第114話 焼き魚担当になりました!!
翌朝、テントから出ると、ひんやりとした空気が気持ちいい。
俺は朝日にむかって大きく伸びをする。
「おはようございます」
「メサイア、ファレノプシス、おはよう!!見張り役、ありがとう。それにしても、みんな早いね」
俺は、すでに朝食の準備をしているリスグラシューやジュリアを見る。
「あれっ!?黒影猫族の女性たちも、手伝ってくれてるんだ」
「はい。人数が増えましたから、本当に助かります」
「40人近くの食事となるとね。俺も手伝おうか?」
「いえ、それには及びません。食事の用意はリスグラシューに全てお任せください。ハヤト様はのんびりとしていてください」
「ありがとう。足手まといになりたくないんで、そうさせてもらうよ」
俺は目を覚まそうと、顔を洗いに川まで歩く。魔法を使えばいいのだが、なんとなく、朝は冷たい水で顔を洗って目を覚ましたい、そういう気持ちが強い。
ストームさんたちが川のほうをじっと見つめていた。
「おはようございます。どうしたんですか?」
「ハヤト様、おはようございます。いえ…シーザリオ殿が…」
「んっ!?」
俺が川に目を移すと、シーザリオが川の真ん中に立っていた。そして少し下流には、アレグリアとウオッカが俺に向かって手を振るのが見える。
俺も笑顔で手を振り『何してんの?』と声をかけると、シーザリオが俺に向かって、人差し指を口に当て『静かに』というジェスチャーをした。
息を潜め、シーザリオの事を観察する。
水面に静かに手を当てるシーザリオ。
次の瞬間、多くの魚が水面に浮かび上がってきた。
「スゲーよ、シーザリオ!!」
俺は思わず感嘆の声を上げた。
「アレグリアとウオッカ、後は頼みます」
得意げに川から上がってくるシーザリオ。俺はすかさず『冷たかっただろう?』と言って、ウォームで体を温めてあげる。
「ハヤト様、ありがとうございます」
「いいよ。でも、凄い漁の仕方だね」
「ふふふっ、水中に衝撃波を放ち、魚を気絶させたのです」
「水魔法の得意なシーザリオならではの漁だ。素直に凄い!!と思ったよ」
「ふふふっ、ありがとうございます。街につくまでには、少し時間がかかります。人数が増えた分、食料を調達しなければ心もとないと、リスグラシューから頼まれました。食べられなかった分はハヤト様のマジックバックに入れておけば、いくらでも保存可能という裏技もありますから…」
「そうだね。本当に大漁だ」
アレグリアとウオッカが、大きな入れ物に溢れんばかりの魚を入れて戻ってきた。
二人をウォームで温める。
「冷たい水の中、お疲れさん」
「いいのよ!!ほら見てよハヤト、大漁よ!!」
「私たちは気絶して流れてきた魚を捕まえただけだけどね!!」
二人はそう言って、魚が入った入れ物を置いた。
「申し訳ありません。私たちもお手伝いしたかったのですが、どうも私たちは体を水に濡らす事が苦手でありまして…お世話になっている身で、本当に申し訳ない」
ストームさんをはじめとする黒影猫族のみんなが頭を下げる。
「人にはさまざま得意、不得意があります。不得意なものを無理やりおこなっても、良い事はあまりありませんよ。気にしないでください」
大量の魚を見て、はしゃぐ黒影猫族の子供たちが可愛い。
「お世話になっている身で手伝いもできず、子供たちがはしゃいでしまって…」
「大丈夫ですよ。みんな元気になって良かった」
「ハヤト様のおかげです。本当にありがとうございます」
「ふふふっ、そう言ってもらえると、こちらも嬉しく思います」
俺がストームさんと雑談をしながら戻ると、大量の魚を見てリスグラシューが大喜びする。
「シーザリオ様、グッジョブです。ふふふっ、当分、魚の心配はしなくても済みそうですね!!」
「ごめん。何匹かもらっていいかな?塩焼きにして食べたいんだ」
「塩焼き?いいですよ。では、すぐに下処理を済ませます」
しばらくすると、大量の下処理された魚が運ばれてきた。
