第110話 黒影猫族の才能
ポーションを飲んで一息ついたところで、食事が出来上がる。アパパネが流れるような華麗な動きをして、ブエナも慣れないながらも一生懸命に配膳をしていく。
美味しそうな香りが漂い、食欲をそそる。
黒影猫族の子供たちなど、自分たちの前に置かれた食べ物しか目に入らないようだった。
(凄いな。この状況で誰一人として食事に手を出す子供がいない。でも、この状況で待たせるのは忍びない)
俺はそう思い『話は食事を食べてからにしましょう。遠慮しないで食べてほしい』と、黒影猫族のみんなに言う。
「ハヤト殿、感謝する。みんな、頂こう!!」
『ありがとうございます!!』
ストームさんに続き、黒影猫族の全員が食事を始める。小柄な体つきで、猫耳が『ピョコピョコ』と動き、尻尾を振る姿が可愛らしい。
俺はほっこりした気持ちになるが、一応、全員を鑑定する。
(ふふふっ、今は目の前の食事が美味しい。ただそれだけか…)
俺は黒影猫一族を見つめながら思う。
「さあ、俺たちも頂こうか!!」
俺はみんなにそう言い、ベガにいる時と変わりない食事を頂く。
「美味い、美味すぎる!!大勢でキャンプをして、野外で食べる食事は別格だね」
俺は前世の子供の時の遠い記憶を思い出しながら言う。
「確かに絶品です…が、この世界でこれは異常です。私は大丈夫ですが、アレグリアとウオッカは勘違いをしてはいけません。通常、冒険者の食事は悲惨ですからね」
ファレノプシスが釘をさす。
「分かってますよ。でも、やっぱりハヤトがパーティーに入ってくれると嬉しいな!!魔法の制御もできるようになったんだし、実力的には問題ないんじゃないかしら…ウオッカさんもそう思うでしょ?」
「思う、思う。おまけにリスグラシューも加入してくれたら…いつでも、どこでも美味しい食事が頂ける。控えめに言って、最高かよ!!」
アレグリアとウオッカが意気投合して、俺のほうを見る。
「あなたたち、浮かれすぎ。冒険者を舐めるんじゃない!!そんな浮かれた気持ちでいたら、命がいくつあっても足りないわよ。どんな過酷な状況でも受け入れるという覚悟を持ちなさい!!」
『………はい』
ファレノプシスに一喝されるアレグリアとウオッカ。まだまだ冒険者としては三流で、間違いなくFランクの冒険者の思考であった。
「まあ、俺は冒険者になるつもりは無いけど、料理の才能があり、なおかつ冒険者としての強さを兼ね備えた人材がいたら報告するから…それで勘弁してくれ」
「ハヤト様………申し訳ありません。リーダーとして、後で二人に言い聞かせておきますから…」
ファレノプシスが二人を睨みつけるが、アレグリアとウオッカは知らぬ顔をして、夢中で食事をしているのであった。
「人材といえば、この者たちの気配の消し方。ただ者ではないと感じましたけど、やはりそのような才能を持っているのですか?」
黒影猫族たちを見渡しながらシーザリオが聞いてきた。
俺は一人一人の鑑定結果を確認する。
「一言で言って隠密。気配を消して行動する事に才能が特化しているようだよ。総じて隠密、斥候、偵察、捜索の数値が高い。ただし、戦闘力はそれほど高くは無いかな」
「隠密、斥候、偵察、捜索!!」
俺のつぶやきに、今、席に着いたばかりのリスグラシューがすぐに立ち上がり、大きな声を出して反応した。
「どうしたの?」
俺は驚いてリスグラシューの顔を見る。
「い、いえ…何でもありません」
「???」
リスグラシューは慌てて、何事も無かったかのように、食事を取り始めた。
「ふうううう~!!」
ストームさんがスープの入った器をテーブルに置き一息ついた。俺は『もうそろそろ、しゃべりかけても良いかな』と思い、声をかける。
「ストームさん、どうですか?うちの天才料理人の作った食事の味は?」
「今までに食べた事の無いほどの美味でした!!このような食事を旅の途中で用意できるなんて、ハヤト殿、いえ、ハヤト様は失礼ですけど…この国の貴族様なのでしょうか?」
ストームさんの言葉を聞いてシーザリオとメサイア、特にリスグラシューが含みのある笑顔になる。
「いやいやいや、貴族じゃないですよ!!ただの商人?です」
「商人!?魔法を使え、立派な馬車を持ち、旅先でこんな美味しい料理を用意できる。それに…」
一度ストームさんは女性陣を見渡しながら『こんなに大勢の美しい奥様を連れておられる』と続けた。
『奥様!!!!!』
全員が反応し、立ち上がった。
