第109話 土下座はやめてくれ
「ぷっ…殺し屋!!確かに!!堅気の人からしてみれば、確かにそう見えても仕方が無いわね!!」
「でも………殺し屋とは…うふっ、ジュリアさんも毒舌ですね。うふふふっ!!」
殺し屋と言われ固まっているTCLの三人を見て、シーザリオとメサイアがご機嫌で言う。二人は明らかに笑いをかみ殺している、そんな楽し気な表情をしていた。
「シーザリオ様とメサイア様も、この人たちを脅していたじゃないですか!!二人とも、充分に怖かったですよ!!」
アレグリアが抗議をするが、シーザリオとメサイアは『そんな事ありましたっけ?』と知らぬ顔をする。
「ぐぬぬぬっ」
アレグリアはそんな二人に何も言えなくなる。
「確かに…俺も他人として道で出会ったら、目を背けて関らないようにすると思う。実際、冒険者ギルドに一緒に行った時、街の人から避けられていたしね」
「ハ、ハヤトまで!?ちょっとひど過ぎじゃない!!」
俺が思わずそんな事を口にすると、アレグリアが口を尖らせる。
「まあ、ジュリア。確かに実の娘に、殺し屋はちょっとどうかと…」
「普通の人間から見たら、冒険者なんてそんなものよ。アレグリア、この人たちを見ていたら、お連れの女性や子供たちの状態が心配です。ごちゃごちゃ言ってないで、早く行きますよ!!」
ジュリアはそう言い、川沿いを上流に向かって歩いて行く。
「お、お母さん、一人で行かないでよ。危ないわよ!!」
アレグリアはそう言って、ファレノプシスとウオッカと共に、ジュリアを追いかける。
「リスグラシュー、食事の準備を再開してくれ。できれば、体に優しい食べ物も用意して欲しい。ジュリアが抜けてしまったけど大丈夫か?」
「お任せください!!アパパネとブエナ、手伝って!!」
『はい!!』
リスグラシューはアパパネとブエナに指示し、食事の準備を再開する。
「ふふふっ、まあ、安心をしてください。悪い様にはしませんよ。ストームさん!!」
「!?………な、なぜ、俺の名を!?」
自分の名前を言われ、驚きを隠せないストームさん。
俺はそんなストームさんたちを恐がらせないように微笑みながら『ディスクリートさんも、タバスコさんも安心してください。あなたたちの奥さんや子供さんに、危害を加えるつもりはありません』と言う。
「君は…一体!?何者なんだ?なぜ、俺たちの名前を………」
ストームさんたちは、驚きと困惑の表情で俺を見ている。
「俺は異世界から転移して来た人間。要するに、異世界人というやつなんだ。あと、鑑定スキルを持っているので、申し訳ないとは思ったんだけど、ストームさんたちを鑑定させてもらった。大丈夫、悪意が無かった事は分かっています。シーザリオ、魔法を解いてあげてくれ」
「あなたたち、ハヤト様に感謝しなさい!!」
シーザリオはそう言うと、ストームさんたちを水魔法の拘束から完全に解き放った。
「本当に…申し訳なかった!!」
拘束から解き放たれたストームさんたちは再び土下座をする。
「土下座はやめてくれ。そういうのは好きじゃないんだ。楽にしてほしい」
俺はそう言うと、マジックバックからテーブルと椅子を取り出す。
目が点になるストームさんたちが面白い。
「俺たちを含めると38人か、一組では足りないね」
俺は次々とマジックバックからテーブルと椅子を取り出し並べていく。
『あわわわ…本当に君は…何者!?』
まるでバケモノでも見るかのような視線で、俺を見つめるストームさんたち。
「えっ!?何でストームさんたちはそんなに驚いてるの?」
俺はシーザリオとメサイアに聞く。
「マジックバッグが非常にレアなもの、なのですが…それに加えて、容量がおかしいんですよ。いえ、おかしすぎるのです!!普通、こんな大きなテーブルを何個も入れれないんですよ!!」
「しかもその中には、まだ全員の荷物が入っているという………非常識さ…」
「二人とも、俺がおかしな人みたいに言わないでくれ。マリア様が常識というものを知らなすぎるんだよ」
俺はシーザリオとメサイアに反論をする。
「マジックバッグだけではありません。とんでもない威力の火魔法を放ちながら、平然としている魔力量………人外です」
「相手の全てを知る事ができる鑑定スキル………人外です」
「じ、人外…いやいやいや、俺は常識人だし、普通の人間だよ!!」
『普通の人間はエリクサーを作れませんよ!!』
「……………」
俺は普通の人間をアピールするが、完全否定をされる。
しかし、シーザリオとメサイアは『そんなハヤト様にお使いできる事が、嬉しくて仕方がありません!!全員、ハヤト様を心からお慕いしています』と言い、俺を見つめる。
