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身代わりの君  作者: くれぱす


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8



いつになったらやってくるのかと、

叔母からの度重なる催促の電話が日増しに激しくなり、最近では、1日に何度も電話がなり、

電話に気づかないふりをいつまでも続ける訳にもいかず、仕事に専念しづらくなってきた。

仕事と時間を何とかやりくりし、 慎一郎は、とんぼ返り覚悟で、少しの時間をみつけ、叔母のいる別荘を訪れた。


ちょっと、顔を見てすぐに仕事に戻らなければ。



別荘の裏手にある、空き地に車を止め、いつものように裏口から合鍵で、家の中に入った。

叔母と由紀子の姿がリビングには見えない。



出かける事はないだろうと思い、2階の叔母の寝室をノックをして開けるとベッドで横になって寝ている。

具合でも悪いのだろうかと、一瞬、心配したが、気持ち良さそうにぐっすり寝入っているだけのようだ。

叔母に昼寝の習慣があったとは、知らなかったが、起こす気など毛頭ない。


由紀子はどこに行ったのだろう?



そう思っていると微かにリビングから物音が聞こえた。

叔母を起こさないように部屋のドアをそっと閉じ、入ってきた人物を確かめようと、

階段へ向かうと、今度はインターホンが鳴り、ほどなくして招き入れた気配を感じた。


来客か?

珍しい




「こんにちは」

「いらっしゃい」



その男の声に慎一郎は、聞き覚えがあった。

浩二だろう。

だが、女の声は?



由紀子以外にこの家にいて、人を迎える事の出来る人物は思い当たらないというのに、声に馴染みがなかった。

由紀子の声は、 あんな温かな人を包むような声だっただろうか?



彼女の声はもう少し高くて細い声だったと記憶している。

丸太作りのこの高い家の天井に声が少し反響して、確信を得ない。

探った方がいいとそこに留まり、腕を組んで階段の壁にもたれながら、 階下を伺う。



やはり浩二だった。



だが、女は自分に背を向けている為、顔が分からない。

由紀子のはずなのに、何となく違和感を感じる。



髪型のせいだろうか?


叔母に好印象を与えようと、髪型を変えたのか?

いつもは、ゴージャスな栗色の巻毛が彼女のスタイルなのに、

いまは、肩口を越えたあたりの、真っ黒のストレートヘアだ。



着ている服も、彼女が好んできているお気に入りのブランド服ではないようだ。

そして、デニムにカットソーという、動きやすい機能性を重視した服だ。



由紀子にしては、殊勝な事だ。

そこまでして、叔母に気にいってもらい、 自分と結婚したいと思ってくれているとは・・・・・。


由紀子のその殊勝な心がけに、慎一郎は皮肉げに口元を歪めた。



聞こえてくる話の内容から、浩二が彼女に好意を寄せているのはすぐに分かった。



由紀子は、浩二が今までに接した事のない、種類の女性だ。

浩二も美人には弱いらしい。

浩二のニコニコと笑う顔を見ながら、あいつもただの男だなとやれやれと首を振る。



だがやはり、違和感が残る。

あの女は本当に由紀子なのだろうか?



浩二がとっさに女の手を握った事で、浩二の想いははっきりした。

女の方も、悪い気はしていないようだ。

手を振り払わないのがその証拠だ。


眼下で繰り広げられている、中学生もどきの 恋愛ごっこに声を出して笑いたくなった。



「早くユキちゃんに渡したくてね」


浩二が由紀子に話しかけたことで、本人だと確信した。

ただそれよりも、慎一郎は、吹き出しそうになって思わず口元を手で押さえた。


【【【ユキちゃん!】】】


由紀子が自分を中学生いや小学生の愛称のような【ユキちゃん】と呼ばせている事に

笑いを堪えるのに必死だった。

そんなキャラを演じていたなんて!

由紀子は退屈しのぎでユキチャンなるのもを演じていたのか?


慎一郎は、こんなにも由紀子の事をわかっていない事に、

結婚するというのに、この程度のものだなんて、自分のいい加減さに呆れてしまう。


そう思いながらも、慎一郎は、腹を抱えて大声で笑うのをとにかく我慢した。

浩二相手にこんな遊びを由紀子はしていたのだ。

あの由紀子にかかれば、世間知らずな浩二などひとたまりもないだろう。



浩二が由紀子の自尊心をくすぐってくれて、

こんな都会のきらびやかな世界からはなれた田舎で、叔母の世話をする事にも我慢できたのだろう。



浩二に感謝したい。

今回の滞在がうまくいったのは、彼のおかげかもしれない。

浩二からまばゆいほどの視線を向けられ、由紀子の女王様気質が満たされたことだろう。


慎一郎は人の悪い笑みを浮かべて、邪魔をしないようにこの後の展開を見続ける。



B級映画を見ているかのようで面白い。

やはり、作りものは真実には勝てないらしい。

次回作の参考にでもするか・・・・。



すぐにでも、声をかけてやるべきかもしれないが、

浩二の面子をつぶすのも忍びない。



別れを惜しむように浩二が去る背中を由紀子が見送っている。



そこまで演技する必要もないだろうと

いつまでも観客でいることに飽きてきて、

ゆっくりと階段を下り、由紀子の背中に声をかけた。



「こうやってあいつを弄んで、ここの生活を楽しんでいたのか」



彼女の体に腕を回し、その首筋に唇を這わせた後、耳たぶを軽く噛んだ。



彼女の体は、こんなに柔らかで、抱き心地がよかっただろうか?

耳元から香ってくるのは、いつもの香水ではなく、

ほんのりと清涼感のある、清潔な香だった。



そして、何よりも自分に抱かれて固まっている反応が由紀子にはあり得なかった。



きっと由紀子なら、悪戯が見つかったとばかり

悪びれもなくクルリと振り返り、 にっこり媚びた笑いで見上げて、自分の首に手を回し、キスの一つもしてくるはずだ。



別人だ。



二の腕を掴んで、グィっと振り向かせた。



「!」



目の前にいるのは、婚約者の由紀子ではなく、初めてみる女性だった。












慎一郎って奴は・・・・・。



彼にまだ、我慢頂ける方、よろしければ、お付き合いください。

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