第107話 野営の準備
「腰が痛い、お尻が痛い」
「気持ちは分かります。ですが、これでも普通の馬車よりは、随分と衝撃は抑えられているのですよ」
一時間ほど馬車に揺られ、俺は思わず愚痴のような感想を漏らす。
「本当?」
メサイアの言う事が信じられず、俺はみんなに聞いてみた。
「メサイアの言う事に嘘、偽りはありませんよ。このクラスの馬車は、上位の貴族しか所有していません。超高級大型馬車と言って過言ではありません」
リスグラシューやアレグリアが『うんうん』と頷いている。
「ハヤト君、私も今までに何回も馬車に乗った事があるけど、驚きの乗り心地よ!!。庶民が乗る馬車と『ここまでの差があるのか!!』と、信じられないくらい。もの凄く快適だわ!!」
ジュリアがそう力説する。
「そ、そうなのか…」
俺はジュリアの話を聞いて何も言えなくなる。
「ハヤト様は馬車での移動に慣れていない様子。通常より休憩を多く取る事にしますよ」
メサイアが俺に気を使ってくれた。
「あっ、ちょっと待って!!」
俺は自分で作ったポーションを取り出し『グイッ』と一口飲む。嘘のように腰とお尻の痛みが無くなった。
「このポーション最高です。一瞬で痛みが無くなりました!!」
俺はCMのようにして、ポーションの入っている瓶を見せながら、爽やかな笑顔を作って言ってみた。
すると…
『私にもください!!』
全員が声を揃えて言ってきた。
(なんだ。みんなも腰やお尻が痛かったんだね)
俺は苦笑しながらポーションを配っていった。
「一瞬で痛みが無くなりました!!」
「もう、手放せません!!」
「驚きの効果です!!」
「でも、お高いんでしょう?」
俺が『テレビショッピングかな?』と錯覚するくらいに絶賛の嵐。
「ハヤト様、ありがとうございます。これで休憩時間を削って走れます。王都までの移動時間も短縮できます」
メサイアのいう通り、休憩の時間を削って移動する。
しかし、残念ながら今日は野営をする事になった。俺たちは川の近くで適当な場所を見つけ準備を始める。
俺のマジックバックからテントや調理器具を取り出す。
シーザリオとメサイアとファレノプシス、それにアレグリアがテントの設営。ジュリアとリスグラシューとアパパネ、それにブエナが夕食の準備。そしてウオッカが馬の世話をする。
俺も大きい鍋で川から水を運んだり、薪を捜す。
「ハヤト様、お願いします」
リスグラシューが俺に声をかける。
俺はリスグラシューが石を積んで作ったかまどに火を付ける。
「ハヤト様の魔法をこの様な事に使い、申し訳ありません」
「いいよ。俺も人を攻撃するより、生活を便利にする方がいいからね。でも、魔法の制御の稽古をしておいて良かった」
「うふふふっ、以前のような威力の火魔法では、食事どころでは無くなってしまいますからね!!」
「だね!!せっかく作ったかまどが跡形もなく消えてしまうよ」
「ありがとうございます。後は私たちに任せて、ハヤト様は休んでいてください」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
俺は少し離れた岩の上に座り、リスグラシューたちの料理を作る様子を眺める。
テントの設営をしていたアレグリアたちが作業を終えてやって来た。
「まだ、しばらく…食事ができるまでに…時間が…かかりそうですね…」
「んっ!?どうしたの?」
俺はシーザリオの口調に違和感を感じる。
「わずかながら、森の中から妙な気配を感じます」
メサイアが耳元で言う。
「妙な気配!?魔物とか魔獣なのか?」
俺は一気に緊張する。
「いや、魔物や魔獣の類ではないと思います。どちらかというと人に近いです」
「人…野盗とか盗賊?」
「野盗でも盗賊でもないと思います。あいつらはこんなにうまく気配を消す事などできませんから…。私とメサイアでなかったら、気配に気づけたかどうか。そのくらい気配を消す能力が高い者たちだと思われます」
「…たち。複数人いるというのか?」
シーザリオは俺の目を見て、黙ってうなずくのであった。
【シーザリオ視点】
「ここなら川と森からもある程度距離が離れて、急な増水や落雷による倒木から身を守れそうね」
私はテントを設営するためのスペースを見つけ辺りを見渡す。
「すぐに日が落ちて暗くなります。素早くテントの設営を行いましょう」
私とアレグリア、メサイアとファレノプシスが協力して支柱を立て、テントの設営を進めていく。
「アレグリア、冒険者としてまだ遠征などしていない割に、なかなか手際が良いじゃない」
「はい。実は将来役に立つだろうと思って、繰り返しテントの設営の練習をしていたんです!!」
「良い心がけです。軍隊や冒険者は、強ければそれだけでいいかというと、そういうわけではありません。実は戦闘力以外の能力がないと、生存確率がかなり落ちる。こういったテントの設営能力は暑さ寒さをしのぎ、体力を温存出来ます。水の浄化方法や毒への対処、天候を読む能力…。アレグリア、戦闘以外の能力も鍛えておきなさい。それが自分自身の生き残る確率を上げる事に繋がります」
「はい!!」
私たちは何とか日が落ちる前に、テントの設営を終えた。
テントの中に入り確認をする。
四人が入っても十分なスペースがあり、十人が横になるだけの空間は確保できた。実際、交代で見張り役が二人いるので、これで充分といえるだろう。
だが、ここで思わぬ事態が発生する。
「えへへへっ、私、ハヤトの横で寝よっと!!」
アレグリアがこんなふざけた事を言いやがった!!
私の心の奥底から、急に殺意が湧きだしてきた。
「じゃあ、ハヤト様を挟んで反対側は私で!!」
メサイアが続く。
「ふぁっ!?あ、あなた達、子供じゃないんです。何を勝手な事を!!」
「そうだ!!勝手に決めないでよ!!私だってハヤト様の隣で寝たい!!」
私とファレノプシスが抗議の声を上げる…が、内心『出遅れた!!このシーザリオ、一生の不覚!!』と悔やむ。
早い者勝ちなどという論理は絶対に認めない。認めるわけにはいかない。
「私は王家筆頭魔術師でメサイアは騎士、そしてあなたたちは冒険者。よろしい。表に出なさい。決闘よ。決闘で勝った者が、ハヤト様の隣で寝る権利を得るの!!」
私は力ずくでハヤト様の隣で寝る権利を奪う事にした。
「ふふふっ、私には問題無いわ。どちらにせよ、ハヤト様の隣は確保できるわね」
アレグリアとファレノプシスを見ながら、メサイアが言い放つ。
分が悪くなったアレグリアとファレノプシス。
「き、貴族の横暴だわ!!」
「自分が有利になるようにルールを勝手に変えるのは、権力の乱用じゃない!!抗議します!!」
私は正論を言われ、苦虫をかみつぶす。
「まあまあ、みんな落ち着いて。誰もが『ハヤト様の隣で寝たい!!』という気持ちがあるのは分かります。私も絶対にこれだけは譲れないという気持ちです。どうでしょう?見張り役が二人必要です。私たち四人、二人ずつ交代でハヤト様の横のスペースを確保すればいいじゃありませんか!!」
メサイアが悪辣な顔をして、四人での談合を提案してきた。
『異議なし!!』
私とアレグリア、そしてファレノプシスは『ニヤッ』と笑い即答をする。
こうして『ハヤト様の隣で寝る権利問題』は解決したのであった。




