第133話 魔人シーザリオ
「しかし…何やら騒がしいでんな?」
ゼニヤッタが窓の外を覗く。
「何かあったみたいね。この宿の前に人が集まってるわ」
「集まっているどころの話じゃないわ。次から次へと人が押し寄せてきているわよ。それに…集まってきた人から『シーザリオ』という声が聞こえてくるわ。あなた、この街で前になにかやらかした事でもあるの?」
「記憶にございません!!」
「…どうだかね」
呆れるメサイアだったが窓を開け、群衆に問いかける。
「私はエアディドール家のメサイアである。あなたたちからシーザリオという名前が聞こえてきますが、彼女に何用か。答えよ!!」
威風堂々、威厳に満ちたメサイアの姿。
俺はそんなメサイアの姿を見て『カッケーな!!』と素直に感動をする。
一瞬で静まり返る群衆。
「我々はシーザリオ様にお礼を言いたいんです!!」
群衆の中で一人の男の子が叫ぶ。
「お礼?シーザリオは何もしていない。絶対にお礼を言われるような事はしていない!!」
群衆に向かってメサイアが言い放つが『そんなに自信満々で言わなくてもいいんじゃないかしら?私だって知らぬ間にムムルーズの人たちの役に立つ事をしてるかもよ?』と、シーザリオが口を尖らせる。
「なにか心当たりでも?」
「なにもないわね!!」
『ないんかい!!』
思わず全員がツッコミを入れる。
「あ、雨を…さきほど、このムムルーズ全域に大雨を降らせてくれました。このところムムルーズは日照りが続き、ため池の水は枯れ、川の水位が下がり続けていました。このままでは畑は荒れ果て、果樹園も枯れ果ててしまうところでした。でも、先ほどの強烈な水魔法のおかげで、全てが解決したのです。だから僕たちはシーザリオ様に一言でもお礼を言いたいと思って集まったのです」
少年の言葉を聞き『ドヤ顔』のシーザリオ。
「…なんという偶然」
「うふふふっ、違うわよ、メサイア。これは必然。私の徳の賜物です」
シーザリオが窓から顔を出す。
「我は王家筆頭魔術師のシーザリオである。ムムルーズの民よ、私はこんな些細な事で礼を言われるほど、器の小さい女ではない。しかし、あなたたちの気持ちはよく分かり、とても嬉しく思います。ありがとう」
『うおおおっ!!シーザリオ様!!!!!』
大歓声が巻き起こり、嵐のような拍手が湧き上がった。
歓喜するムムルーズの民衆。
すまし顔をして手を振るシーザリオ。
やがて群衆は静まり、少しずつ姿を消していく。
「なんとか落ち着いたわ」
シーザリオは『こんな事当たり前よ!!』と言う顔をして窓を閉めた。
「しかし、偶然とはいえ、持ってる女だね。シーザリオは!!」
「ふふふっ、これもハヤト様のおかげです」
「いやいや、そんな事ないよ。魔人シーザリオ。すべてはシーザリオの実力だよ!!」
「………ハヤト様、その…魔人……とは?」
「なんか分からないけど違和感を覚えて鑑定をしてみたら、あはははっ!!シーザリオが魔人になってたんだよ!!」
「……………」
唖然とするシーザリオ。
「あっ、あっ………あわわわっ!?」
言葉がうまく出てこない。
メサイアも『えっ!?』という顔をして言葉を失っている。
「シーザリオ様、バケモノになっちゃったの?」
無邪気な顔をしたアパパネが毒を放つ。
「違うよ。能力が人の限界値を超えただけで、体も心も普通の人間と違わないよ」
「ほ、本当ですね?絶対、本当ですよね!?ハヤト様!!」
悲壮な顔をして俺に迫って来るシーザリオ。
「本当だよ。全ての能力値が上がっている。特に水魔法のレベルが格段に上がり、さらに強くなったみたいだ」
「うげっ!!シーザリオ様がさらに強く。それは魔人にもなるわね」
アレグリアが呆れ顔をして言った。
「ただし…」
「ただし、なんですか?」
「能力が上がった分、今以上に体に負担がかかる。体を鍛えないと全能力を発揮するのは難しいと思うよ」
「確かに…さきほど水魔法を放った時、今までに感じた事のない違和感を感じていました。あの感覚は、私の体が魔法の威力に耐えられず、悲鳴を上げていたのですね」
シーザリオは自らの手の平を見つめながら言ったのだった。
【メサイア視点】
窓の外の光景を眺めている。
人々が宿の前に集まり、群衆になる。
シーザリオという名前が人々の口から聞こえきた。
「…過去にムムルーズでなにかやらかした事があるのかしら?」
いぶかしげにシーザリオの顔を見る。
「記憶にございません!!」
すまし顔で答えるシーザリオ。ちょっとムカつく。
「私はエアディドール家のメサイアである。あなたたちからシーザリオという名前が聞こえてきますが、彼女に何用か。答えよ!!」
私は窓を開け群衆の問いかける。
「!?」
このムムルーズ。日照りが続き、田畑や果樹園に深刻な影響が出ていたらしい。さらに家畜までもが十分な食べ物が無くなりやせ細り危機的な状況。だが、先程放った水魔法が大雨になり、すべてが解決されたという。
「…なんと言う偶然」
ドヤ顔のシーザリオを見て、思わず本音が漏れる。
群衆に向かい言葉を放つシーザリオ。大歓声が巻き起こる。
偶然とはいえ、ムムルーズの民が救われて嬉しく思うのだが、少し複雑な思いもある事は事実。
(シーザリオが太陽なら…私は月。決して自ら輝きを放つ事はできない)
大親友にしてライバルのシーザリオに、嫉妬のような感情が芽生える。
群衆に向かって手を振るシーザリオを見つめている。
ふっと、優しく手を握られた。
「メサイアも充分、輝いて見えるよ!!」
「ハヤト様…心を………」
「いや、なんとなく。メサイアが複雑な表情をしていたからね」
「そうですか…。ありがとうございます」
私はしばらくの間、無言でハヤト様の手を握り締めていたのでした。




