第131話 荒ぶるシーザリオ
馬車が止まる。
どうやらウオッカがシーザリオの指定した宿にたどり着く道を間違えたらしい。窓からファレノプシスが街人に尋ねているのが見える。
「うわぁ!?」
ゼニヤッタがひょっこり窓から顔を出し、馬車の中を覗く。
「また、イチャついとるよ。こういうの…正直、羨ましいわ!!でも、なんでシーザリオ様、そんなに恥ずかしがってるん?みんなハヤトはんとデキてるんやろ?」
真っ赤な顔をしたシーザリオを見て、意味が分からないという顔をして言う。
『そ、そうだけど、私たちはまだ…』
頬を染めうつ向くシーザリオたち。
「そうなんや?ウチは毎晩ヤリまくりだと思うとったよ!!昨日の夜も『覗いたろうかな?』と思ったくらいや!!」
『ヤ、ヤリまくり!?』
「なに驚いた顔をしてるん?そんなん当たり前やん。この状況で『私たちは清い関係です!!』なんて言っても、誰も信じるわけないやん」
『……………』
シーザリオたちはゼニヤッタに図星を突かれ言葉を失う。
「まあ、周りはそう思うだろうな。でも、本当に俺たちはまだ男女の関係じゃないんだ」
「そうなんやね」
あっさり納得するゼニヤッタ。
「ただし、俺はみんなを幸せにする。だから…」
頬を染めてうつ向いているシーザリオを抱き寄せ、俺は魔力を流し込んだ。
「ハ、ハヤト様、そんないきなり!?まだ、心の準備が出来ていないのに!!魔力が私の中に入ってくる!!すべての細胞がハヤト様色に染められていく。熱い、体が熱い。燃えてしまいそうよ!!」
シーザリオが俺の背中に腕を回してしがみつくと、俺たちの体から強烈な光が放たれた。
しばらくして、徐々に光が収まっていく。
そこには放心状態のシーザリオの姿が…。
「見た目は、なにも変わってないけど…大丈夫かな?」
アレグリアが心配そうにシーザリオの体をつつく。
無反応のシーザリオ。
「しっかりしなさい!!」
メサイアがシーザリオの肩を揺らす。
「ふ、ふふっ。ふはははっ!!何よこれ、力が溢れてくるわ!!」
正気を取り戻すが、荒ぶるシーザリオ。
馬車の窓を開け、空に向かって水魔法をぶちかました。
ムムルーズの街に爆音が響きわたる。
次の瞬間、大量の雨がムムルーズ全域に降り注いだ。
様子を確認するために俺たちは急いで下車する。
『…シーザリオ様、これはちょっと酷くないですか?」
そこにはずぶ濡れのファレノプシスとウオッカ、そしてゼニヤッタが立ち尽くしていた。
「…ごめんなさい。体から魔力を放失しないと燃えてしまいそうな感じがして。でも、大丈夫、何かスッキリしました!!」
「私たちは大丈夫じゃないですけどね。それに…突然の大雨で、町中が水浸しになってしまいましたよ」
全身ずぶ濡れのファレノプシスが、辺りを見渡しながら言う。
「風邪ひくよ?ウォーム!!」
俺はずぶ寝れの三人を乾かしていくのであった。
☆★☆
しばらく馬車を走らせる。
「ここは…宿?かなり………お高そうだね」
「はい。今日はここに宿泊します。街ではなるべく多くのお金を使わないといけません。ノブレスオブリージュ、貴族としての義務ですね」
「ノブレスオブリージュか…。なんかカッコいいね!!」
当たり前のように言うメサイアに俺は感心をする。
気がつくと、宿の前には女将さんとみられる女性と仲居さんが、緊張した面持ちで並んでいる。
「世話になります」
シーザリオの言葉を聞いて、揃って頭を下げる。美しい。
これだけでかなりの高級宿だという事が分かる。
女将さんに案内され、俺たちは宿に入っていく。
廊下を奥へと進むと中庭が広がっており、俺たちはその中庭を見渡せる広く落ち着いた部屋へと通された。
女将さんが頭を下げ出て行く。
「落ち着いていて良い宿ね」
周りを見渡し、感心しながらジュリアが言った。
「やっぱり気になる?」
「ふふふっ、同業者ですもの。当然、気になるわよ!!」
俺の問いに笑顔で答えるジュリア。
「ここはムムルーズで一番高級な宿。ジュリアさんにとっても、参考になる事があるかもしれませんよ」
メサイアがジュリアに言う。
「そうね。でも私だけじゃないわ。リスグラシューさんとアパパネちゃんにも、学ぶべき事があると思います。料理と仲居さんの立ち振る舞い、二人とも吸収できるところは吸収して、少しでも成長しましょう」
『はい!!』
ジュリアの言葉を聞いて二人の表情は引き締まったのだった。
【シーザリオ視点】
(ま、毎晩…ヤリまくり!?な、な、なにを言っているんですか、この腐れ女商人は!!私たちがまるで、盛りが付いた雌ゴブリンみたいに………許せません!!)
私は即座に反論をしようとする…が、しかし…
「この状況で『私たちは清い関係です!!』なんて言っても、誰も信じるわけないやん」
「……………」
確かに…。20歳を超えた大人の女性が愛する殿方と旅をして、清い関係と言い張るのは無理筋。
私は図星を突かれ言葉を無くす。
「まあ、周りはそう思うだろうな。でも、本当に俺たちはまだ男女の関係じゃないんだよ」
ハヤト様が爽やかな顔をして否定する。
あっさり納得する腐れ商人。ちょっとムカつく。
(私とハヤト様は清い関係。でも…私はハヤト様の事を心からお慕いしている。ハヤト様の事を考えるだけで体が熱くなる。今もまた…昨日の夜、同じテントの中、間近でハヤト様の寝息を聞きながら一人で…)
昨晩の一人遊びを思い出し、急に顔が赤くなってしまう。
その時、急にハヤト様が私を抱き寄せた。
そして…ハヤト様の魔力が体の中に流し込まれる。
私の体が歓喜する。
いえ、細胞の一つ一つが歓喜し熱を発する。
「体が熱い。燃えてしまいそうよ!!」
体が光に包まれ、私は何も考えられなくなる。
「しっかりしなさい!!」
メサイアに体を揺らされ正気を取り戻す…が、体の中の魔力が暴走しておかしくなりそう。
私は緊急で魔力を放出すべく、窓から水魔法を放つ。
自分でも驚く威力の魔法が放たれ、大雨が降り注いだ。
(凄い威力。自分が自分でなくなったみたい。今ならグランが進化した理由が分かるわね。私自身も、体内にハヤト様の魔力が満ち溢れて、生まれ変わったみたい)
自身の変化に戸惑いながらも、体の中がハヤト様の魔力で満たされ、幸福感が半端ない。
(もしかして、私も進化しちゃったのかも…)
私は驚異的な威力の水魔法が放たれた手を『ジッ』と見つめながら考えるのでした。




