第136話 いつかピアノを弾いてみたい
「ハヤトにも苦手なものがあるのね。でも、なんだか『ホッ』としたわ」
アレグリアが笑いながら言う。
「自分で言うのもなんなんだけど、能力は高いと思う。でも、俺の能力が高いのはマリア様の加護のおかげで、だいぶかさ上げされてるんじゃないかな」
「その加護持ちってのが凄い事なんじゃないの?」
「まあ、確かに…。火魔法はCランクだったけどね!!」
「Cランク!?あんな強力な魔法が使えるのに?嘘でしょ!!」
「本当だよ。俺が得意なのは風魔法みたい。ランクはSSSだ」
『SSS!?』
全員が目を見開き驚く。
「あぁ…、確かグランの氷属性もSSSだったから、あはははっ、俺とグランは同じレベルなのかもしれないな」
『………フェンリルと同じレベルの人間って』
俺は笑いを交え言うのだが、全員の顔が引きつっているのが辛い。
しかし…
「ふっ、うふふっ。うふふふっ。当然です!!ハヤト様は使徒様なんですもの!!このリスグラシュー、ハヤト様の手となり足となり、一生お側にお使えさせていただく事を、改めて宣言いたします!!」
リスグラシューがそう言って、仰々しく跪き、頭を下げる。
俺は慌てて『何度も言うが、そういうのは止めような』と、リスグラシューを立ち上がらせる。
しかし当のリスグラシューは感嘆のため息を付き、うっとりとした視線で俺を見つめている。
(リ、リスグラシューの目が怖い。正直に言って、狂気を感じる。どんな理不尽な命令でも、笑顔で従ってくれるような気がする)
俺は話題を変えようと思い、もう一度、自分の能力を見返す。
(風魔法がSSSランクねぇ~。まあ、身を守るだけなら現状のバリアと火魔法だけでも充分だけど、SSSランクとなると、使ってみたくなるのが人の性だよな)
頭の中で風魔法を使う自分の姿を想像する。
指先を見つめる。
(指先から風の刃を繰り出して、この世の全てを切り裂いていく。なんか…カッコいいな!!)
想像するだけでウキウキしてきた。
FCLの活躍する姿を見て感化されたのか、俺の中の闘争本能に火が付いたみたいだ。自然と体が熱くなってきた。
俺はみんなをそっちのけで、風魔法の事を考える。
(待てよ。敵を切り裂くだけじゃなく、森を切り開いたりもできるんじゃないかな?そうすれば、シーザリオ島の発展にも少しは役に立てるかもしれない)
俺は頭を切り替える。
「なあ、シーザリオ。俺の風魔法を使って、シーザリオ島の森を切り開く事ができるかもしれないと思うんだが、どうだろう?原生林に覆われているんだったら、とんでもない大木も生えてると思うし、岩なども転がっていて、人力では仕事が進まないんじゃないかな?」
「えっ!?それはできるかもしれませんが、ハヤト様に公共工事のような事をさせるには気が引けます」
「ハヤト様は指示をして、人を動かすだけでいいのです。ドンと構えていてくれれば、あとは周りの人間が勝手に動きますからね」
シーザリオとメサイアが、俺の意見に難色を示す。
「そう?俺ものんびりと優雅に過ごしたいとは思ってるんだが、なにもしないのは気が引けるじゃん?少しは役に立ちたいんだよ。無理やりやらされる仕事じゃなくて、自分が積極的にやる仕事は苦にならないからね」
「ありがとうございます。では、要検討という事で…」
シーザリオが役人のような事を言い、この話は終わった。
食事が運ばれてくる。
なぜか当たり前のように、ゼニヤッタも一緒に食べている。
「まあ、不味くはあらへんけども、ウチはリスグラシューはんの作った料理のほうが口に合うわ!!ほな、ごちそうさま!!ウチは寝るさかい。おやすみな!!」
食べるだけ食べて部屋から出て行くゼニヤッタ。なかなか図太い。
食事を食べ終え、少しゆっくりとした時間を過ごした後、シーザリオとメサイアは王都へ帰ってからの仕事の打ち合わせを、FCLは先日の野盗との戦いの反省会、そしてジュリアとリスグラシューとアパパネは宿のサービスや料理の質についてディスカッションをしている。
俺はポーションを作っているブエナに話しかけるが『ハヤトお兄ちゃん、ごめんね。集中しないと品質が安定しないから…』と言われてしまう。
(みんな忙しそうだな。なにかやる事は…)
俺は再び能力を見直す。
(おそらくマリア様の加護で、だいぶ下駄を履かせてもらってるな。ありがたい…のか?)
