第116話 プラチナウルフ
(おっ、先客がいたのか。クリーン!!)
俺はマナーが大切とばかりに、体を綺麗にしてから温泉に入る。
「ふうううっ、いいお湯ですね!!」
肩までつかり、狼らしき獣に向かって言った。しかし、その獣は『ぐるるるっ』と低いうなり声をあげて、俺を睨みつけている。
「そんなに怒らないで。人間とは敵対関係なのかも知れないが、ここは温泉の中。一時休戦にして、のんびりと湯に浸かろうよ」
目を閉じて語り掛ける。そしてついでに鑑定。
(プラチナウルフ、要するに白金狼って事だろうか?)
再び『ぐるるるっ』と低いうなり声をあげたかと思うと、プラチナウルフが俺をさらに睨みつけて威圧する。
俺は片目を開けて『そんなものは通用しないよ』と笑った。
素知らぬ顔をして『ジリジリ』とプラチナウルフとの間合いを縮めていく。
『なんだこいつ!?』と、驚いている表情がおもしろい。
俺は『獣にも表情があるんだな』と思いつつ、隣にまで移動したのだったが、プラチナウルフの体に違和感を感じた。
「お前、怪我をしているのか?」
間近で見るプラチナウルフの右前足が異常に曲がっており、痛々しいほどに腫れ上がっていた。おそらく、この怪我のせいで動きが制限され、襲いかかって来れないのだろう。自然界で生きていくには、致命的と思われるケガだと、素人の俺にも分かるくらいの重傷を負っていたのだった。
「お前、間違いなく骨折してるだろ!?ちょっと待ってろ!!」
俺は急いでポーションを取りに行った。
ポーションを飲ませようと、俺は瓶を口元に持っていく。しかし、プラチナウルフは、ポーションを持った俺の腕に噛みついたのだった。
牙が俺の腕にめり込み、激痛が走る。
プラチナウルフは、俺の腕を引きちぎろうと首を振る。
俺はたまらず意識的に腕に魔力を集中させ『バリア』を発動する。
プラチナウルフが異常を感じ取り、俺の腕から離れようとするが、バリアのせいで牙が腕から抜けなくなっていた。
「いい子だ。大人しくしてくれよ」
俺は激痛を堪えながら、腕に噛みついて開いている口に、ポーションを流し込んでいく。
見る見るうちに腫れが収まっていき、右前足が真っ直ぐに治っていった。
キョトンとした顔で俺の顔を見つめるプラチナウルフが少し可愛い。
俺がバリアを解除すると、プラチナウルフが、ゆっくりと俺の腕から牙を抜き、傷口をペロッと舐めた。
「はははっ、心配してくれるのか?でも大丈夫だよ」
俺が残りのポーションを飲み干すと、傷口が瞬時にふさがる。
それでも俺の腕を舐め続けるプラチナウルフ。
どうやら怪我を直してくれたお礼らしい。俺はそんなプラチナウルフの姿を見守るのだった。
☆★☆
しばらくプラチナウルフの好きなように腕を舐めさせていたのだが、さすがに俺自身がのぼせ上がってきた。
俺は立ち上がりプラチナウルフの頭を撫でる。
体を冷やすため、俺は岩に腰かけた。
涼やかな風が吹き抜け、俺の火照った体を冷やす。
プラチナウルフも体を火照らせたのか、湯から上がり、岩の上にちょこんと座った。
「どうやらなつかれてしまったのかな。しかし…」
遠くから見た感じは真っ白で綺麗な毛並みだと感じたが、間近でよく見ると、結構汚れが目立っていた。
「クリーンからのウオーム!!」
俺はプラチナウルフの体を綺麗にし、体を乾かしていく。
「おおおっ、なんか、白毛というより…白金毛のようだな。さすがにプラチナウルフというだけの事はある。キラキラと輝いて見える!!」
俺はあまりの綺麗さに、思わずそんな事を口にする。
「モフりたい。絶対モフりたいぞ!!結局、おっさんストームにキスをしてしまって、黒猫ちゃんをモフれなかったので、今回は…」
俺は欲望を抑えきれず、狼のお尻のあたりを撫でる。
「キュイーーーン、キュイーーーン」
プラチナウルフは気持ちが良いのか、優し気に甘えた声を上げる。
少し恥ずかしそうな顔がたまらなく可愛い。
「たまらん!!今回はさすがに変化などしないだろう。おっさん狼でも構わない」
