第130話 焦るシーザリオ
リーズと王都の間にある小規模の街ムムルーズ。
街自体は小さいが、ここは王都や商業都市リーズの胃袋を支える大規模な農業地帯で、畜産も盛んに行われている事もあり、非常に重要な土地であった。
しかし、馬車から見る店頭には食材が少なく、人々の表情も暗い。
「街のみんなが馬車を避けているな」
リーズでも見られた光景だが、ここムムルーズでもエアディドール家の紋章は効果抜群であった。
「ムムルーズもエアディドール家が統治している土地でもないし、住民からしてみれば関わりたくない、そんな気持ちなのでしょう。貴族は他国との戦争で活躍すれば英雄的扱いを受けますが、平和な時は税金を徴収されるという嫌な存在なだけですからね」
メサイアは窓の外を眺めながら無表情で言う。
「まともな貴族は住民の見えないところで領地を発展させるために激務をこなしているのですが、庶民には見えにくい。おそらく『集めた税金で贅沢三昧』という印象なのでしょう。まあ、そういう貴族が目立ち、その貴族の悪口のほうが盛り上がりやすいという事は、想像に難しくないわね」
「お貴族様も大変なんだね」
「本当に大変ですよ!!私の領地なんて住人が百人くらいしかいませんが、それでも意見をまとめるのが難しい」
「でも凄いね。そうは言っても、シーザリオは自分の領地を統治しているんだから…」
「……………」
「どうしたの?」
急に無言になるシーザリオ。
「ふふふっ、シーザリオは王家筆頭魔術師で王都に常駐しています。統治は部下に丸投げなのです」
メサイアの言葉を聞いて、苦い顔をするシーザリオ。
「…丸投げせざるを得ないのです。帰れませんから!!シーザリオ島はほとんど森に覆われていて、人間が住める土地はごくわずか…。無人島だったところに移住者を募りましたが、特に娯楽もなく、森に入れば凶暴な獣がいて、さらに奥に進めば魔物や魔獣がいるので、最近では島から出て行くものも多いらしく…ハッキリ言って、統治はうまくいってはいません」
「………そうなんだ」
「私はほとんど領地に戻る事が許されず、思い通りの開発ができない。できる事といえばお金を送る事だけ。領主としての責任を果たしたいのですが…思うようにはいきません。ただ…」
「ただ?」
「今回のリーズの視察を終えたら帰る事を許されているので、ハヤト様を島までお連れする事ができるのです」
「それが楽しみなんだ!!」
俺はシーザリオに膝枕をされて波の音を聞きながら、昼寝をする姿を思い浮かべる。
「ハヤト、新鮮な魚介類を浜焼きで食べさせて!!もちろんハヤトの火魔法を使ってね!!」
「いいね!!」
俺とアレグリアは浜辺で水揚げされたばかりの魚介類を火魔法を使ってじっくりと焼いていく光景を思い浮かべる。
「いいですね。悔しいですが、私が焼くよりもハヤト様の火魔法を使っほうが美味しいと思います」
「はははっ、リスグラシュー、結構火加減が難しいんだよ」
「火加減だけなのでしょうか?何か他にも理由がありそうな感じがします」
「う~ん…わからん!!美味しいならそれでいいよ!!」
「ふふふっ、そうですね!!」
リスグラシューが優しく微笑む。
「魔法はイメージ。火魔法で魚を焼き上げていく時、ハヤト様は何をイメージしておられますか?」
「そりゃあ…もちろん、美味しく焼き上がるイメージをしているよ。熱々の焼き魚にかぶりついて…それかっ!!」
「分かりませんが、可能性はあると思います」
「そうじゃない。魔力、ご主人様の魔力の味」
『えっ!?』
俺とシーザリオがグランを見る。
「今まで食べてきた物と味が全く違うの!!」
「そりゃあ、俺の焼き魚は塩を振ってるから美味いだろうし、リスグラシューは料理の天才だから味付けは完璧だ」
「ふふふっ、グランが今まで食べてきた物とは、比べ物にならないでしょうね」
グランがシーザリオの胸に飛び込む。
「でもでも、ご主人様の魔力だけでも美味しいよ!!」
「う~ん。人間は魔力だけを食べる事ができませんから、答えようがないわね」
「じゃあ、シーザリオもご主人様の魔力を取り込んでみれば分かるんじゃない?」
