第128話 ポーションの委託販売
「ほら、立ってよ」
俺は再び、ゼニヤッタに手を差し伸べる。
「…ハヤトはん、おおきに。でも、不思議やね。初めて会ったのに、ウチの事をよく分かってるんやね。まるで、心の中を見透かされているみたいやわ」
「申し訳ないけど、鑑定させてもらったんだ。ゼニヤッタ、あなたが今回の商いに商人生命を賭けていた事は分かった。そして、全てを失ってしまった事も…」
「鑑定、ホンマかっ!?………いや、あんたらを見てたら疑う気にならへんわ。なあ、ハヤトはん………ウチに商いの才能はあるのか無いのか、教えてくれへんか?今まで自分を信じて進んできたけど、心のどこかで疑っててん。もしハヤトはんに『才能がある!!』と言ってくれれば、もう一度だけ、頑張れる気がするねん」
ゼニヤッタは潤んだ目で見つめ、縋りつくように俺の手を握り締めた。
「今回は運が悪かっただけで、商売の才能はあるよ。そうだ!!よかったらブエナが作ったシーザリオのお墨付きポーションを取り扱わないか?」
「ポーションを!?ホンマでっか!!」
「あぁ、どうやら俺には商売の才能はないみたいなんだ。だから、商才があるゼニヤッタ、あなたに任せたい」
「やりますわ!!シーザリオ様のお墨付きが付いたポーションが扱えるのなら、一気に巻き返せますわ!!限界まで値を釣り上げて、大儲けして見せまっせ。ぐひひひっ」
ゼニヤッタはあくどい顔をして、下品な笑い声をあげる。
美しい顔とのギャップが凄い。
「切り替え早っ!!でも、下級ポーションは困っている人達にも手が届くように、適正な金額で売ってほしい」
「シーザリオ様のお墨付きでっせ!?なんぼでも高値で売れますがな!!」
「分かってる。この前、一本3万エンで売れたからね。でも…やっぱり少し高すぎるかなぁと思うんだ」
ゼニヤッタは少し考える。
「ハヤトはんの希望小売価格を教えて。あと、今、ポーションをもってへん?現物を見て、効果を確認せんと、値付けできひん」
「希望小売価格か、う~ん…お手頃価格としか。でも、約束があるから、ブエナからは1本3000エンで仕入れて欲しい」
俺はそう言って、ブエナの作った下級ポーションを渡した。
ゼニヤッタが真剣な目つきでポーションを品定めしている。
(さすが商才のある人間。どことなく将来豪商になれる雰囲気が、所々に感じられる)
ゼニヤッタの雰囲気や身のこなしを見て感心をする。
だが…『あかんわ、全然わからへん!!』と笑う。
俺は思わず『雰囲気だけかい!!』とツッコミを入れる。
「あはははっ、すまへんな!!一応、できる女を装ってみたかったんや。許してぇ~な!!」
ゼニヤッタは笑いながら懐からナイフを取り出し、指先を切りつけた。
白く長い指から血が流れる。
効能を確かめるように、ゼニヤッタは少しずつポーションを飲んでいく。
「………ハヤトはん。ほんまに下級ポーション?」
「あぁ、それは間違いない。でも、下級ポーションの中でも最上級の部類に入る事は保証する」
「そやな。疑う余地なんかあらへん。さすがシーザリオ様のお墨付きといったところやわ」
いつの間にか傷口が治った自分の指を見ながら、ゼニヤッタは感心をする。
「これが1本3000エン…安すぎる。でも、庶民にとっては過剰品質とも言える。庶民が求めているのは、もう少し効能は抑えられても手軽に買える価格帯のポーションや。ウチが3000エンで仕入れて利益を上乗せしたなら…4000エン。アカン、輸送費も考えへんと…5000エンは欲しいところやな」
「…やっぱり高いか」
「高いけど問題あらへんよ。3倍に薄めればいいだけや。そしたら2000エンを切る値段で売れるやろ」
「あぁ、そうか。めんつゆ方式か!!」
「めんつゆ?なんなん、それ?」
「ごめん、関係ない」
「でもハヤトはん。もっと安くできるよ。さっきハヤトはん、30000エンで売ったって言ったやん。原液は30000エンで売って利益を荒稼ぎして、3倍に薄めた廉価版ポーションは安く売る方法もある。分かりやすく言えば、金持ってる奴からはなんぼでもぼったくればいいねん!!」
「あはははっ、確かにそうだね。俺にはできないけど、ゼニヤッタさんに任せるよ。ブエナもシーザリオもそれでいいよね?」
シーザリオは『にっこり』と微笑み、ブエナは『いいよ!!』と元気よく答えた。
「ハヤトはん、あとな…やっぱり美肌ポーションが気になるんよ。私も肌艶々になりたいねん」
「まあ、分からないでもないけど、これは今のところ売り出すつもりは無いんだ。今は様子見といったところ。でも、ちゃんと仕事をしてくれたら、個人的にプレゼントしてもいいよ」
「ホンマかっ!?ウチ頑張るわ!!」
