第129話 リーズの街への思い…
「ハヤト様、お心遣い、ありがとうございます。クロカゲの中に器用な者がおりましたので、ゼニヤッタさんの馬車を直しておきました」
「ありがとう。助かる。ゼニヤッタの荷物は馬車に戻しておくよ」
「ふふふっ、当然の事です!!あと、クロカゲからの報告では、もう少し進めば野営ができそうな場所があるそうです。今日はそこで休みましょう」
リスグラシューはすまし顔で答えるが『ドヤ顔』が抑えきれていない。
「ファレノプシス、さっきゼニヤッタから受け取った麻袋を…。リスグラシュー、ここから馬車の修理代金を取ってクロカゲに渡しておいてくれ」
俺はそう言った後、麻袋をゼニヤッタに返す。
「馬車まで直してもろうて…受け取れへんって言ったやん!!」
「ポーション販売を委託するんだ。まとまったお金が必要だろ?これはゼニヤッタ、あなたへの投資だよ。商売が軌道に乗ったら10倍にして返してくれればいいから、気にしないでくれ」
「ホンマか?でも…10倍って、少しぼりすぎやない?」
「ふふふっ、エアディドール家や王家筆頭魔術師ともお近づきになれたんだよ。どう考えても安いと思うぞ」
「せやな!!せや!!ハヤトはんの言う通りや。シーザリオ様にメサイア様、今後ともこのゼニヤッタをごひいきにお願いいたします」
手揉みをしながら二人に言う。
「あなた…何か勘違いをしていませんか?」
「正直に言って、あなたの幸運は私やシーザリオと知り合えた事じゃないわ」
「そうね。商売はうまくいくでしょうけど、ただそれだけ。おもしろくもなんともないわ」
「お父様にお願いをすれば、公爵家の御用商人にしてあげられるとは思うけど…つまらないわよ」
シーザリオとメサイアが『あなた、何も分かってないのね』という顔をしてゼニヤッタに言う。
「王家筆頭魔術師と公爵家のお嬢様ですよ!!こんな人脈、作りたくとも作れへんよ!!」
少し困惑しながらゼニヤッタは言った。
『まあ、すぐに分かるわ。嫌でもね!!』
シーザリオとメサイアは俺の顔を見て笑ったのだった。
「???。まあいいや。日が暮れてきた。早く移動して野営の準備をしよう」
『は~い!!』
俺たちは移動し、野営の準備に取り掛かるのだった。
夕食になり…
「分かった、分かってん。夕食が美味すぎる!!特にこの焼き魚は最高や。こんなもの食べた事あらへん。本当に美味い、美味すぎや!!これが知り合えたメリットやったんやな!!」
一人大騒ぎするゼニヤッタを、俺たちは生暖かく見守る。
クロカゲのみんなも『騒がしい娘が加わったな』という顔をしている。
「うおっ!?なんやねん、この飲み物は?オレンジだと思うんねんけど、シュワシュワの原因が分からへんわ。でも、めっちゃ美味しいやん!!」
俺たちは食事を終えて、まったりタイム。
オレンジジュースやシャーベットを味わう。
クロカゲたちのデザートはちゅーちゅ。そしてグランのデザートは、俺の魔力を練り込んだ特製ちゅーちゅだ。みんな美味しそうにペロペロ舐めている。
「ハヤトはん。レストラン開かへん?この料理と味なら、大繁盛は間違い無しや!!」
「ゼニヤッタ、実はジュリアがリーズで宿を経営していて、今ちょうど宿にレストランを併設する改装中なんだ」
「そやったんか!!でもリーズより、やっぱり王都のほうが儲かると思うでっ!!」
「まあ、儲けだけを考えるなら、そうなんだろうけど…ジュリアはリーズという土地に思い入れがあるんだ。亡くなった旦那さんや両親との思い出があるからね」
「そやったんか…すまへんな。ジュリアさん」
急にしんみりとした空気になり、俺たちは下を向く…が『思い入れ?リーズに思い入れなんかないわよ?』と、平然な顔してジュリアが言った。
『ないんかい!!』
思わずみんなでツッコミを入れる。
苦笑いをするジュリア。
「ベガの建物には思い入れがあるわよ。柱の傷一つとっても大切な思い出だから…。でもね、私の生まれ故郷はリーズではないし、思い入れと言われるものは持ち合わせていないわよ。リーズへの思い入れと言うなら、リーズで生まれ育ったアレグリアのほうじゃないかしら…」
全員がアレグリアに注目する。
「いや、私もないから!!」