「………これは、みんなの分も作れという、リスグラシューからの無言の圧力か」
俺は苦笑いをしながら、枝を串代わりにして刺していく。
『これなら私たちも手伝えます』
そう言って、黒影猫族のみんなとシーザリオやアレグリアも手伝ってくれた。
串代わりの枝を地面に固定された魚がずらりと並ぶ。
俺は魚に向かって手をかざし、じんわりと火魔法を発動させる。
「どう?シーザリオ。なかなか制御できてるだろう?」
「はい。申し分ありません」
しばらくすると、魚の表面に少しずつ焼き色が付いてきた。20分くらい焼いた後、裏返しにする。魚から油が落ち、ジュウジュウと音が聞こえてきた。香ばしい匂いが辺り一面に広がる。
「ハヤト、これ、絶対!!美味しいに決まってるわ!!」
「俺もそう思うよ。待ちきれん!!」
「ハヤト様、もっと、もっと焼きましょう。全然足りないです!!」
「ウオッカ、まだ朝食だよ。我慢して!!」
「くうううっ、この匂い。拷問に近い、一つだけ…」
ウオッカが魚に手を伸ばす。
「つまみ食いをしたら、朝食は抜きです。それでも良かったらどうぞ」
「ひいいいっ、ごめんなさい!!」
手を伸ばすウオッカの後ろから、リスグラシューが能面のような顔をして言い放った。苦笑いする俺とアレグリア。どうやら、ウオッカはリスグラシューに胃袋を握られていて、逆らえないようだった。
「ハヤト様、ありがとうございます」
リスグラシューは淡々と魚を回収していくが、指をくわえ、その姿を見つめるウオッカがやけに切ない。
しばらくして、朝食の準備が終わリ食べ始める。自分で言うのもなんだが、抜群の焼き加減で絶品だった。
「ハヤト様、素晴らしい焼き加減です。このリスグラシュー感動いたしました。さすがに私がこれだけの人数の焼き魚を用意するには手間がかかりすぎてしまいます。申し訳ありませんが、この旅の間はハヤト様に焼き魚を担当してもらってよろしいですか?」
「分かった、任せてくれ!!手伝える事があったら何でもやるよ」
「じゃあ、おかわり頼みます。あと10匹くらいは食べたいです!!」
ウオッカの言葉を聞いてリスグラシューが頭をはたく。
「…冗談です。ごめんなさい」
大きな体を縮こまらせるウオッカ。
ため息を付くリスグラシューが『私の分を1匹あげますから、これで我慢してください』と、ウオッカの皿に焼き魚を置いた。
「やったあ~!!さすがリスグラシューちゃん!!」
満面の笑顔のウオッカと呆れ顔のリスグラシュー。なかなかいいコンビな気がする。
朝食を済ませ片付けをし、少しのんびりしたらまた出発するのであった。
【リスグラシュー視点】
シーザリオ様とストームさんとの話し合いを終えて、私はテントに戻ろうとするが、後ろから呼び止められる。
「リスグラシュー、食料は大丈夫か?」
「……………大食い女子のウオッカさんの事を考えて、かなりの食量を調達してきましたが…正直、心もとないですね。黒影猫族の子供たちも育ち盛りでたくさん食べるでしょうし………。まあ、いざとなれば、ウオッカさんの分を減らしますが…」
「街まではまだ時間がかかる。明日の朝、私が魚を取ろうか?」
「えっ!?シーザリオ様が釣りをするのですか?言いにくいのですが…釣りで何匹か釣ったところで、なんとも…」
「ふふふっ、釣りなんかしないわよ。水中に衝撃波を放ち、ここら辺の魚を気絶させ一網打尽にするのよ」
「…確かに、それは凄いですね。ハヤト様のマジックバックに入れておけば保存もできますし…シーザリオ様、お願いいたします」
「任せなさい!!アレグリア、手伝ってもらうわよ」
「はい!!でも…私はなにをすればいいんですか?」
「私が気絶させた魚が流れてくるから、下流で捕まえるだけよ」
「それなら私にもできそうです。どうせ一杯食べると思うんで、ウオッカさんにも手伝ってもらいますよ」
「では、シーザリオ様とアレグリアさん、お願いします。なるべく大量の魚を捕まえてくれると助かります」
「任せなさい!!」
私はお礼を言ってテントへと戻っていくのでした。




