第134話 魔法の可能性
「…魔人シーザリオ。無性にイラッとくるのはなぜでしょう?」
「おほほほっ、メサイアお嬢様。さらに実力に差が開いてしまいましたわよ!!」
シーザリオが煽る。
苦虫をかみつぶしたような顔で睨むメサイア。
しかし『ふっ』と、顔が緩んだ。
「ハヤト様、シーザリオの引き上げられた能力を発揮するには、今以上に体を鍛え上げなければならない。そうですよね?」
「そうだね。そうしないと体を壊しかねない。今のシーザリオの華奢な体では、引き上げられた能力の全てを発揮できないだろう」
「ふふふっ、王家筆頭魔術師で大魔術師のシーザリオ様、私があなた様のお体、鍛えて差し上げますわ!!」
「………いえ、結構です」
不敵に笑うメサイアと焦るシーザリオ。
立場が逆転した。
「シーザリオ様、FCLと一緒に体を鍛えましょう!!朝夕に10kmの持久走に激しい筋トレ。体が鍛えられる事は間違いありません」
「…朝夕に10km。アレグリア、あなたたち、毎日そんなに走っているのですか?」
「はい。メサイア様から出された課題なので。あっ、当然メサイア様も走ってますよ!!」
「…私、走るのは苦手なのよね」
自分が走る姿を想像して、顔が青くなるシーザリオ。
「あなたは魔法を使えるという事で、体を鍛える事をサボっていた」
メサイアがシーザリオの二の腕をつかむ。
「ほらね。華奢な体つきなのに、二の腕はなかなかのブヨブヨっぷり!!」
「ブヨブヨって言わないで!!」
顔を真っ赤にしてシーザリオがメサイアの手を払う。
「私はシーザリオ、あなたの限界を超えた姿を見て見たいのよ。友人として…。いえ、私はあなたの部下なのです。頼れる上官の姿を是非ともお見せください」
「………言っている事と、表情が全く違います。メサイア、自分の顔を見て見なさい。意地悪な笑みが抑えられていませんよ」
「気のせいですよ。気のせい!!」
「…ハヤト様」
シーザリオが涙目で俺の顔を見つめる。
「まあ、まあ。シーザリオは元々強いから、いきなり鍛えなくても少しずつでいいだろう。無理をして鍛えると、それが原因で体を壊してしまうかもしれない。ここは無理をせず、段階的に鍛えていけばいいんじゃないかな」
「ですよね!!いきなり能力全開しなくても、私は充分に強い!!」
シーザリオがこれ幸いと、俺の意見に乗っかかって来た。
実のところ『同じ魔法使いのシーザリオ様が走るんだったら、ハヤトも走ろうよ』と、アレグリアが言い出しかねないと危惧をしていた。
それだけは阻止しなければ、地獄の生活の始まりが確定してしまう。
脳筋娘たちに付き合っていられない。
「お、俺とシーザリオは、今まで以上に魔法の可能性を追求していかなければならない、そうだな、シーザリオ!!」
「当然ですよ、ハヤト様!!」
「…魔法の可能性?」
俺とシーザリオが話を合わせるが、アレグリアは怪しんだ顔をする。
「まさか!!ハヤト、自分まで体を鍛えさせられるんじゃないかって焦ってない!?」
「ば、馬鹿を言うな!!そんな訳ないだろう!!俺はいつでも、魔法で世のため人の為に成れないかと考えているんだ!!」
「例えば?」
「例えば!?」
「いつも考えているんでしょ?」
「…魔法を使って、無から何かを生み出せないかと考えている」
何も考えていなかったが、苦し紛れに言う。
「無から生み出す?どういう事ですか?」
なぜか味方であるはずのシーザリオから詰められる。
(なぜにシーザリオ、お前がツッコむ!!)