恐ろしいまでも数字やランクを見ながら思う。
(まっ、いいか!!細かい事は考えるだけ無駄。この世界を満喫しよう!!しかし………何度見返しても、精力98ってどうなのよ?本当にセックスマシーンになってしまうんじゃないだろうか?)
能力を見返しながら苦笑いが止まらない。
(音楽の能力も高いんだな。マリア様が世界的ピアニストになる能力があったなんて言ってたから、転移するとき気を使ってくれたんだろうか?ふふふっ、いつかピアノを作って、みんなに聞かせてあげるのもいいかもしれない)
ベガのレストランの中、お客さんを前に優雅にピアノを弾くシーンを思い浮かべる。
しかし『似合わねぇ~!!』と、再び苦笑いを浮かべるのであった。
【怒るグルーヴ】
グルーヴは鍛錬を終え、入念にマッサージを受ける。
若いうちは平気だったのだが、三十五を過ぎたあたりから疲れがなかなか取れにくくなってきていた。
全裸になり、身を投げ出すと、ナナがオイルを垂らしマッサージを始める。
「はあぁ~、気持ちいい」
無意識に声が漏れる。
「大変お疲れのようで………若干、お肌も荒れております」
「言うでない…分かっておる」
「申し訳ございません」
「良い。同い年で、幼少の時より一緒なのだ。そなたも同じであろう」
「はい。特に寝起きなど、体がだるく、起き上がるのにも時間がかかります」
「ふふふっ、歳は取りたくないものじゃな………」
「全くでございます」
仰向けになる。
ナナが乳首にオイルを垂らす。
「………気分ではない」
「申し訳ございません」
何事も無かったかのように、ナナはマッサージを続ける。
「メサイアはいつ戻る?」
「明日には王都のお屋敷に着いている頃。連れの者が王都で視察をするという事なので、今しばらく、時間がかかるかと思われます」
「それは…私に会いに来るのは、王都視察のついで…っという事じゃな!!」
「私には分かりかねます。ですが…ハヤトという御仁が先にシャカール様に挨拶をしたいと、メサイアお嬢様に言われたのかも…。一応、公爵はシャカール様という事なので………」
「内情を知らぬ者ならば分からんでもないが…メサイアがいるではないか!!真っ先にこの私に会いに来るべきであろうがっ!!」
「お怒りは分かりますが、どうぞ冷静にいらしてください。ストレスはお肌にも悪うございます」
「………手紙は送ったのじゃな?」
「はい。メサイア様宛に送りました」
「そうか…ならいい」
「僭越ながら、メサイアお嬢様なら手紙の意味、くみ取れるものだと思われます」
「今のメサイアは目が曇っておるかもしれんぞ?愛だの恋など…くだらん!!。これも私が甘やかして育てた結果か…。あやつが『自分より弱い相手には嫁ぎたくはない』と言うから、ここまで結婚を伸ばしてきたが…。やはり…無理やりにでも私が相手を決めなければならんようだな」
「お待ちください。メサイアお嬢様は聡明なお方。私は、そのメサイアお嬢様が選んだ相手に大変興味があります。ここは今しばらく、様子見がよろしいかと愚考します。おそらく手紙の意味をくみ取り、直ちにエアディドールに向かう事になるでしょう」
「………そうか。メサイアはナナに感謝せねばなるまい」
「あのメサイアお嬢様が選んだお相手です。なにか特別な能力を持っているのかもしれません」
「そうか?ポーション売りと書いてあったが、実は仮の姿で、メサイアを上回る剣豪かも知れぬと?」
「そこは…分かりかねます」
「………十日だけ待とう。それ以上は待たぬ!!」
グルーヴは内から湧き出してくる怒りを抑えながら、まだ見ぬハヤトという男の事を考えるのであった。




