ!!300万…持ってこい!!」
「は、はい」
受付嬢にお金を持ってこさせると、ウチの目の前にお金の入った麻袋を投げつけてきた。
「ふんっ!!これ持って帰れ!!クソ野郎!!」
暴言を放ち、睨みつけてくる。
(こいつらいつもそうや…。ウチらみたいな弱者を見下しよる。そうはいかへんでぇ~!!)
ウチはテーブルを蹴り上げる。
「アンタ、エアディドール家とシーザリオ様を舐めとんのかっ!!ウチはエアディドール家の意向を受けて、リーズに出向いとったんや!!300万?アホかっ!!賠償金と慰謝料、合わせて3000万払えや!!」
「3000万だぁ!?ふざけんじゃねぇ!!」
ウチは前のめりになった体勢から一旦ソファーに座り直す。
「ぶざけんじゃねぇ?…あぁ………グルーヴ様にお伝えせんとな。王都のギルドマスターがグルーヴ様に対して『ふざけんじゃねぇぞ!!くそババア!!』と言うとったと…怖い怖い」
「グ、グルーヴ………様!?く、くそババア…そ、そんな事言ってねぇぞ!!捏造すんなや!!」
「40手前のくそババアとな!?あぁ…なんちゅう挑戦者や。グルーヴ様にケンカを売っとるでっ!!」
「だから言ってねぇだろ!!」
大慌てのギルドマスター。
(グルーブ様の名前を出した途端、顔色を変えよった。グルーヴ様の影響力、半端ない!!)
ウチはさらに攻め立てる。
「ハ、ハゲ…っとな!?シャ、シャカール様にまでケンカ売っとるでっ!!さらに行き遅れの魔術師シーザリオとまで…公爵家と王家筆頭魔術師、全面的に喧嘩を売っていくスタイルかいな?恐れ入るでぇ~!!」
「テ、テメェ、いい加減にしやがれ!!」
「ウチがどう報告するかで、あんたの将来が決まる。………ウチの命はそんな安ない。舐めるのも大概にせいやっ!!!!!」
もう一度テーブルを蹴り上げ、立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ。俺が…悪かった。もう一度、話し合ってくれねぇか…」
ギルドマスターがテーブルに手を付き頭を下げた。
ニヤリッとほくそ笑む。
「そうか、そうか。分かってくれたんか。物分かりがいい人間は長生きする。ウチも鬼じゃあらへん。3000万エンで手打ちにしたるよ」
「………クソがっ」
ギルドマスターはアゴで合図をして、お金を持ってこさせる。
テーブルにはパンパンの麻袋が並ぶ。
思わず飛びついて、頬ずりしたくなる衝動を必死に抑える。
「か、帰ってくれ…これ持って早く帰れや!!」
ギルドマスターが吐き捨てる。
「まだやっ!!」
「まだたかるつもりか!?」
「たかる?ウチは純粋無垢な女の子や。人聞きが悪い言い方は止めてんか!!よっこらせっと!!」
足元に置いておいた大きな麻袋をテーブルの上に置く。
「これはウチを襲った盗賊の首や。懸賞金が掛かってないか、調べてんかっ!!」
「く、首……生首かよ。腐ってんじゃないだろうな!?おいっ!!」
『わ、わたしたち!?』
「お前らの仕事だろがっ!!早くしやがれ!!」
周りにいたギルド職員たちが嫌そうに麻袋を開け、中身の首を取り出す。
「つ、冷たっ!?凍てる!!」
凍った首がテーブルに並ぶ。
「………氷魔法!?いや…氷の属性が付与された剣か槍で首を跳ねたか…分からねぇ。こんな見事なまでの氷漬けの首、初めて見た。おいっ!!これは誰の仕業だ!?」
「ふふふっ、FCLや!!」
「FCL!?………聞いた事ねぇぞ!!」
「まだ結成仕立てのパーティーや。でも…ギルドマスターなら覚えておいて損はない。これから一気に駆け上ってくでぇ~!!」
ウチはまるで自分の事のようにFCLをアピールする。
「さ、査定…完了しました」
「1050万…か。金持ってこい!!」
ギルドマスターが指示をする…が『ウチも商人や。お得意様には割り引いたるわ!!1000万で勘弁したるよ!!』と、ニッコニコで言い放つ。
「なにがお得意様だ。二度と来るな!!」
「はははっ、そんな事言いなや。ほな、さいなら!!」
ウチは大きな麻袋をいくつも抱え、ご機嫌で冒険者ギルドを後にした。




