第127話 乳やで!!ほら乳
「ホンマ勘弁しておくんなまし!!」
「…おくんなましって」
ゼニヤッタは俺の手を振り払い、再びジャンピング土下座を決めて地面に額をこすり付ける。
「ゼニヤッタさん、メサイア様とシーザリオ様以外はただの庶民ですから、気にする事はありません。みんなも二人に対しては普通に振舞っています。逆に仰々しく振舞えば振舞うほど、二人の機嫌を損ねる事になりますよ」
「…ホンマかいな」
ゼニヤッタは少しだけ頭を上げ、リスグラシューのほうを見た。
「そういえば、初めの頃はみんな二人にビビッてたけど、今では普通に話をしてるね。あっ!?俺も二人とはあまり関らないようにしてたっけ?」
「ハヤトは試食会の時、店の隅っこで存在感を消して隠れてたよね」
「あはははっ、アレグリア、よく覚えてるな。そんな事もあったけど仕方ないよ。あの時は二人ともオーラが凄かった」
俺は笑って二人を見る。
「そんなオーラを出しているつもりは無かったのですが、そのオーラ、今はなくなりましたか?」
「…う~ん。ゼニヤッタの態度を見ると、今も出てるんじゃないかな?俺たちが慣れただけの感じがする」
「おそらくそのオーラが見えるというのは、エアディドールという家名や、王家筆頭魔術師という地位を意識しすぎた結果だと思います。私たち二人からはオーラなんてものは出ていないと思いますよ」
「確かにそれはあるかな」
俺はメサイアの言う事に納得する。確かに初めのうちは国のお偉い様と関わりたくないという気持ちがあった。
「お二人がベガに泊まり、リスグラシューの作った料理を一緒に食べる。そして何気ない会話を通じ人柄を知った。一緒に生活していくうちに、お二人が私たちと同じ人間で、庶民を見下したり差別したりしない人と分かりましたから、みんなと心が打ち解けたんだと思いますよ」
「ジュリア、年の功って言うのかな?さすがにいい事言うね!!」
「ハヤト君、なんだか私だけ年寄り扱いしてない?」
「してない、してない!!それに美肌ポーションのおかげで20代に見えるよ!!」
「ふふふっ、ハヤト君。見た目の肌が若返っただけじゃないのよ」
ジュリアが妖艶な笑みを浮かべ『胸の張りも戻って上向いちゃったの♡』と、耳元でささやいた。
「マジでっ!?」
「ふふふっ、み・た・い?」
俺はフラフラとジュリアの胸元に顔を寄せていく…が『ハヤトはん!!美肌ポーションってなんやねん!?詳しく教えて~な!!』と、ゼニヤッタが激しく食いついてきた。
どうやら美肌ポーションというワードを聞いて、商人の勘が働いたらしい。
「ぐおっ!!」
激しいゼニヤッタからの圧を受け、俺はジュリアから離れざるを得なくなる。
「くそぉ~!!ジュリアの胸が遠ざかっていく…」
「ハヤトはん、乳なら私のをなんぼでも見してやるさかい、詳しく教えてぇな!!さっき下級ポーション売りって言ってへんかった?シーザリオ様のお墨付きも凄いけども、美肌ポーション。なんだかお金の匂いがプンプンするでぇ~!!!!!」
目ん玉が¥になったゼニヤッタが荒ぶるが、ウオッカに首根っこをつかまれ俺から遠ざかる。
「うわっ、ムッチャデカいけど、あんたも肌艶々でベッピンさんやな!!てゆうか…ベッピンさんしかおらへんやん!!どうなってんねん!?」
ゼニヤッタはウオッカに首根っこをつかまれ宙に浮きながらも、手足をバタつかさせて荒ぶる。
「ゼニヤッタ、落ち着こう。あなたもここにいるみんなに負けないくらい美人だと思うよ」
俺は荒ぶるゼニヤッタに言う。
「せやろ?そんな事は分かってんねん。でもウチはこの美貌を武器に商売をしようとした事は一度もあらへん。エロ貴族がウチの体と引き換えに御用商人にしてやるなんて言うねんけど、すべて断ってきてんねん。でも…美肌ポーションの事を教えてくれたら、少しくらい乳見せてやるさかい、なぁ、ハヤトはん、教えて~な」
「…ゼニヤッタ、男は『乳見せてやる』なんて言われるとなえるんだよ」
