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由紀子は、右腕を痛いぐらい掴まれ、くるりと振り向かされた。
目の前の男性を見上げると、その男性は、驚きを伴った、だが、剣呑な威嚇するような眼で自分を睨みつけている。
「君はだれだ?」
その静かだが、人を震えあがらすには十分すぎるほどの低い声が由紀子の体に響く。
急な事に驚き過ぎて、何も言えずにいると、
むんずと両手とも肘のあたりを掴まれ、由紀子は、つま先立ちになりながら、声にならない悲鳴をあげる。
女性としては平均身長な自分を軽々と持ち上げんばかりの握力だ。
男の力に、由紀子は両腕に痺れるような痛みを感じた。
「君はだれだ?」
男は、同じ質問を繰り返した。
その怒りを抑えきれない響きに震える。
一段と低く静かな声がリビングを大きく揺るがしている様に感じる。
「は、離して。あなたこそ、誰?」
「俺か?」
「そうよ。無断で人の家に入って、警察を呼ぶわよ!」
由紀子は負けじと、声の震えを隠すように大声で叫んだ。
「警察か、それも面白いかもしれないな。
呼んでみればいい」
目の前の男は、由紀子の言葉にひるみもせず、馬鹿にしたように笑っている。
由紀子がそんな事ができるとは思ってもいない風だ。
男から逃れようと、足を踏ん張り腕を解こうと力いっぱい体をよじるが、ビクともしない。
先ほどよりも大きな声で叫んだ。
「離して!早く出て行って!本当に警察呼ぶわよ!」
由紀子はこの男が、凶悪な人物なら、まず自分が真っ先に危険にさらされるというのに、節子の事を心配した。
節子を守らねば。
彼女が目を覚ます前に、この男を家から追い出さなければ。
目の悪い節子とでは、逃げる事もままならない。
男は、口の端を挙げたまま、両手をパッと離した。
その途端、由紀子は電話の所へ走っていき、受話器をとった。
震える指で、電話のボタンを押そうとした時、節子の声が聞こえ、
階段の手すりに手をかけて、降りてこようとしているのが見えた。
「ユキちゃん、何かあったの?寝室まで大声が聞こえたけど?」
あぁ、最悪の事態だ。
由紀子は、パニックに陥りそうになり、節子にかける声も震えていた。
「お、叔母様!お、降りて来ない」
由紀子のその声を遮るように男からは、少し微笑みながら、先ほど由紀子に投げかけた声とは全く違う優しい声が聞こえた。
「叔母さん、遅くなりました。仰せの通り来ましたよ」
その声に節子はパァっと顔を輝かせる。
「慎君」
由紀子は唖然として、男を見つめた。
「?・・・・・!」
・・・・・『慎君』・・・・・
まさか、目の前にいる、この男が国枝慎一郎だなんて・・・。




