第112話 クロカゲ変化!!
アレグリアが黒影猫族の女の子を前に腕組みをして、ポージングを考えている。
「閃いたわ!!ク・ロ・カ・ゲーーー変化!!」
アレグリアが指を絡ませ、顔の近くで可愛らしく動かしながら、後ろを向く。そして、尻尾を強調するようにお尻を突き出した。
「さあ、やってみて!!」
「私がそれをやるんですか!?」
「そうよ!!これが私の考える変化のポージング。ほら、一緒にやってあげるから、真似をして!!クロカゲ変化!!」
アレグリアが何の恥じらいも無く、自分の考えたヘンテコな変化のポージングを繰り返している。
女の子がストームさんに助けを求めるような視線を送る。
「リバティ、そのお嬢さんの言う通りにしなさい」
「お、お父さん………」
その女の子は、どうやらリバティという名前で、ストームさんの娘さんのようだった。リバティは渋々ながらも、アレグリアに言われた通りのポージングを行う。
「リバティ、私はアレグリア。恥ずかしがってはダメよ。最初は笑顔で猫手を顔のあたりで組みながら動かして…。そう、可愛くお願いをするみたいに!!そうしたら後ろを向いて振り向きながら…、そうね。変化の時、尻尾を強調したいから、お尻を突き出して。その時、挑発するような顔つきをするのよ。はい、一緒に!!」
『クロカゲーーー変化!!クロカゲーーー変化!!クロカゲーーー変化!!』
最初は恥ずかしがっていたリバティだったが、数回ポージングを繰り返すうちに開き直ったようだった。ほぼヤケクソなのだろうが、キレッキレのポージングを披露する。
「いいわよ、リバティ!!最高だわ!!さあ、みんなも!!」
リバティの動きに満足したのか、アレグリアは黒影猫族の子供たちを狩り出して、強引に自分が考えたポージングを行わせていた。
「ストームさん、すみません」
「いえ、ポーションを飲み、食事も腹一杯食べましたから、大丈夫でしょう」
俺とストームさんは顔を見合わせ苦笑いをするのであった。
「あんな即席のへんてこポーズでロストスキルが蘇るのなら、誰も苦労しないわよね」
シーザリオが半笑いで言う。
「本当に娘がすみません」
ジュリアが顔を真っ赤にして、ストームさんに謝る。
「い、いえ。子供らしくていいじゃないですか…」
ストームさんは戸惑いながらも、大人の対応をする。
意外に楽しそうにクロカゲ変化のポージングをする子供たち。ふっと気づくと、アパパネとブエナも好奇心が刺激されたのだろうか、黒影猫族の子供たちに交じって、楽しそうにポージングをとっている。
「どう?シーザリオたちもやってみれば?」
『遠慮します!!』
大人は好奇心より羞恥心のほうが強いようだ。断固拒否、そんな強い意思を感じる表情で、シーザリオやジュリアは即答した。
(まあ、そうなるよね。俺もやりたくないし…無理強いはしないよ)
俺たちは苦笑いをしながら、子供たちの無邪気な姿を眺める。
しかし、腕組みをしながら、鬼教官のごとく見つめているアレグリア。
「なんで変化をしないんだろう?」
そんな事を真剣に呟いていた。
そして…
「分かったわ!!リバティ、最後の変化!!のところで、指を組み合わせて逆向きに伸ばして!!そう、いいわ。素晴らしい、ファンタスティック!!」
興奮気味のアレグリア。自らもリバティと並んでポージングを決める。
俺とシーザリオは顔を見合わせる。
「もうそろそろ、アレグリアをとめ…とめ、えええぇ~~~!?変化した!!」
シーザリオが目を見開き叫んだ。
俺は半笑いで振り返りながら『ふっ、シーザリオ、あんなポージングで変化をするものか…て、変化しとる!!』と叫び、思わず立ち上がった。
黒影猫族の子供たちが煙に巻かれ、次々に子猫に変化している。
「リバティ、やったわね!!」
アレグリアは子猫リバティを抱きかかえ、頬ずりをする。
これにはアパパネもブエナも大喜びしている。今の今まで冷ややかな視線で見つめていたシーザリオも大喜びで子猫を抱きかかえに行ってしまった。ジュリアやメサイア、それにリスグラシューとファレノプシスとウオッカも加わり、子猫を抱きかかえてのモフモフ祭りが開催される。
子猫リバティを抱きかかえたアレグリアがやって来た。
明らかに褒めてほしそうな顔をしている。
「アレグリア、凄いな。ビックリした!!」
「でしょう?でも、一番ビックリしているのは私だったりして!!」
謙遜しながらもドヤ顔が隠せないアレグリア。可愛い。
しかし『ニヤッ』と笑みを浮かべ、ストームさんたちを見る。
「さあ、皆さんも私の考えた変化のポーズをしてください!!」
こう言い放ったアレグリアは、黒影猫族の美熟女の手を取る。
「わ、私が今のポーズを!?」
女性が困惑した顔つきでアレグリアの指導の下、ポージングの練習を開始する。
「さあ、あなたたちも!!」
アレグリアの言葉を聞いて、大人の女性たちが渋々ながら、ポージングの練習を開始した。
(うおっ!!美熟女が恥ずかしながらお尻を『プリンッ』と突き出し、尻尾を強調する姿がたまらん!!あっ!?でも、この美熟女はストームさんの奥さんのラキシスさんだった)
俺は一瞬、ラキシスさんのお尻に目を奪われるが、何とか平静を取り戻す。
しばらくすると、次々と変化に成功し、残るはストームさんたち、おっさん連中だけになる。
そして黒影猫族のおっさん連中が『俺たちもあのポーズをしなければならんのか!?』的な顔をしていた。
俺はそんなストームさんたちを半笑いで見ている。
(俺も中身はおっさん。気持ちは分かるよ!!)
