第121話 実はグランがフェンリルだった件
唇が触れ合うくらいにシーザリオの顔が迫ってきた。思わず『キスしちゃおっかな!!』と冗談を言いそうになったが、目つきが恐ろしすぎて、そんな雰囲気でもないのでやめておく。
「温泉に入ろうとしたら、すでにグランが入っていたんだ。はははっ、初めはグランの事を雄だと勘違いしててね、今考えると、俺の全裸を見て恥ずかしそうな顔をしてたな!!」
「それで?」
「……………」
場を和ませようと冗談を言ったつもりが、完全にスルーされてしまい気まずい。
「とりあえず鑑定をして、プラチナウルフだという事が分かったんだ。それで近づくとグランが大けがをしている事に気づいてポーションを飲ませた」
「…グランを見ると怪我などしていない。っと言う事は、ハヤト様のポーションは獣にも効果を発揮したという事ですね」
「そうだよ。多分、放っておけば、やがて歩けなくなり、命を落としていたと思う。でも、ものの見事に治ったんだ。それでグランに懐かれてね。体を綺麗にして乾かしたら、物凄く綺麗な毛並みをしていて…」
「綺麗な毛並みをしていて?」
「モフりまくって、確か『お前は俺のものだ!!』と言ったら…テイムしたらしい」
「ふむっ、テイムですか。メサイア、テイムをしたら獣が魔獣に進化したという話を聞いた事がありますか?」
「ないわね。主従関係が結ばれて、本人が獣と意思を通じさせる事は可能でしょう。でもグランは私たちとも意思の疎通ができる。ハヤト様、まだ何かやらかした事があるのでは?」
今度はメサイヤまでもが、俺に迫って尋問を開始する。
「やらかしたって言わないでくれる?俺はグランを助けたんだよ?良い事をしたんだからな。その後、名前を付けたんだ。グランというね。そうしたらグランの体が金色に輝いて…魔獣に進化してたな」
俺の話を聞いて、シーザリオとメサイアが顔を見合わせた。
「なるほど…でも、それだけでこんな短期間で魔法を使いこなせるようになるとは…」
「…確かに、実はプラチナウルフからさらに進化して、フェンリルになったりしてる可能性まであると思うわ」
「ふっ、メサイア止めてくれ。冗談が過ぎる」
「シーザリオ、エリクサーをも作り出してしまうのです。可能性が無いと言えるものですか!!」
「…考えたくもないのですが、伝説の魔獣ですよ!!」
「一頭で国を壊滅させ、世界を恐怖のどん底に叩き落としたという伝説の魔獣」
『ハヤト様、よく思い出してください』
二人の顔が迫って来るが、憂いた顔がたまらん!!
「あとは…特に……何もしていなかったような。あっ!?俺がシーザリオにしてもらったように、俺もグランの背中に手を当て魔力を流し込んだよ。その時、俺とグランの体が強烈な光に包まれたな。たぶんグランの体は俺の魔力で満たされてる。その後も俺の顔を舐めて魔力を補充してたからね」
「ハヤト様、その後にグランを鑑定しましたか?」
「う~ん、してないな」
「早く、早くグランを鑑定してください!!」
シーザリオが再び俺に迫った。
「まったく、こんな可愛いのに…。伝説の魔獣であるはずがない」
アレグリアからグランを引き取り、顎をくすぐりながら鑑定する。
「あっ、プラチナウルフでは無くなってる!?」
『やっぱり!?』
「…フェルリンだって」
『フェルリン?』
シーザリオとメサイアが顔を見合わせて困惑している。
「メサイア、フェルリンなんて聞いた事ありますか?」
「フェンリルと似ていますが、新種でしょうか?」
「名前は似ていますが、とりあえずフェンリルではないなら安心です」
「ふふふっ、シーザリオ。よくよく考えてみれば、狼をフェンリルに進化させられるわけが無いじゃないですか!!こんなに可愛いんですもの!!」