空気を読めよという視線を送るが、シーザリオは気づかない。
それどころか『私も色々と考えてはいます。魔法で水を作り出せるのであれば、他の物も作り出せるのではないかと試した事があります。しかし、上手くいった試しがありません」と、残念そうな顔で言う。
「でっ、ハヤトは何か作り出す事に成功したの?」
「まだ…イメージだけで、試してはいない。だが!!今ここで試してやろうじゃないか!!リスグラシュー、異世界の料理を魔法で作り出してやるよ」
俺はやけくそになり、パスタをイメージして魔力を放出した。
次の瞬間、金色の光と共に、目の前にパスタが出現した。
「うわっ!?何が出た!!」
「なんで驚いてるのよ!!ハヤトがパスタを出したんじゃない!!」
「そ、そうだった、俺が出したんだ!!見て見ろ、アレグリア。これが異世界の本物のパスタだ。美味そうだろ?」
「確かに美味しそう!!」
アレグリアが目を輝かせる。
グランが近づいて『スンスン』と匂いを嗅いだ。
「グラン、食べたいだろうとは思うけど、これは人間の食べ物だから食べちゃダメだよ」
俺はグランを抱きかかえ、パスタから遠ざける。
「…う~ん。全く匂いがしなくて…正直、美味しそうじゃないよ」
「はははっ、フェンリルには分かるまい。リスグラシュー、食べてみてよ。俺が魔法で作り出したミートパスタを。あまりの美味しさに意識が飛ぶかもよ!!」
「嬉しいです!!ハヤト様が作られたお料理を食べられるなんて、最高の幸せです」
嬉々とした表情でお皿を手に取り、まずは匂いを確認する。
「んっ!?」
リスグラシューが首を傾げた。
「どうしたの?」
「グランの言った通り、何の匂いもしませんね」
「本当?」
リスグラシューの言葉を聞いて少し不安になる。
「では、いただきます」
お上品に試食を開始するリスグラシュー。
しかし、すぐに表情が険しくなる。
お皿を置き、俺を正面に見据える。
そして…
「ハヤト様、激マズです」
リスグラシューはこれ以上ないという渋い顔をして言ったのだった。
【シーザリオ視点】
(魔人ですか…魔人。人間の限界値を超えた存在…)
メサイアと視線が合う。
なぜか凄く嫌そうな顔をしている。
(ふふふっ、私とあなたは立場の違いはあるけれど、親友でありライバルでもある。その顔は私との実力の差が開き、心中穏やかでないという心情が見て取れる)
私はここぞ!!とばかりにメサイアを煽る。
「おほほほっ、メサイアお嬢様。さらに実力に差が開いてしまいましたわよ!!」
これ以上できないというほどのドヤ顔を作る。
顔をしかめ、悔しそうなメサイア。
「おほほほっ、公爵家のお嬢様でもあるメサイア様が、そのようなお顔をなされては…お下品ですわ!!」
さらに私の煽りを受け、拳を固めるメサイア。
わなわなと震えている。
(ふふふっ、今日のところはこの辺で…)
そう思ったところで、メサイアの表情が変わり、わずかに口角が上がった。
(…ヤバイ!!メサイアのこの表情、何か悪い事を思いついた時にする顔よ)
幼い時からの付き合い。
お互いの事は言葉にしなくても分かる。
メサイアはさらに悪辣な顔へと変わっていった。
そして…
「ふふふっ、王家筆頭魔術師で大魔術師のシーザリオ様、私があなた様のお体、鍛えて差し上げますわ!!」
そんな事を言い出した。
いえ…言い出しやがった!!
(ふざけないで!!そんなもの、全力でお断りよ!!脳筋剣士の鍛錬には付き合い切れないわ)
私は頭をフル回転させ、この状況の回避を試みる。
しかし…
「シーザリオ様、FCLと一緒に体を鍛えましょう!!朝夕に10kmの持久走に激しい筋トレ。体が鍛えられる事は間違いありません」
もう一人の脳筋娘のアレグリアが言う。
(あわわわっ、私、追い詰められてる…)
涙目になり、ハヤト様のほうを見る。
なぜでしょう?
ハヤト様の顔からも、若干の焦りがうかがえる。
「まあ、まあ。シーザリオは元々強いから、いきなり鍛えなくても少しずつでいいだろう。無理をして鍛えると、それが原因で体を壊してしまうかもしれない。ここは無理をせず、段階的に鍛えていけばいいんじゃないかな」
さすがはハヤト様。
私はハヤト様からの助け舟に乗り込み、この危機を回避する事に成功したのでした。