ゼニヤッタさんの瞳に炎がともる。
「ハヤト様、ポーションで思い出したのですけど、毛生えポーションなる物を作り出す事はできませんか?」
「毛生えポーション?美肌ポーションが作れたからできなくはないと思うけど…どうして?」
「実はメサイアの父、エアディドール公爵様の髪の毛が薄いのです。最近は風か吹くたびに毛が抜けるくらいに抜け毛が多いそうです。それで献上品として抜け毛ポーションを持っていけば好感度が爆上がりで、何事もうまく事が運ぶと思われます」
「風が吹くたびに髪の毛が抜け…それは大変だね」
俺はシーザリオの言葉を聞いて寒気がし、思わず自分の髪の毛を触る。
「じゃあ、公爵様に毛生えポーションを、あとグルーヴ様に美肌ポーションを献上しようか?」
「それは妙案です!!美肌ポーションを献上すれば、母の心象も爆上がりでしょう!!」
俺は早速、毛生えポーションを作ってみる…が、ここには髪の毛が薄い人間が一人もいないので、効果が検証できない。
一応、鑑定してみる。
上級ポーション Lv.10 毛生え(特大)
「できたけど、どうしよう?効果をこの目で確認してみないと、公爵様には献上出来ないだろ?」
「大丈夫ですよ!!私からの贈り物としておけば問題ありません」
「そうか、メサイアからの贈り物ならな。可愛い可愛い娘からの贈り物なら、父親は大喜びというわけだな。そこは庶民と貴族も変わらないという事だね」
「母は厳しいですが…父は娘には甘いですね」
「ふふふっ、それはどこの世界も同じ…いや、そうでもないのか?リスグラシューの父親は酷かったな」
メサイアの後ろで、何ともいえない顔をしているリスグラシューを『そんな顔をするなよ』と言って、優しく抱きしめたのであった。
【ゼニヤッタ視点】
(しっかし…このハヤトという兄ちゃん、何者やねん?シーザリオ様とメサイア様を呼び捨てにして、まるで自分の彼女のように扱っとる…。ただのポーション売りにそんな事が可能か?いや、無理や!!このハヤトという兄ちゃんには他に隠された秘密があるはずやでっ!!)
ウチは差し伸べられた手を握り、ハヤトはんの瞳を見つめる。
優しげな瞳に安心感を覚えるが、彼の表情を見ていると、自分の心の中を見透かされているように感じられた。
「ハヤトはん、おおきに。うまく言えへんけど…なんだかハヤトはんには、すべて見透かされている感じがするわ。…ごめんな。悪い意味ちゃんねんよ!!」
自分の正直な気持ちを伝える。
ハヤトはんは苦笑いを浮かべる。
そして…
「申し訳ないけど、ゼニヤッタ、あなたを鑑定させてもらった。俺は、あなたが今回の商いに商人生命を賭けていた事も知っているし、全てを失ってしまった事も知っている」
私に目を見つめ、ハヤトはんは言った。
「鑑定……スキル…そうか、それで…」
不思議な事に、ウチの心の中に疑いの気持ちは全く無かった。
(あぁ、それで………かいな)
素直に納得ができた。
(ハヤトはんは普通の人間やない。特別な人間なんや。だから、シーザリオ様やメサイア様もハヤトさんを慕っているんやな。才能ってやつやな。唯一無二の才能を、ハヤトはんは持ってるんや。ウチに…商人としての…才能が………あったのかだけ…知りたいな。自分は正しい道を歩んでいたのか、全く可能性が無い道を歩いていたのか、それだけは知りたいよ)
ウチはハヤトはんの差し伸べられた手にしがみついた。
そして…
「ウチに商いの才能はあるのか無いのか、教えてくれへんか?」
そう…覚悟を決めて聞いてみた。
(もし、ハヤトはんに『才能はある』と言ってもらえれば、もう一度だけ、頑張る事ができる。どんなに苦しくても、底辺から這い上がっていってみせる。でも………『才能が無い』と言われれば…すべてを諦めよう………)
情けないねんけど、自然に涙が溢れてきた。
夢を諦めるという現実を受け入れたくない。
自然にハヤトはんの手にすがりつく。
「今回は運が悪かっただけで、商売の才能はあるよ。そうだ!!よかったらブエナが作ったシーザリオのお墨付きポーションを取り扱わないか?」
ハヤトはんの言葉を聞いて、驚きで一瞬、頭の中が真っ白になった。
(!?………才能があると言ってくれただけではなく、シーザリオ様のお墨付きが付いたポーションの取り扱いまで…。ホンマでっか!!)
ウチは絶望感に打ちひしがれていた事も一瞬で忘れ…
「やりますわ!!シーザリオ様のお墨付きが付いたポーションが扱えるのなら、一気に巻き返せますわ!!限界まで値を釣り上げて、大儲けして見せまっせ。うひゃ、うひゃひゃ…ぐひひひっ!!!」
ウチは自分でも嫌になるくらいの下品な笑い声をあげてしまい、ハヤトはんをドン引きさせてしまうのでした。