「…少しズルくないかな。二人にそんな事を言われたら、怒るに怒れないじゃないか」
俺はボヤキながらポーションを取り出す。
「病気ではなさそうだから、疲れを取るだけでいいよね」
俺がポーションを水で薄めていると、ジュリアたちが黒影猫族の女性と子供を引き連れて戻ってきた。
「お前たち!!」
「あなた!!」
『父上!!』
ストームさんが奥さんと子供たちを抱きしめる。ディスクリートさんもタバスコさんも同様だ。しかし、全員かなり疲労が溜まっていて、見るからにやせ細っていた。
「とりあえず、座ってこのポーションを飲んでください」
俺は小分けにしたポーションをテーブルの上に置く。
やや緊張気味の奥さんや子供たちに向かって、ストームさんたちは『この人たちは大丈夫』と頷く。
全員席に着くと、ストームさんがポーションを飲む。それを見て、全員がポーションを口にする。たちまち顔から悲壮感や疲労感が消えて一息を付く。
「ありがとう、本当にありがとう!!」
全員を代表してストームさんが涙を流しながら、感謝の言葉を口にしたのだった。
【アレグリア視点】
「みんな、川を少しのぼった所に、この人たちの仲間がいる。今から行って、連れてきてくれないか?」
「TCLの三人、頼めるか?私とメサイアは、この三人を見張っている」
ハヤトの言葉を受け、シーザリオ様がリーダーに向かって言った。
リーダーのファレノプシスさんを先頭にして、私たち三人は川の上流へと歩いて行こうとする。
(この人たちの家族をここまで連れてくる。うふふふっ、これもTCLとしての立派なお仕事ね!!)
私は冒険者として仕事をこなしている感覚がして嬉しかった。
(黒影猫族の皆さんの安全を確保し、ここまで連れてくる。簡単な仕事と思えるが、夜の森の中は危険がある。魔物や魔獣、獣の襲撃も考えられる。油断はできない)
私は気を引き締め、愛槍を握り締める手に力を入れる。
しかし…『三人とも、待ちなさい!!私も連れて行って!!』と、後ろから声を掛けられた。
「お母さん!?」
私は驚きのあまり、思わず声を上げた。
(まったく…これだから素人は………、夜の森にどれだけの危険が潜んでいるのか、全然分かってない)
やれやれ、私はこちらに歩いてくるお母さんを見ながら思う。少しだけ、上から目線で…。
「どうしてお母さんまで?相手は女性と子供だけで危険では無いらしいけど、もう日が暮れて森の中は暗くて危ないわよ」
私はお母さんに諭すように言う。
しかし…
「女性といえ、全員が眼帯をして武装までしている。あなたたちの見た目が殺し屋みたいなのよ!!恐がられるに決まっているじゃない!!」
お母さんはそう言い放った。
私は『殺し屋!?私たちが殺し屋………に見える…』と、思わず声を出し、愕然とする。
驚いた事に、ハヤトまで同意している。
シーザリオ様とメサイア様は、明らかに笑いをかみ殺したような顔をしている。自分たちもさんざん脅していたくせに!!……少しムカつく。
お母さんが一人で歩いて行ってしまうので、私たちは慌てて後を追う。
「黒影猫族の皆さんがあなたたちを見て『夫たちは殺されてしまった。私たちも殺されるか、捕まえられて売られてしまう。そんな事になるんだったら…』と考えて、川にでも飛び込んでしまったら、どうするつもり?」
森の暗闇を歩きながら、お母さんが言う。
「私たちは清く正しく、美しすぎる冒険者パーティーなのよ!!」
私の反論にファレノプシスさんとウオッカさんも同意するが、お母さんは見事なまでのスルーを決める。
「黒影猫族の皆さんがいました。隠れていたらどうしようかと思ってたけど…良かったわ」
お母さんの言葉を聞いて、私は思わず駆け出した。
(私たちが来たからには大丈夫!!今頃、リスグラシューが美味しい料理を作ってくれているはずよ!!)
私は笑顔で黒影猫族の皆さんの元に…
しかし…
「私たちはどうなっても構いません。どうか、どうか子供たちの命だけはお助け下さい」
「うわあああ~ん。殺し屋がきた。私たち殺されちゃう!!」
「恐いよ、恐いよ。殺し屋が笑ってる」
「一人ずつ、あの女の殺し屋に、笑いながら槍で串刺しにされてしまうんだわ」
黒影猫族の皆さんの反応に焦る私、思わず『違う、違う。殺し屋ではない!!』と言い、愛槍を一振りすると、自分でも驚くくらいの音が出てしまい、さらに黒影猫族の皆さんを恐怖のどん底まで叩き落してしまう。
愕然とする私の肩にお母さんが優しく手を添えてきた。
「どう?わかったでしょ?この場は私に任せなさい!!」
「………はい。よろしくどうぞ、お任せいたします」
私はそう言い、ガックリとうなだれてしまうのでした。




