第119話 グランとアレグリア
「…なんか冷えてきた!!」
俺は目の前の凍り付いた温泉を見て寒気を感じた。
慌てて服を着る。
「よし、行こう。今、俺は仲間…いや、大切な女性たちと旅をしているんだ。グラン、お前をみんなに紹介したい」
「本当?嬉しい!!」
グランが体勢を低くする。
「ご主人様、乗って!!」
「大丈夫か?」
「余裕、余裕。大丈夫だよ。あっ、ご主人様は体が小さいほうが好き?」
グランは目を閉じる。
次の瞬間、グランの体が小さくなった。
「うおぉぉぉ~、スゲー!!そして、可愛い!!」
俺は小さくなったグランを抱き寄せる。
グランは俺の胸に抱かれ、嬉しそうに『キューン』と鳴いた。
「グラン、今はお前に乗るより、抱きしめていたい気分だ。このまま行こう」
「キュン!!」
俺はグランを胸に抱き、温泉を後にする。
「ねえ、ご主人様。大切な女性たちってどんな人なの?」
「どんな人って…実は俺、異世界から転移して来た人間なんだよ。この世界に家族や友人、当然だけど恋人もいなかった。ひとりぼっちで転移して来たところを、助けてくれたアレグリアという女性には本当に感謝している」
「ご主人様を助けた女性………アレグリア」
「そうだな。そのアレグリアの母親のジュリアさんもいるし…」
「母と娘?」
「そ、そうだな。グラン、決して狙ったわけでも、旦那さんから奪い取ったわけじゃないぞ。ジュリアさんは未亡人だったんだ」
「???」
「母と娘を一緒になんて、引くか?」
「別に。獣の世界では普通によくある事だよ」
焦る俺を見て不思議そうな顔をするグラン。
俺は話題を変えようと森の中を見渡す。
「んっ!?湧き水か?でも、なんか変だな」
俺はグランを抱いたまま斜面を降りる。
すると『あぁ、ご主人様。この水、シュワシュワしてて嫌い!!』と、グランが俺の胸に顔を隠した。
「シュワシュワ?もしかして…鑑定!!やっぱり、この水は炭酸水だ!!」
「炭酸水?」
「ふふふっ、グランは炭酸水が苦手なんだね。でも、この炭酸水は使える!!」
俺はマジックバックから水が入った容器を取り出し、炭酸水と中身を入れ替えた。
「炭酸水とグランの氷。この世界は結構お酒の種類が豊富」
ニンマリとする俺を不思議そうな顔で見るグラン。
「寄り道をしてしまったな。急いで…うわっ、ここを登るのか………」
俺は降りてきた斜面を見上げ、げんなりする。
すると、グランが俺の胸から飛び降り、元の大きさの体に戻った。
「ご主人様、乗って!!」
「お、おう!!」
俺がグランの背中に飛び乗ると、グランは飛ぶように斜面を駆け上がっていく。
「よし、このまま馬車まで帰ろう。グラン、この道を真っ直ぐに進んでくれ」
「分かった!!」
グランは俺を乗せたまま、物凄いスピードで森の中を駆け抜けていくのであった。
※
馬車が見えてきた。どうやら、みんな温泉から上がって俺を待っていたようだ。
「お~い!!ごめん、ごめん。待たせたみたいだね」
俺がグランに乗って颯爽と現れると、アレグリアたちは目をギョッとさせて立ち尽くす。
「………ハヤトの様子からして危険は無いとは思うんだけど、大丈夫なのよね?」
アレグリアが槍を構えて言う。
「あぁ、もちろん大丈夫だ。この子は俺がテイムしたプラチナウルフのグラン。アレグリア、槍を納めてくれ」
「…テイム!?」
アレグリアは槍を納め、グランに近づき顔をまじまじと見つめる。
「アレグリア、私はグラン。よろしくね!!」
「えっ!?声が………しゃべった!?」
「グランは魔獣、しゃべれはしないけど、意思の疎通ができるんだよ」
「魔獣!?意思の疎通!?」
「あなた、本当に私が言っている事が分かるの?」
「分かるわよ。あなたが転移して来たご主人様を助けてくれたアレグリアでしょ!!」
グランがアレグリアの頬を舐める。
アレグリアの顔が一気に崩れた。
「可愛い!!」
グランをモフり始めるアレグリア。
アパパネやブエナも大喜びでグランに抱き着く。
俺は一人ずつグランを紹介していく。
最初はおっかなびっくりだったのだが、グランと意思の疎通ができる事を確認して安心したようだ。みんなグランを受け入れ、グランもすぐに打ち解けたのだった。
【リスグラシュー視点】
「メサイア様、先程、公爵様の髪の毛の話をしていましたが…思い付いた事があるのです。ハヤト様に毛生えポーションなるものを作れないか、相談してはどうでしょうか?」
「毛生えポーション!?」
「美肌ポーションが作れるのなら、毛生えポーションを作れてもおかしくはないと思うのです」
「…確かに。そもそもエリクサーを作れるのです。ハヤト様がどんな効能のポーションを作られても驚きません。しかし…」
メサイア様が目を閉じ考えをめぐらせる。
「戦争になるかもね。美肌ポーションも毛生えポーションも表に出したら戦争になってもおかしくないわ。それほど、女性にとっての美、男性にとっての髪の毛は重要なものよ」
「…シーザリオ、私もそう思います。もし、美肌ポーションをシーザリオだけが持っていたならば………」
「ふふふっ、私から奪い取るだろう?」
「寝込みを襲い強引にでも…」
二人の間に火花が散る。
「…大袈裟では?」
『十代の小娘には分からいのよ!!』
「…申し訳ありません」
私は二人からの圧にたじろぐ。
「私は騎士です。万一のため、常日頃から鍛錬を欠かした事はありません。しかし…そのせいで、体中がアザだらけでした。どこかの水魔法馬鹿が容赦なく、私の体に魔法を当てるので…。でも…見てください。この真っ白で透き通った肌を!!アザが消え、日焼けでくすみが出てきた肌も十代の時のように瑞々しい」
「確かに。メサイア様の鍛えられた肉体美に透き通るような白い肌。特に胸とお尻の張りが凄い。同じ女性の私でも、思わず見惚れてしまいます」
「ふふふっ、分かる?」
私の言葉を聞いて満足そうな顔のメサイア様。
しかし『パシーン!!』と大きな音がする。
シーザリオ様が『プリプリ』のメサイア様のお尻を叩いた。
「何をするのよ!!」
「メサイア、確かにあなたのお尻の張りは凄い。それは認めましょう。しかし、しかしです!!ハヤト様はもっとムチムチして柔らかいお尻を好むと思いますよ。そう!!この私のお尻みたいにね!!」
シーザリオ様が振り返りポーズを決める。
「何を言ってるの、シーザリオ。私のお尻の弾力は埋もれた指も押し返すわ。きっとハヤト様も満足されるはず!!」
二人が張り合うかのようにお尻を向け合う。
「分かりませんよ。もしかして、ハヤト様は、少し未成熟な私のお尻のほうが好みなのかもしれません」
負けじと私もお尻を向ける。
「………全裸で何やってるの?みんな着替えちゃったよ」
「お尻談義も結構ですが、早く服を着ないと湯冷めしてしまうわよ」
アレグリアさんとジュリアさんが呆れた顔をして言う。
『…申し訳ありません。興奮をしてしまいました』
私たち三人は急に恥ずかしくなり、真っ赤な顔をして服を着ていくのでした。




