第108話 黒影猫族のストーム
「ハヤト、安心して!!私たちが守ってあげるからね!!」
「…アレグリア、ありがとう。アレグリアも気づいてたのか?」
「いいえ!!全く!!」
俺はコケそうになるが、アレグリアは槍を強く握りしめている。『いつでもかかって来なさい!!』そんな頼もしい表情をしていた。今はバリアも使えるし、守ってもらう必要はないんだけれど、俺はアレグリアの心意気を嬉しく思った。
「私も全然、怪しい気配なんて感じないよ」
ウオッカが周りを見渡しながら言う。
「残念ですが…私もシーザリオ様とメサイア様に教えてもらわなければ、気づけませんでした」
ファレノプシスは悔しそうに唇をかみしめて言った。
日が暮れ、周りが暗闇に包まれていく。頼りはかまどの火と四方に置いた、かがり火だけ。
「すぐ近くまで来ています。敵は………三人」
「どうする?」
「拘束します」
「でも見えないぞ?」
「ふふふっ、問題ありません。敵は気配を消す事に特化していて、戦闘力はあまりない様子。TCLの良い経験になる事でしょう。ハヤト様、私が合図をしたら、ド派手な火魔法を夜空に向けて放っていただけますか。その明かりを頼りに、私が魔法を放ち敵を拘束します。メサイアとファレノプシス、そしてアレグリアは、私が拘束した敵の相手をお願い。抵抗するようなら、少しくらい可愛がってあげても構わないわよ。ウオッカは万が一のために、ジュリアさんたちを守って下さい」
『了解!!』
ウオッカが食事の用意をしているジュリアたちに近づき事情を説明する。一時的に食事の用意を中断してウオッカに守られる。
メサイアとファレノプシス、そしてアレグリアが、シーザリオの指示した位置に移動する。
俺は自分の手のひらを見つめながら、魔力を溜める。
そして…
「ハヤト様!!お願いします!!」
シーザリオが俺に向かって大声で叫んだ!!
「よし!!ド派手な打ち上げ花火を上げてやるよ!!」
俺は夜空に向けて、火魔法を放った。
凄まじい爆音とともに、一瞬、周りが炎による明かりに照らされた。
「そこかっ!!」
シーザリオが敵の姿を確認して、水魔法を放つ。
水の塊が空中で輪に変形し、敵の体を締め上げた。
「メサイアとファレノプシス、それにアレグリア。捕らえろ!!」
三人が大慌てで逃げようとする敵を難なく捕らえた。
俺の前に拘束された三人が連れてこられた。幸いなことに、激しい抵抗もせずに大人しく拘束されている。
「猫耳…尻尾!?獣人ってやつか!!」
俺は初めて見る獣人に興奮するが、リーダー的存在らしき獣人を素早く鑑定する。
(なるほど…黒影猫族のストームさんか。何々、黒影猫族が暮していた土地が酷い飢饉に襲われ、一族を引き連れて新しい土地を捜している途中という事らしいな。しかし、なかなか安心して暮らせる土地が見つからず、お金も食料も底をつき、仕方なく飢えをしのぐために、俺たちから食料を奪おうとしたわけか…。背に腹は代えられないという事だけど、さて…どうしたものか?)