「なんでよ!?ハヤトはん、乳やで!!ほら乳。少しくらいなら触ってもいいんやで!!」
呆れ気味に見ていたシーザリオやメサイヤ、それにアレグリアたちからどす黒いオーラが漂い始める。
「このエロ商人、何が美貌を武器にした事が無いですか!!」
「私たちの前でハヤト様を誘惑するなんて、命が欲しくないみたいね」
メサイアが激怒し、シーザリオが圧力を加える
「…助けたのは失敗だったか」
眉をひそめて考え込むファレノプシス
「とっ捕まえて、ゴブリンの巣に放り込みましょう!!」
アレグリアがゼニヤッタの喉元に槍を突き付ける。
「待ってぇ~な!?勘弁してぇ~!!本当はこんな事したくはないねん。でもウチにはもう体しか残ってないねん。馬車は無茶苦茶に壊されてしもた。残った商品をかき集めても借金を返す事ができへん。商人は信用が大事や。借金返されへんかったら、ウチは商人として生きていけへんのよ」
ゼニヤッタさんは両手を上げ、涙を浮かべて弁明する。
どうするの?という顔をして、みんなが俺の顔を見た。
「ゼニヤッタは今回の商いのために、多額の借金までして商品を仕入れていた。言わば今回は、人生を賭けた商いだったと言える。実際、本当にもう何も残ってないようだよ。でも、商人としての能力は間違いなく優秀。今回は運が悪かっただけ。追い詰められて多少暴走してしまったけど、本来はいい人。許してあげようよ」
「まっ、ハヤトが言うなら仕方が無いわね」
アレグリアが槍を収めた。
「おおきに、おおきにな」
ゼニヤッタさんは『ヘナヘナ』と力無く座り込み、再び土下座モードに入ったのだった。
【ゼニヤッタ視点】
(ふう~、なんとか助かったみたいやな)
ウチは野盗を始末したたえ合う、謎の美女冒険者パーティーを前にして思う。
「あんたたちも、おおきにな。心から感謝するわ………って、おらへんやん!?」
私を囲んで守っていた猫耳さんたちは、いつの間にか姿を消していた。
(いつの間に…たった今、ここにいたはずなんやけれども………)
感謝の気持ちを伝えようとするも、猫耳さんたちは姿を消し、気配さえも感じられなかった。
その時、冒険者パーティーの仲間だろうか、優し気な兄ちゃんが現れた。
(………冒険者パーティーの雇い主なんかな?しかし、これまた美形の女性を二人も従えてるやん。兄ちゃんも含め、美形しかおらへんでぇ!!どうなってるん?でも、この兄ちゃんが雇い主なら、ちゃんとお礼を言わへんと…)
ウチは会話をしている冒険者たちを見つめながらタイミングを計る。
「あ、あのう~」
会話が少し途切れたので、私は思い切って声をかけた。
全員が私に注目する。
「どこの誰だか分かりませんが、ホンマに…おおきに!!」
戸惑いながらも、出来得る限りの笑顔を作り話しかけてみた。
(ふふふっ、ウチだってエロ貴族とかから声を掛けられる事も多い。当然そんな誘いには乗らへんけど…不細工っちゅう事はない。今は使えるもんがあらへん。多少は女の武器を使ってでも、この兄ちゃんに気に入ってもらわへんとな。でも、感謝の気持ちはホンマやでっ!!)
そんな思いを抱きながらお礼を言った。
「大丈夫だった?怪我とかない?」
心配そうに私に声をかける兄ちゃん。
(あ、あかん。ウチ程度の女では、色仕掛けは通用せえへんでぇ~。どないしょう?)
ウチが作ったとびっきりの笑顔を完全スルーされた。
目の前の兄ちゃんはウチの笑顔にも、一ミリも心を動かした様子がうかがえない。
(完全通常モードやん。美女に対する耐性があり過ぎるんかな?)
そんな事を思いながらも会話を進めていくが、彼らの馬車が到着する。
(でっかい馬車やな。もしかして貴族か、大店のボンボンやろか?………げっ!?エ、エ、エアディドールの紋章が付いとるやん!!この兄ちゃん、もしかして………エアディドール家の跡取り、シェイディ様なん!?それなら、この対応も納得やでぇ!!)
私は瞬間的に飛び上がり、キレッキレのジャンピング土下座を決めるのでした。