「ハヤト様の魔力を?確かに、私は魔力を吸い取られるだけで、ハヤト様の魔力を体の中に取り込んだ事がありませんが…何か変わるのでしょうか?………ハヤト様が私の体を貫つらぬく…」
シーザリオはグランを抱きながら首をかしげる。
「試してみる?」
俺の何気ない言葉に妖艶な笑みを浮かべるシーザリオ。
「今、淫らな事を考えたでしょ!!」
「ベ、ベ、ベ、別に。私はグランちゃんが言うから、一度試すのもアリなのかなぁと思っただけです!!」
横から入るメサイアの鋭いツッコミに少し動揺するシーザリオ。
「私は王家筆頭魔術師として、後世のためにも魔法の知識を高めていきたいだけです。そ、そうよ!!私はこの身を犠牲にして試すのよ。決して快楽のためではないわ!!」
「………誰も快楽などとは言ってはいませんが?」
「あっ!?」
「シーザリオ、あなたはハヤト様の体の中に自分の魔力を循環させた時に『ハヤト様が私の体を貫いた感じがした』と、恥じらいもなく私に言いましたよね?」
「そ、そ、そんな事は記憶にございません」
「あぁ!!シーザリオ様が腐れ貴族みたいな事を言って逃げた!!」
少し離れたところで聞き耳を立てていたアレグリアがツッコむ。
「き、聞いてたの!?」
シーザリオが慌てふためく。
「やっぱり!!あの時、私たちは部屋から出て行ったから分かりませんでしたけど…シーザリオ様の様子、明らかにおかしいと思いました」
リスグラシューからも攻められる。
「あ、あれは不可抗力で、回避できなかったんです!!」
言い訳をするシーザリオだったのだが、みんなの冷たい視線が突き刺さる。
耐えきれなくなったシーザリオは『そ、その節は…申し訳ございませんでした』と頭を下げたのだった。
【ジュリア視点】
(ダイエットしましょう!!!!!)
私は浜焼きという言葉を聞き決意する。
(浜焼き…浜辺………水着!!)
自分の水着姿を思い浮かべ、無意識に胸を下から持ち上げ、お尻が垂れてないかを触って確認する。
(大丈夫よ、ジュリア。美肌ポーションのおかげで胸とお尻に張りが戻り垂れてない!!でも………お腹のお肉が少し気になるわね…。あっ!?二の腕もプルプルしてるかも…)
不安が募る。
いくら特製ポーションを飲んでいると言っても、ライバルのレベルが高すぎる。
(アレグリアの裸…久しぶりに温泉で見たけど、胸が膨らんできていて、大人の体に成長してたわよねぇ…。それに10代の瑞々しい肌は、いくらハヤト君特製の美肌ポーションを飲んだとしても、縮まらない大きな差…。加えてシーザリオ様とメサイア様、ウオッカさんとファレノプシスさんも、私と同じ美肌ポーションを飲んでいる。分が悪い事は火を見るより明らかだわ………。私がハヤト君の気を引くには…やっぱりダイエットは必須ね!!)
私はお腹のお肉をつまみながら改めて決意する。
(でも…ライバルは強力。天真爛漫のアレグリア。儚げな美しさのリスグラシューさんに元気一杯の美少女アパパネちゃん。魔法の天才にして容姿端麗のシーザリオ様に公爵家のお嬢様で才色兼備のメサイア様。凛とした美しさがあるファレノプシスさんと正統派美少女のブエナビスタちゃんの姉妹も強敵。食いしん坊で憎めない巨美女ウオッカさん…あの巨乳で攻められたらハヤト君はイチコロよ。尻尾と猫耳が可愛らしいリバティさんやお調子者のゼニヤッタさんもライバルになるかも…)
私は無意識に『はぁ~…』とため息を付いた。
「ジュリアは癒し系美女だよね」
「………心を…鑑定したの!?」
「あはははっ。いや、なんとなく、そう思っただけ…。指でお腹の肉をつまんでるのが見えちゃったからね。でも、ダイエットなんて必要ないよ。俺はジュリアの包容力のある人間性に惚れているんだ!!」
ハヤト君は笑いながら私の手を握る。
「………馬鹿ねっ!!」
私はハヤト君の手をつねる。
「照れちゃって!!可愛いよ、ジュリア!!」
「可愛いって、そんな歳じゃないのに…」
私は年甲斐もなく、どうしたらいいか分からなくなって、とりあえず怒ったふりをしてしまうのでした。