俺は目の前でぐったりとうなだれているストームさんを見て考える。
(理由が理由だけに、素直に謝ってくれれば、許して力になってあげたいんだけど…)
俺がそう思って考えていると、メサイアがストームさんの首に剣を当てる。
「何が目的なの?素直に答えなさい。素直に答えたら、命だけは助けてやらないでもないわよ。そうね…腕一本くらいで勘弁してあげるわよ!!」
ドスの利いた声で尋問するメサイア。無茶苦茶恐い。
シーザリオも魔力を強め、体を締め付ける強度を増していく。
「ぐあああっ、す、すまない…と、思っている。だが…仕方が無かったのだ」
ストームさんが苦痛で顔を歪ませる。
「シーザリオ、メサイア。やめてくれないか。この人たちは、すでに逃げる体力すら残ってはいない。最後の力を振り絞って、俺たちから食料を奪おうとしたみたいだから…。魔法で拘束しなくても逃げやしない」
俺の言葉を聞いて、シーザリオは魔法を緩め、メサイアは剣を鞘に納める。
黒影猫族の三人はぐったりとうなだれる。
「せ、責任は俺にある。俺は殺されてもいい。だが、この二人は助けてほしい。この二人までいなくなったら、一族は………頼む!!」
最後の力を振り絞り、俺に向かって懇願するストームさんの姿が痛々しい。
俺は心を痛め、素直に『助けてあげたい!!』と思った。
そして…
(もし鑑定スキルが使えなかったら、この人たちをただの盗賊として殺さなければならなかった)
俺は鑑定スキルを使える事に感謝する。
「みんな、川を少しのぼった所に、この人たちの仲間がいる。今から行って、連れてきてくれないか?」
「ま、待ってくれ!!俺たち以外は女、子供しかいない。助けてくれ!!お願いだ、お願いします!!」
俺の言葉を聞き、ストームさんは土下座をして、額を地面に擦り付ける。
「TCLの三人、頼めるか?私とメサイアは、この三人を見張っている」
シーザリオがファレノプシスに向かって言う。
「ファレノプシス、相手は抵抗する気力もないと思うから、あまり恐がらせないでくれよ」
「ハヤト様、お任せください!!アレグリア、ウオッカ。行くわよ!!」
ファレノプシスがアレグリアとウオッカを従えて、川の上流へと向かおうとする。
「待ってくれ、待ってくれ!!子供たちに罪はない。見逃してくれ!!」
ストームさんは地面に這いつくばり、涙を流しながらファレノプシスたちの背に向かって叫ぶのだった。
すると…
「三人とも、待ちなさい!!私も連れて行って!!」
「お母さん!?」
ジュリアの言葉にアレグリアが驚く。
「どうしてお母さんまで?相手は女性と子供だけで危険では無いらしいけど、もう日が暮れて森の中は暗くて危ないわよ」
困惑するアレグリアたちにジュリアは…
「女性といえ、全員が眼帯をして武装までしている。あなたたちの見た目が殺し屋みたいなのよ!!恐がられるに決まっているじゃない!!」
そう大声で言い放った.。
『こ、殺し屋!?………私たちが殺し屋…』
アレグリアとファレノプシス、それにウオッカは、ジュリアの言葉を聞いて絶句してしまうのであった。
【ストーム視点】
俺たちは最後の力を振り絞る。
気配を完全に消し去り、川のほとりで野営の準備をしている旅人たちに近づく。
(旅人は絶対に傷つけるなよ。少しだけ…ほんの少しだけ食料を分けてもらうだけだからな)
俺は仲間二人に目くばせをする。
二人が頷く。
(女が九人で、男が一人か…。食料は持っているだろうが………、冒険者が三人に剣を携えた者が一人。おまけに…あれは魔法使いか!?かなり厄介な相手だが…もう俺たちには時間的猶予はない)
俺たち三人は覚悟を決め、さらに旅人たちとの距離を縮める。
(俺が囮になる。お前たち二人はその間に子供を一人ずつ人質にとれ。だが、絶対に傷つけるなよ。万が一、俺がやられても無視してかまわない。食料のほうを優先しろ。頼むぞ!!)
俺は死を覚悟する。
動き出そうとした瞬間…
「ハヤト様!!お願いします!!」
魔法使いの女が大きな声で叫んだ。
(見つかったのか!?)
俺たちは顔を見合わせる…が、次の瞬間、とてつもない威力の火魔法が夜空に放たれた。
短時間だが昼間のような明るさになり、俺たちの姿が光に照らされる。
俺は茫然となり、一瞬、立ち尽くしてしまった。
「そこかっ!!」
魔法使いの声が聞こえ正気を取り戻すが、俺たちは簡単に魔法で拘束されてしまう。
目の前に少女が現れ、俺に向かって槍を突き付ける。
「大人しくしていれば、とりあえずは、手荒な真似をする気はないわ。まあ、あなた達次第だけどね」
少女は鋭い眼光を向け、言い放った。
(こんなバケモノたちだったとは………みんな、すまん)
俺は気力も体力も希望も…何もかも失い、絶望したのであった。