「はははっ、そうね。グランおいで。あなたはフェルリンという新種ですよ。王都に着いたら登録しましょうね」
シーザリオが俺の胸からグランを自分の胸に抱き寄せた。
グランはシーザリオとメサイアに頬ずりされてご満悦な表情をしている。こんなに早くグランがみんなと打ち解けてくれて安心する。
ほのぼのした気分でグランの鑑定結果を見直す。
グラン 雌 16歳 フェンリル(魔獣) 属性 氷
戦闘 098 政治 006 内政 007 謀略 054
魔法 091 家事 001 料理 001 生産 058
創造 087 商業 012 建築 068 魅力 091
外交 006 交渉 035 信用 100 採掘 055
鍛冶 001 研究 082 狩猟 099 解体 …
(んっ、なんか数字が変わっている気が…。フェルリンだよな…あっ!?違った!!シーザリオとメサイアが言ってた通り、フェンリルだった!!………どうしよう読み間違えてた)
恐る恐る魔法を選択する。
水S 火D 風A 土E 光B 月C 氷SSS …
(ぶうっ!?SSSだとっ!!バケモノ確定じゃん!!さすがは一頭で国を崩壊させてしまうという伝説の魔獣………マジでどうしよう?)
鑑定できるのは俺だけ。
このままフェルリンという新種という事にして、押し通そうかと悩みながらグランを見つめる。
グランはみんなに可愛がられ幸せそう。
俺と目が合った。
(ご主人様!!)
グランが胸の中に飛び込んできた。
優しく抱きかかえてあげると、グランは安心しきった顔をして目を閉じる。
「少し疲れちゃったみたいだね。寝ちゃったみたいだ」
唇に人差し指を当て、このままグランを寝かしてあげようと合図する。
アパパネとブエナが両手で口を押えている仕草が可愛い。
「とりあえず、みんなグランと仲良くしてくれ。伝説の魔獣フェンリルだけど、俺がテイムしたんで暴れる事は無いと思うよ」
「………ハヤト様、今、何と言いました?」
「あはははっ!!俺の読み間違えだった。フェルリンじゃなく、シーザリオのいう通りフェンリルだった。能力もバケモノ級まで上昇していた」
『……………』
みんなの表情がこわばり、ピクリッとも動かなくなってしまったのだった。
【グラン視点】
(ご主人様の恋人、みんな優しくて大好き!!)
私は背中やあごを優しく撫でられながら思う。
ご主人様から名前と魔力をもらい、体から力が湧きだしてくるような感覚がしている。以前には感じた事の無い感覚。
(今、戦ったのなら…誰にも負けない気がする)
群れの仲間に崖から突き落とされたときの事を思い浮かべ、思わず憎悪のような思いが頭をよぎった。
しかし…
(まあ、いいか!!ご主人様と出会う前の事なんて、もうどうでもいい。考えるだけ無駄だわ)
これから先の未来の事を考える、今までの事がすべてがつまらない事のように思えてきた。
(アレグリア、ジュリア、リスグラシュー、アパパネ、シーザリオ、メサイア、ウオッカ、ブエナ、ファレノプシス…それに当然ご主人様も、私が守ってあげる!!私は誰も見捨てたりしないからね)
私のような思いはさせたくない!!と誓うのだったが…
「くう~~~ん!!」
お尻を撫でられて、思わず甘えた声を出してしまった。
(はっ!?いけない、いけない!!私はみんなを守る立場なのよ。威厳のある姿を見せないと…)
私はそう思い、気を引き締める…が、体中を優しく撫で回されるという初めての感覚に溺れてしまう。
ご主人様の胸の中に飛び込む。
次第に眠たくなり、うとうとする。
(夢なら…覚めないで……もう…一人ぼっちには…なりたく………ない。みんなと一緒にいたい!!)
ご主人様の胸の中で心音を聞く。
心の底から安心して、意識が遠のきながらも、強く強く願うのでした。