余裕をかましていたが、なぜかアレグリアが俺の手を引っ張る。
「ストームさんたちだけでは気まずいんで、ハヤトも一緒にやってよ!!」
「お、おれも!?俺、変化できないじゃん!!」
「いいから!!これも人助けのうちよ!!」
俺は『くそ~、アレグリア。可愛い顔をして頼んで…。そんな顔で頼まれたら断れないじゃん』と、半ばやけくそでポージングを行う。
「ハヤト、いいじゃない!!お尻のラインが素敵よ!!クロカゲ変化、クロカゲ変化、クロカゲ変化。いいわよ、その調子!!」
俺につられ、ストームさんたちもやけくそでポージングを開始する。
完全に日は落ち、夜の闇の中。
おっさん連中がかがり火に照らされ、お尻を『プリンッ』と強調させた変化のポージングを、練習し続けるのであった。
【リスグラシュー視点】
「シーザリオ様、少しお話があります」
「うむっ」
私が話しかけると、シーザリオ様は『待っていました』という顔をして頷いた。
「単刀直入に聞きます。シーザリオ島をハヤト様の拠点にする事はできませんか?」
シーザリオ様がニヤリッと笑う。
「ふふふっ、現状では難しいと言わざるを得ません…が、可能性はあります!!島はおそろしく広い。だが現状は人間が安心して住める土地が少ない。開発は必至ですが、森を切り開ければ土地は無尽蔵、いくらでも手に入ります。ただ…」
「魔物、魔獣ですか…」
「うむっ、多少は私の力で何とかなるとは思いますが、ハヤト様とTCLの力を活用したとしても、容易ではないわね」
「…戦力不足。人材が足りませんか」
私とシーザリオ様はしばらく考え込む。
「リスグラシュー、あなたの考えには賛同しますが、少し焦り過ぎだという事は否定できない。現実的な考えとして、黒影猫族を住まわせ、森の中の地形、様子を探らせるという事から始めるしかないでしょう」
「確かに…。シーザリオ様も森の中の状態は把握できてはいないのですよね?」
「まあ、浅い部分はある程度は分かっている…が、その浅い部分にしても、一筋縄ではいかない感じよ」
「…思い通りに進まず、歯がゆいです」
「あぁ、ただし黒影猫族との出会いは間違いなく大きい成果だと言える。まだ旅は始まったばかり。王都へ行き、エアディドール領まで足を延ばせば、まだまだ人材が見つかるかもしれないわ」
「…そうですね」
シーザリオ様の視線が鋭くなり、体を寄せてきた。
そして声を潜めて言う。
「リスグラシュー、あなたは『黒影猫族の事はお任せください』とハヤト様に言っていましたが…、それは『斥候や偵察、捜索などや、………裏の仕事はわたしが引き受ける』…そう解釈してもいいのかしら…」
「構いません」
私が躊躇なく言い切ると、シーザリオ様は驚いた顔をする。
「ハヤト様のために謀略を企てる事を惜しみません。私はハヤト様をこの世界の覇王にしたいと考えているのです」
「覇王…か。そのためなら、リスグラシュー、自分が全ての汚れ役を引き受けるという事か…」
「シーザリオ様も王家筆頭魔術師として、様々な汚い部分をご存じだと思います。私はその汚い部分を全て引き受けようと思っているのです」
「しかし、あなたがどんなにハヤト様に貢献しても、決して日が当たる事はない。私やメサイアが戦で目に見える活躍をして称賛され、アレグリアたちがS級冒険者になって世間から称賛されても、あなたは誰からも称賛される事はないわ。それでもいいの?」
「ふふふっ、構いません。私は暗い闇の中で生きていきます。私の願いはただ一つ。この世界をハヤト様のものにする事。それが私の幸せなのです」
「分かったわ。あなたに任せましょう。私も出来得る限り、協力は惜しみません。なにかあったら、今日のように相談しなさい」
「ありがとうございます」
私とシーザリオ様は最後にお互いの視線を合わせる事で確認をし、何事も無かったかのように席に戻るのでした。