『ないんかい!!』
「だって…辛い思いでしかないもん。お父さんは死んじゃったし、冒険者としても成功できなかったから…。でも、ハヤトやみんなと出会えた事は嬉しく思ってるわよ!!」
「そうだな。もし、アレグリアが森にいてくれなかったら、俺たちは出会えていなかったかもしれないな」
「…そうね」
かがり火に照らされたアレグリアはうつ向き、そっと俺の肩にもたれかかった。
そっとアレグリアの腰に手を回す。
「ふふふっ、この旅路でクロカゲとグラン、それにゼニヤッタさんとの出会いも運命の出会い。私たちは見えない糸に導かれ、必然的にハヤト様と出会ったのです」
リスグラシューは薄暗い中、不敵な笑みを浮かべるのであった。
【ゼニヤッタ視点】
「なんやこれっ!?めっちゃ美味いやん!!」
「ありがとうございます。これはすき焼きという料理になります」
「…すき焼き!?聞いた事あらへん料理やな。でも、お肉や野菜の美味しさはもちろんの事、生卵の優しい食感がたまらへん!!リスグラシューはん、控えめに言って最高や!!」
「ふふふっ、こちらハヤト様から教えて頂いた異世界料理になります」
「そやったね…ハヤトはん、異世界から転移してきはったんやったね。あと、おかわりや。すまへんけど、肉多めにしてくれへんか?」
リスグラシューはんは目を細める…が、バランスが大切と野菜を多めに入れられてしまった。
「殺生な…肉、もっと入れてぇな」
「申し訳ありません。思いがけなく大人数になってしまいましたので、食料が足りなくなる可能性も出てきました。ご遠慮をお願いいたします」
「あっ!?すまへんな。ウチも助けられたんやった。すっかり忘れとったわ!!」
ニッコリと微笑むリスグラシューはんの横で、ウオッカはんが肉を大量に取ろうとする。
『バチーーーン!!』
リスグラシューはんが容赦なくウオッカはんの頭をどつく。
「後生よ、後生。リスグラシュー、後生なのよ」
「ダメです。まずはクロカゲの子供たちが最優先。これはハヤト様からのお言いつけなので絶対です!!」
「子供…分かった」
「明日にはムムルーズの街に到着します。そうすれば思いっきり食べられますから、それまでの我慢ですよ」
リスグラシューはんがウオッカはんを優しく諭す。
器に盛られたお肉や野菜を少しずつ食べるウオッカはんがやけに切ない。
しかし『魚が追加で焼けたよ!!』と、ハヤトはんの声が聞こえると『ヤッホゥーーー!!」と、満面の笑顔を浮かべて駆け出していった。
「全く…ウオッカさんたら………」
「リスグラシューはんも大変なんやね」
ウチが慰めるが、当のリスグラシューはんは苦笑いを浮かべつつも、幸せそうな顔をしていたのだった。
「………みんな、楽しそうやね。ウチ、ずっと一人で頑張ってきたから、こういう雰囲気、少し羨ましいわ………」
無意識に呟く。
「何を言っているのですか?ゼニヤッタさんも、すでに私たちの仲間ですよ」
「………ウチも仲間。ええんか?」
「もちろん!!ただし…」
「ただし、なんなん?」
ウチの問いかけに『ニヤリッ』と笑うリスグラシューはん。一瞬、寒気がする。
「ハヤト様は異世界人にして、創造神マリア様の使徒様なのです。この世界の覇王になるべく舞い降りられた特別な人間。しかし…現状は人材も資金も足りていない。ゼニヤッタさん、あなたはハヤト様を覇王にするために資金を稼いでください。そして一日でも早く、ハヤト様をこの世界の覇王にするのです!!そのためにお力をお貸しください」
ウチの体が熱くなる。
「あなたは野盗に襲われ死ぬはずだった。でも…生きている。なぜだか分かりますか?創造神マリア様がハヤト様の力になれと生かしたのです」
「ホ、ホンマかいな!!」
「ホンマですわ。私もアレグリアさんも、シーザリオ様もメサイア様も…。みんなハヤト様に使えるよう選ばれた人たちなのです。ゼニヤッタさん…」
リシュグラシューはんがウチに手を差し伸ばす。
ウチの体がさらに熱くなり、武者震いをする。
「ウチ…頑張るさかい。ハヤト様のために頑張るわ!!よろしゅう頼んますわ、リスグラシューはん!!」
ウチはリスグラシューはんの手を握り締め、ハヤト様のために生きていく事を誓うのでした。




