第105話 指名依頼
魔法の制御の訓練も無事に終え、俺たちは明日、王都へ向けて出発する。
この世界の旅は過酷。快適な車や電車、飛行機などの移動手段はない。基本、馬車か最悪の場合、徒歩の移動が当たり前である。
俺たちは明日の出発のために早めに夕食をすまし、最後の打ち合わせをする。
「シーザリオ様、指名依頼、ありがとうございます」
ファレノプシスがシーザリオに向かって頭を下げた。
「ふふふっ、パーティー結成のお祝いですよ」
シーザリオが微笑を浮かべながら言った。
「何の話?」
俺は意味が分からず、シーザリオに質問した。
「私の王都までの護衛をTCLの三人に依頼したんですよ」
シーザリオがTCLの三人を見つめながら言う。
「本当は私たちに護衛など必要が無いのですが、形だけでも王家筆頭魔術師であるシーザリオの護衛を行った事にすれば、パーティーの実績になるのですよ。そうすれば、今後も依頼に困る事はないでしょう。先ほども言いましたが、これはシーザリオと私からのお祝いなのです」
メサイアが詳しく説明してくれた。
「私がCランクといっても、アレグリアとウオッカさんは最低ランクのFランクなので、護衛の依頼は受けずらいのです。パーティー自体も結成仕立てで実績もありませんから…。私たちが依頼を受けようとしても、依頼人が私たちの資料を見てキャンセルをする事が考えられます。そこで実績として、王家筆頭魔術師のシーザリオ様の護衛を行ったとなれば…キャンセルされる事もないでしょう。シーザリオ様には感謝の気持ちしかありません。本当にありがとうございます!!」
『ありがとうございます!!』
ファレノプシスに続き、アレグリアとウオッカも頭を深々と下げ、シーザリオに向かってお礼の言葉を言う。
「俺からもお礼を言うよ。三人のために気を使ってもらって感謝するよ。ありがとう!!」
俺も二人に頭を下げる。
「私とメサイアは、すでに影のメンバーですから!!」
「ふふふっ、心はすでにファイブカラーレディース、FCLのメンバーですからね!!」
『当然ですよ!!』という顔をし、シーザリオとメサイアは言い切った。
そんな二人を俺は苦笑いをして見つめる…が、なぜか五人でハイタッチなどを行っている。
(…もう決定事項なんだね)
俺は何も言わない事に決めたのだった。
「ジュリア、準備はいい?ブロディさんに何か伝え忘れた事は無い?」
「はい。大丈夫です」
「リスグラシューとアパパネは?」
「調理器具と食材は、すでにハヤト様のマジックバッグに収納済みです。王都へ着くまでの食事はお任せください。今と変わらぬ料理をお出しできます」
リスグラシューの言葉を聞いてみんなが笑顔になる。
「ブエナは大丈夫?」
「うん!!ポーションを作るための道具と材料はハヤトお兄ちゃんに渡したよ。これで旅先でもポーションが作れるよ」
元気一杯に答えるブエナ。遠足気分なのだろうか?アパパネと共にはしゃいでいる。
『ほっこり』とした気持ちで二人を見つめる。
「しかし、本当にハヤト様は規格外ですね。そのマジックバッグ、容量制限はないのですか?全員手ぶらでの旅など考えられません」
シーザリオが呆れ気味に俺のマジックバッグを見つめながら言った。
「特に食材が痛まないのが大きいですね。移動中はどうしても粗末な食事になりがちです。今回、王都までの移動中に食事の心配が無い。これは大変、画期的な事ですよ!!」
メサイアが立ち上がって力説をする。
「分かるぅ~!!私が冒険者として稼いでいた時も、食事は毎回酷いものだったわ。味も栄養も関係なし。ただお腹を満たすだけのものだったわね」
しみじみとファレノプシスが言うと、シーザリオとメサイアが目を閉じ『うんうん』と頷く。
「盗賊や魔物の討伐。大規模な森での演習。当然、戦争でもそうね…。思い出すだけでテンションが下がるわ」
「本当に完全に同意します」
「塩っ辛いだけの干し肉に…」
「薄~~~いスープ」
「量も極めて少ない」
「あの不味いだけの食事が多くても困りものですが…」
シーザリオとメサイアの愚痴が止まらなくなる。
「良い事を思い付きました!!いっその事、ベガをマジックバッグに入れて旅をしましょう。行く先々でマジックバッグからベガを取り出せば、快適な旅は間違いないです!!」
「それいいね!!アパパネちゃん、凄い!!よく思い付いたね!!」
ドヤ顔のアパパネをブエナが絶賛するが、大人一同は苦笑い。
「アパパネ、いくら何でも建物は…」
アレグリアが否定しようとする。
「アパパネ、良いアイデアだけど、そうしたらベガの改修工事ができなくなってしまうわ。残念だけど今回は無理かなぁ~」
優しく言い聞かせるジュリア。
(アパパネを気遣い、頭ごなしに否定をしない。さすがに子育ての経験者だ!!)
俺はジュリアの優しさに感心をしたのであった。
【稽古の様子 ④】
ファレノプシスが目覚める。
「私は…そうか…メサイア様にやられてしまったのか…。うっ!?」
腹部に激痛が走り、ファレノプシスは顔を歪めた。
「ファレノプシスさん、これを」
アレグリアがポーションを渡す。
「…すまない。もう少しメサイア様を焦らせたかったんだけど…、リーダーとして不甲斐ないところを見せてしまったね」
ファレノプシスは苦い表情をしながらポーションを飲み干した。
「全く不甲斐なくはなかったわよ。病み上がりだし、なかなかの槍さばきだったと思います。今後、アレグリアの成長のための良い目標になる事でしょう。しかし、一方でファレノプシスにも成長の余地は充分に感じました。アレグリアもファレノプシスに置いて行かれないように努力しなさい!!」
「はい!!メサイア様。これからもご指導、よろしくお願いします!!」
メサイアの言葉を聞いて、目を輝かせて答えるアレグリア。立ち上がり、一人で突きの練習を始める。
「アレグリア、元気一杯ね。私もハヤト様のポーションのおかげで、痛みも疲れも無くなりました」
ファレノプシスが立ち上がる。
「ふふふっ、今、アレグリアは自分自身でも成長を実感できている。この時期が一番楽しく、充実した時間が過ごせる。私にも経験があります。ですが…私もさらなる成長をし、ハヤト様のお役に立ちたいと思っています。TCLの三人。早く成長しなさい!!そして私やシーザリオを脅かしなさい。それが私たちの成長にもつながるのです!!」
『はい!!』
「いい返事と面構えですよ。三人同時にかかって来なさい!!私も全力で相手をします」
メサイアは一旦納めていた剣を抜き、鋭い眼光で三人を見つめる。
そして数分後、地面には『ピクリッ』ともしない、TCLの三人が横たわっているのであった…。




