第126話 律儀なゼニヤッタ
「命が助かっただけ良かったんじゃないかな。俺たちも王都へ向かっているところだから送るよ」
「…おおきに。ウチ、ゼニヤッタちゅうねん」
涙を堪え、俺の差し出した手を握るゼニヤッタさん。
うつ向きながらも自分の足で立ち上がった。
「ハヤト、野盗たちが持っていた金目の物を集めてきたわ」
「ありがとう、アレグリア。とりあえず、ゼニヤッタさん。あなたが取られたものを返すから取っていってくれ」
FCLが手分けして集めてきた戦利品が積み上がっていく。
「あ、あかんよ。受け取れへん!!もうこれはあんたたちの物や。…ウチの物やない。それにゼニヤッタでええよ」
かたくなに受け取りを拒否するゼニヤッタ。
それどころか『助けてくれておおきにな。ウチの全財産や。受け取ってや!!』と、懐からお金が入った麻袋を取り出して俺に向かって差し出した。
「そんな事はいいんだよ。確かに私たちが野盗を倒したんだから、その時点で野盗の持っていた物は私たちの物。私たちはあなたと契約をしていないからね。それは間違ってはいない。でも私たちFCLは、そんなセコイ事は言わないんだよ」
「あかんよ、それはあかん!!ウチは道理に反する事が嫌いなんよ!!受け取ってや!!」
ゼニヤッタはファレノプシスにそう言い放つと、俺の手を取り、強引に麻袋を押し付けた。
俺が困っていると…
「ハヤト様、遠慮なく受け取ればいいと思いますよ」
「そうです。本来なら命は無かったのだから安いもの。一旦受け取っておいて、違う形で彼女を支援すればいいのです」
シーザリオとメサイアの言葉を聞いて、俺はゼニヤッタからのお礼を素直に受け取り、麻袋をファレノプシスに渡した。
「もうしばらくすると日が落ちる。急いで移動して野営ができる場所を確保しよう」
ゼニヤッタが名残惜しそうな顔をして、馬車の中で散乱している商品を見つめている。
「まだ使えそうなものがありそうだね。これはあなたの物だ。急いで選別して持っていこう」
「ええんか?…荷物になるやん」
「問題ないよ」
俺は散乱した反物を拾い土を払う。そしてマジックバックに収納した。
「マジックバック!?ハヤトはん、あんたマジックバックを持ってたんか」
「あぁ、一応、俺も商人だから…」
「商人!?嘘やろ?」
「ポーション売ってるんだ」
「ポーション?ポーションなん売れへんやん」
「まだ少しだけど売れたよ。一本3万エン。一つどう?」
「さ、三万!?嘘やろ!!」
「本当!!」
「せやかてハヤトはん。ポーションが3万何かで売れへんって。中級なんか?」
「下級ポーションだよ」
「あんた無茶するな。ぼったくりもいいとこやで!!」
「ふふふっ、俺のポーションはあの稀代の天才魔術師である王家筆頭魔術師のシーザリオのお墨付きが付いているんだ」
「ええぇ!?あのシーザリオ様の!?嘘やろ!!それにシーザリオ様を呼び捨てに。ハヤトはん、あんた一体、何者なん?」
稀代の天才魔術師と言われ、シーザリオが少し照れているのが可愛い。
その時、ウオッカが馬車を移動させてきた。
「えっ!?エアディドール家の紋章!?ハヤトはん、あんた…いや、ハヤト様、あなたはエアディドール家の関係者やったんか!?それなら納得やで!!」
ゼニヤッタが見事なまでのジャンピング土下座を決める。
「ゼニヤッタ、土下座は止めて。俺、好きじゃないんだ。それに俺はエアディドール家の関係者じゃない」
「関係者ちゃうんかい!!せやかて馬車にエアディドール家の紋章が付いてるやん。どういう事なん?」
「ふふふっ、こちらにおわすお方こそ、美貌と強さを兼ねそろえた女傑、エアディドール家の四女、メサイアお嬢様なのだ!!」
俺は少し大袈裟にメサイアを紹介する。
当のメサイアは顔を真っ赤にして照れている。
「ハヤト様……女傑などと…。私はまだそこまでの領域には達しておりません。女傑という二つ名は母グルーヴにしか似合いません」
「…メサイア様。という事は…隣の女性がシーザリオ様!?」
ゼニヤッタが地面に額をこすり付ける。
「ゼニヤッタ、やめよ。ハヤト様は土下座が好きでは無いと言ったであろう」
「そうよ。立ち上がりなさい!!」
「……………」
シーザリオとメサイアの言葉を聞いたゼニヤッタだったが、地面に額を付けたまま動こうとはしなかった。
「二人の圧、オーラが凄くてゼニヤッタがビビってるぞ。普通にしてよ」
『圧を掛けてるつもりは無いのですが…』
俺の言葉に戸惑う二人。
ゼニヤッタの手を取り、俺は無理やり立ち上がらせるのであった。
【ゼニヤッタ視点】
私は白い狼にまたがる美少女戦士の姿に見惚れている。
黒い戦闘服に燃え上がるような赤い防具。戦闘で負傷したのだろうか、片目は眼帯に覆われているが、彼女の目はどこまでも透き通って見えた。
彼女は私を守るように、野盗の前に立ちはだかる。
(助かった!!)
なぜだろう?
彼女の実力も何も分からないが、堂々とした後姿を見つめているだけで、自然とそう思えてきたのだった。
彼女と狼が野盗の中に突っ込んで行く。
野盗たちはひより、彼女は無人が如く駆け抜けていく。
猫耳さんたちが私の周りを固めてくれた。
野盗たちはパニックに陥っていたが、彼女の前に野党の頭領らしき人間が立ちはだかった。
そいつは彼女を舐めるように見回している。
「この女、いきなり出てきやがって…捕まえろ!!なかなかの美形だ。こいつも俺たちで犯した後、売り飛ばせばいい金になる!!」
周りにいる手下たちに言い放つ。
パニックに陥っていた手下たちも、頭領の一喝で落ち着きを取り戻し、すかさず彼女と狼を取り囲んだ。
狼の背中から、まるでゴミクズを見るような視線を送る美少女戦士。
「下衆が!!」
野盗に囲まれても眉一つ動かさず、クールに吐き捨てる姿が頼もしい。
彼女は槍で、自分に向けられた剣を軽く弾く。
(!?)
驚いた事に、野党の頭領の手から肩までが一瞬で凍り付き、狼が尻尾を当てると、腕が粉々に砕け散った。
観念し、命乞いを始める頭領。
(アカン、アカンよ!!そんな奴らの話を聞いちゃアカン。こいつ等は助けても、ほとぼりが冷めたらまた同じ事をやらかす。助けたらアカン!!)
彼女が一瞬目を離し、周りの状況を確認した。
その時、短刀を懐から取り出し、頭領が彼女に斬りかかる…が、次の瞬間、串刺しにされ、全身が凍り付いた頭領の姿が目に飛び込んできた。
私、そして野盗たちも、その光景を見て立ち尽くす。
美少女戦士が氷漬けになった頭領を地面に叩きつけた。
(エグッ!!)
私は砕け散った頭領の破片を見て思う。
逃げ惑う野盗たち。
彼女の仲間だろう。もう一人の槍使いと大柄の女性が、軽々と仕留めていく。
最後の一人は狼に蹴っ飛ばされ、吹っ飛んでいってしまった。
(とんでもない強さやん。これこそが本物の冒険者や!!)
私は槍を突き上げて勝鬨を上げている美少女戦士を見つめながら思うのだった。




