第103話 厳しすぎる稽古
俺は一気に頂上まで駆け登る。転移してから激しく体を動かした事など無かったので分からなかったが、信じられないほど体が動く。
(まるで10代の体に戻ったようだ!!)
思わずそんな事を考えるが…
(10代に戻ったんだった!!)
俺は自分自身にツッコミを入れ、思わず一人で苦笑いをする。
「!?」
頂上まで来るとメサイアが両手を広げて迎えてくれた。
俺はそのままメサイアのB86の胸に飛び込んだ。
「ハヤト様!!」
メサイアは俺の顔を胸に押し付け喜ぶ。
当然、俺も喜ぶ。
俺は一瞬、本当にほんの一瞬の間だけだが、アレグリアたちの事を忘れ、メサイアの程よい大きさの胸の感触を堪能した。
(『ハッ』!?いけない、いけない!!)
俺はメサイアの胸から顔を離し、周りを見渡す。
シーザリオが額に手を当て、厳しい顔をしているのが見えた。
俺は段々と視線を下げていく。
地面には『ピクリッ』とも動かなくなっているTCLの三人が転がっていた。
「アレグリア!!ファレノプシス!!ウオッカ!!」
俺は大声を上げながら、三人の元に近づく。
俺の声が聞こえたのか、アレグリアの体が『ピクリッ』と反応した。続いてファレノプシスの口から『あっ、あっ、あぁ…』と声にならない声が聞こえてきた。よく見ると、ウオッカの指先も僅かながら動いていた。
「あはははっ、大丈夫ですよ!!ハヤト様。死んではいません。皆、生きております!!心配しすぎですよ!!」
俺に向かって満面の笑顔で話をするメサイア。
「はあぁぁぁ~」
その横で大きなため息を付くシーザリオ。
「いくら何でもやり過ぎだろう!!」
俺は思わず感情的になり大きな声を出した。
メサイアが笑顔から真顔になる。
そして…
「ハヤト様、戦士は死線をくぐり抜けた時、初めて成長ができるのです。私も母、グルーヴに何度も死線を彷徨うところまで追い詰められました。そのおかげでここまで成長が出来たのです。アレグリアなどSランクの冒険者を目指しています。甘い事を言ってはいられません。私も楽しくて『ボコボコ』に…いえ、きつい稽古をつけたわけではありません。全ては三人のためを思ってなのですよ」
俺に向かって諭すように言った。
「そ、そうか…。メサイアの気持ちはよく分かった。三人の事を思ってなんだね。大きな声を出してすまなかった」
俺はメサイアに謝った…が、しかし、ここでシーザリオが口をはさみ、メサイアと言い合いになる。
「嘘ね!!」
「嘘じゃないわ!!」
「あなたはいつもそう!!ただ戦う事が嬉しいだけの脳筋騎士なのよ!!」
「脳筋騎士とは失礼な!!戦うことが嬉しいという事は否定しませんが、稽古では、しっかりと相手の成長も考えています。そんな事を言うなら、あなただって脳筋魔術師じゃない。毎回、毎回視察先で冒険者をいじめているじゃありませんか!!」
「いじめているわけじゃないわ!!使える人材を探しているだけ。そして冒険者が弱すぎるだけよ!!」
『ぐぬぬぬっ!!』
シーザリオとメサイアがにらみ合う。
「はいはい。仲が良い事で…。とりあえず、三人にポーションを飲ませるから手伝ってくれよ」
俺はシーザリオとメサイアにポーションを渡し、倒れている三人に飲ませるのだった。
「…死んだかと思った」
アレグリアが呆然とした表情で呟いた。
ファレノプシスとウオッカも呆然とし、目がうつろで焦点が合っていない。俺は三人をしばらくの間、休ませる事にした。
「ところで、ハヤト様はどうしてこんなにも早くここへ?」
「シーザリオからグルーヴ様の事を聞いたんだよ」
「お母様の事?」