俺はプラチナウルフにキスをし、体中を撫でまわしモフりまくったのであった。
なすがままにされるプラチナウルフは『く~~~ん』と気持ちよさそうに甘えた声を出し、俺にお腹を見せる。
当然、俺は『モフモフ』『モミモミ』とプラチナウルフのお腹を攻め立てる。
しかし、俺は気づく。
本来あるべき、男としての『アレ』が見当たらない事に…。
俺は鑑定結果を見直す。
「…お前、雌だったのか!?男湯に入っていたから、普通に雄だと思ってたよ。まっ、いいか!!お前はもう、俺の物だ!!」
俺はそう言って、プラチナウルフの体に抱き着いたのであった。
【女湯】
「こらっ!!アパパネとブエナビスタは温泉の中で泳いではダメですよ!!」
『ごめんなさい』
リスグラシューが大はしゃぎする二人に注意をする。
「うふふふっ、はしゃぎたくなる気持ちも分かるわ。私も小さい時、両親に初めて温泉に連れて来てもらった時には、同じようにはしゃいだ記憶があるわ」
「お母さんもそんな時があったんだね」
「当たり前じゃない。あなたも小さい時、随分とはしゃいでいたわよ。覚えてる?」
「まあ…多少は…」
「あなたが成長して、自分の目標に向かって進んでくれている事を、お母さんは嬉しく思っているわよ」
ジュリアがアレグリアを見て、昔を懐かしむように話す。
そして…
「まさか、同じ男の人を愛してしまうとは思わなかったけど…」
「だよね~!!」
アレグリアとジュリアはお互いの顔を見て苦笑いをした。
「昔を懐かしんでいるところ申し訳ありませんが、少しだけお話をさせて頂けますか?」
メサイアがみんなに向かって言う。
みんながメサイアのほうに視線を送る。
「王都に着き、エアディドール家の屋敷に宿泊してもらうのですが…、当然、父親のシャカールにも紹介をします…が、さきに注意事項をお伝えしておきます………。絶対に頭には視線を送らないで頂きたい」
『頭に視線!?』
「えぇ…最近お父様の髪の毛が薄くなってきておりまして…大変気にしている様子。野外の稽古で風が強い日になると、事あるごとに前髪に手をやり整えているのです。周りの者は見て見ぬふりをしているのですが…なんとも気まずく…」
「あはははっ、ハゲなんて言ったら殺されるかもしれないわね!!」
ヤレヤレ顔をして言うメサイアを茶化すシーザリオだが、アレグリアたちは顔を青くする。
「………カツラは付けていないのですか?多くの貴族が禿げるとカツラを付けますよね?私も実家にいる時には、分かりやすいカツラを付けている貴族の方をよく見かけました」
リスグラシューがメサイアに聞く。
「…実は付けていた時もあったのですが、激しい稽古をするとズレたり蒸れたりするらしく、止めたようです」
「ハゲだけに激しい稽古をするとね!!」
『ぶうっ!!やめてください、シーザリオ様。そんな事を言われると意識してしまいます!!』
「あはははっ、ごめんごめん。悪かったわ!!」
楽しげなシーザリオを苦々しく見つめるメサイア。
「あと…もう一つ」
『まだ何かあるんですか!?』
うんざりするアレグリアたち。
その表情には『だから公爵家の屋敷になんて泊まりたくはなかった』という思いが現れていた。
「王都の屋敷には………その…なんと言うか…」
『!?』
言いにくそうにしているメサイアをアレグリアたちは『面倒くさい事は言わないでください!!』という顔で見ている。
「屋敷のメイドや使用人の中に、公爵様の愛人が何人もいる…だろ?」
言いにくそうにしているメサイアの代わりに、シーザリオが呆れ顔で言った。
『えええぇ~~~!!マジですか!?』
勘弁してくださいという顔をしてメサイアを見るアレグリアたち。
「まあ、公爵という立場の人間としては当然ともいえる。リスグラシューの父親も正室の他に多くの側室や愛人がいたでしょ?」
「確かに…」
「まあ、一番気まずいのは娘のメサイアよ。そこのところは察してあげてください」
『…分かりました』
アレグリアたちはしばらくの間、無言で温泉に浸かるのであった。