「ハヤト、この人たちが安心して暮せる土地を探してあげましょう!!」
アレグリアが力強く言う。
「アパパネ、ブエナ。スープのお替りを!!」
『当然です。いっぱい食べて、早く体力を取り戻してください!!』
リスグラシューが指示し、三人で空になった器にスープを注いでいく。
ファレノプシスが『私みたいなガサツな冒険者が、奥様なんて言われる日が来るなんて…』と涙ぐめば、『少し前まで、奴隷のような扱いをされていたのに…奥様と呼ばれるだなんて!!』とウオッカが感動している。
「ふふふっ、私も初めて奥様と呼ばれた時の事を思い出すわ。嬉しいんだけど、なんだか妙に恥ずかしかったような記憶があるわね」
奥様と呼ばれ、浮足立つアレグリアたちを優しい眼差しで見つめるジュリア。
「この者たちを、放っておくわけにはいかない。何とか力になれないものか…」
「そうですね。いったん落ち着くまで、私の領地で休息を取る事を勧めよう」
「それは妙案です」
「うむっ、王都まで一緒に行き、そこから手紙を持たせ、先に私の領地へ向かってもらいましょう。地理的に王都からエアディドール、そして私の領地であるシーザリオ島へ渡れば都合も良い」
メサイアとシーザリオが勝手に話を進める。
「ストーム殿、私の領地で休息を取り、今後の身の振り方をゆっくり考える事をお勧めする。ここから少し離れてはいるが、領民も少ないし落ち着くだろう」
勝手に話が進み、戸惑い気味のストームさん。目をパチクリさせている。
「大変ありがたいのですが、難しいかもしれません。私たち猫人族は、昼間は森の中で寝て、夜に活動をするという夜行性なのです。街での生活には、すぐには順応できない可能性が高いと思います」
「はははっ、心配いりませんよ。私の領地は島なのです。とても大きな島なのですが、そのほとんどが森で覆われています。普通の人間の住める土地は少なく、領民も100人程度。安心してもらって構いません」
「本当ですか!!それではお言葉に甘えさせて頂きます」
「礼には及びません。ハヤト様の妻として当然の事をしたまで。ゆるりと休まれるがよい」
『ハヤト様、ありがとうございます!!』
なぜか黒影猫族の皆さんが、俺に向かって頭を下げるのだった。
【リスグラシュー視点】
(ふう~、こんなに大勢の食事を一気に作った事がありませんでしたが、なんとかなりましたね)
私は一息つきながら席へ着く。
すると…
「一言で言って隠密。気配を消して行動する事に才能が特化しているようだよ。総じて隠密、斥候、偵察、捜索の数値が高い。ただし、戦闘力はそれほど高くは無いかな」
そんなハヤト様の声が聞こえてきた。
私は思わず『隠密、斥候、偵察、捜索!!』と叫び、立ち上がってしまう。
ハヤト様が『どうしたの?』と、心配した顔をして私を見つめた。
「なんでもありません。失礼いたしました」
私はすぐに何事も無かったかのように食事を取る。
(これは偶然でしょうか?いえ、必然?それとも………天の導き!?そうだわ!!これは天の導きよ!!使徒であるハヤト様の意思により、この者たちはこの地に導かれた。そうよ!!これも私と同じく、初めから定められた運命の出会いなのです)
思わず笑みがこぼれそうになり、手で口を覆い隠す。そして、美味しそうに私の作った料理を食べるハヤト様を見つめる。
(何も言わずとも、このリスグラシューにお任せください。ハヤト様の意思は完全に理解しました。この者たちを配下に取り込んで、強力な隠密部隊を作り上げて見せます)
私は目を細めながら口かどをあげる。
しかしこの時、ストーム殿より『こんなに大勢の美しい奥様を連れておられる』という発言が…。
一気に浮足立つ私たち。
「アパパネ、ブエナ。スープのお替りを!!」
私は思わず反応して、アパパネとブエナに指示を出す。
そして、あれよあれよという間に、シーザリオ様の領地に滞在する事に…。
私は一息ついて考える。
(んっ!?今のは…もしかして…計略?私たちを奥様と呼んで喜ばせ、自分たちの有利な方向に話を持っていく情報操作!?まさか!!私たちはこの者たちに踊らされてた!?)
私は再び口かどを上げる。
(私たちを手玉に取る手法、お見事です。この先、ハヤト様を支えていくに充分な能力の持ち主だと理解しました。あとは、シーザリオ様とメサイア様と相談して、今後の方針を決める事としましょう)
私の旅の目的は人材の確保。
早くも大きな成果をもたらし、私は一人、ほくそ笑むのでした。