「会ったら間違いなくグルーヴ様から戦いを挑まれる。俺がグルーヴ様にメサイアとの婚約を認めてもらうためには、戦って納得させる必要があるってね」
「あぁ…確かに」
「だから俺も少しでもいいから稽古をしておこうと思ってね。宿の部屋の中で魔法を使うと、また壁に穴を開けてしまうかもしれないので、ここに来たんだ」
メサイアが『ニヤリッ』と笑う。
俺はメサイアの笑顔を見て『ゾクッ』とする。
「では、私がお相手致しましょう」
「えっ!?い、いや、別に俺は剣は…」
俺はメサイアが使っていた剣を渡され、メサイアは懐から短剣を取り出した。
そしていつの間にか、俺はメサイアと対峙していた。
「いつでも、どこからでも斬りかかってきて構いません。私を殺す気で来てください」
メサイアは目を少し細め、感情をすべて殺したように無表情で俺を見つめる。そして、今まで抑えていた内に秘めた気合を解き放ったのだった。
俺はメサイアの気合に吹っ飛ばされそうになり仰け反る。
肌が『ビリビリ』と刺激され痛む。
(や、やべぇ~!!俺…殺されちゃうのか!?)
そう思った時、メサイアの頭の上から大量の水が落ちてきたのだった。
【稽古の様子 ②】
メサイアとファレノプシスが対峙している。
まだ剣と槍を交えてもいないのに、ファレノプシスの額からは大量の汗が噴き出していた。
「待ってください。まずはウオッカにポーションを飲ませないと…」
アレグリアがそう言って、倒れて動かないウオッカに近づいていく。
『ほっときなさい!!』
メサイアとファレノプシスが言い放つ。
「で、でも…」
アレグリアが戸惑う。
そんなアレグリアを見て…
「アレグリア、私の剣の風圧だけでウオッカの巨体が飛ばされると本当に思っているのか?」
メサイアがやや呆れながらアレグリアに言う。
「えっ!?で、でも…全く動かなくなって…」
アレグリアが倒れているウオッカのほうを見て呟く。
「あれは吹っ飛ばされたんじゃない!!ウオッカが勝手に飛んでいったんだ。いつまで寝ている。そんなものでだまされるのはアレグリアしかいない。ウオッカ、最初からバレている。起き上がりなさい!!」
ファレノプシスが倒れているウオッカに向かって言い放った。
「えへへへっ、バレてたの?」
ウオッカが笑いながら、その巨体を起き上がらせる。
「ウオッカ、大丈夫なの!?」
「だませたのはアレグリアだけか…。でも、心配してくれてありがとう!!」
「だませたって!?」
「いや…まともに戦ったら、メサイア様に勝てない事は分かっていたんで、トラップを仕掛けてみたんだよ。もしメサイア様が油断して近寄って来たなら、そこでワンチャン勝ち目が出てくるかもと思ったの。でも最初から見破られていたんだね!!」
あぐらをかき陽気に言うウオッカと、まんまとだまされ、唖然とするアレグリア。
そんな対照的な二人を見て…
「ウオッカ、考えてトラップを仕掛けるのはいいが、ちょっと無理があり過ぎましたね。剣の風圧で人を吹っ飛ばす事などできない。出来るとするならば…お母様くらいのもの。しかし、その姿勢そのものは評価に値します」
メサイアがウオッカを評価する。
一方…
「…アレグリア。簡単にだまされるな!!もしウオッカが敵なら、あなたは死んでいますよ。もう少し頭を使って行動しなさい!!」
「…はい」
しょんぼりするアレグリア。
そんなアレグリアの肩を抱き慰めるウオッカ。
「二人とも、そこで見ていなさい。かなわないまでも、あなたたちよりメサイア様を慌てさせることが出来るはず…」
ファレノプシスが仕切り直して、メサイアに向かって槍を向けるのであった。




