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陽気につられて、少し遠くまで歩いた。
暖かな優しい日差しの中、節子と二人で歩くと
由紀子は自然と心がまろやかになってくる、そんな気持ちを感じていた。
きっと、母親と散歩するというのはこんな感じなのだろう。
大人の女性同士として、母親と接する事が出来なかった由紀子は、この時間を大切に思った。
「叔母様、高崎さんから、今朝お電話があって、
あと2.3日で、退院できそうだって仰ってましたよ」
「そう。経過はよさそうだって?」
「えぇ、でも、まだ、一人での外出は難しいらしく、
退院しても、リハビリの通院が少し必要らしいです」
「じゃあ、退院しても無理させちゃダメね」
「ゆっくり元の生活に戻していけばいいと思います」
「そうね。でも、高崎がかえってきたらユキちゃんは帰っちゃうのね」
「・・・・えぇ・・・。」
「それも、寂しいわ。もうしばらくいればいいじゃない?」
「それは・・・。そういう訳にもいかないし・・・・」
由紀子も節子から離れるのは寂しかったが、いつまでもここにはいられない。
「確かにいつまでもユキちゃんを独占する訳にはいかないわね。
慎君に悪いものね。」
「そんな事はないと・・・・・。でも、もう少し先の話です。
まだ、しばらく叔母様のお傍にいますよ」
「そうね。今からしんみりする必要ないわね」
「お腹がすきません?昨日浩二さんが持ってきてくれた、おいしいお蕎麦をお昼は茹でましょうか?」
「あら、昨日、浩二君来ていたの?」
「えぇ、叔母様がお昼寝している間に」
「そう・・・。」
由紀子は、急に黙りこんだ節子が心配になった。
「すみません。歩き過ぎて疲れてしまいましたね。
浩二さんに迎えに来てもらいましょうか?」
「迎え?」
「えぇ、この地域でも電波の入りやすい携帯をかしてもらったんです。
何かあったら心配だからって・・・。」
「浩二君が・・・。」
「はい。迎えに来てもらいます?」
「いいえ。大丈夫よ。これくらい何ともないわ」
「そうですか?無理をなさらないでくださいね。
遠慮せずにいつでも、呼んでくれればいいって浩二さん言ってくれているので」
「・・・・・」
「浩二さんて本当に優しいですよね。
いつも叔母様の事を気にかけて下さって」
「私の事ね・・・・・・。」
高崎の息子の浩二が良く気が付く、優しい性格の持ち主だというのは分かっている。
表情が穏やかで、すぐに誰とでも仲良く慣れる、そんな気質だということも、高崎との会話で節子は感じていた。
もちろん、親が入院したことへの申し訳なさで、手助けしたいと思ってくれているのは、事実だろう。
だが、由紀子が来てから、浩二の顔を見せる頻度が多いのは事実だ。
毎日、いいや、日によっては午前午後と立ち寄る事もあった。
節子は複雑だった。
浩二の気持ちを確かめた訳ではなく、推測で物を言う訳にはいかない。
慎一郎は何をやっているのだろう。
節子は大きく首を振り、由紀子が浩二の想いに気付かない事を祈った。
「早く帰りましょう。お腹すいたわ」
「あ、ごめんなさい。そうですね。じゃあ少しだけ急ぎましょうか?」
由紀子はそう言ったものの、目の悪い節子が転びでもしたら大事だ。
その身を案じ、少しだけ歩調を早める事にとどめた。
家に帰り、昼食をとった後、由紀子は近所のスーパーへ行くと外に出ていった。
いつもは、配達を利用しているはずだ。
きっと慎一郎に電話をするのだろう。
家にある電話を使えばいいのに。
由紀子に、そのように持ちかけてもこの3週間、由紀子が電話で慎一郎と話しているのを聞く事がなかった。
きっと自分のいないところで電話しているのだろう。
人に聞かれたくない気持ちはよくわかる。
婚約時代には、二人だけの甘い会話を交わしたいはずだ。
そう思い、少しホッとする。
慎一郎が甘い言葉を囁いているのを想像するのは難しいが、由紀子となら分かる気がする。
彼女の控えめだが、耳に心地よい落ち着いた声。
聞いているだけで、彼女の人柄が優しいものだと分かる。
その声、そして彼女の手の温もりは、人を安心させ幸せな気持ちにさせる。
節子は由紀子が今回、来てくれたことで、彼女の人柄を理解し、
慎一郎にとって、二人とない人を得たと、彼の今後の人生に安堵していた。
少し昼寝を取ろうと、節子は2階の寝室へ戻った。
由紀子がここへ来てから、午前のお散歩が日課となり、食欲もわき、小一時間のお昼寝が一日のサイクルに
組み込まれるようになった。
午後からも、由紀子と楽しく話をすることで、夜もよく眠れる。
高崎との穏やかな日々に慣れて、変化を嫌っていた節子は、
由紀子という新しい風に吹かれ、気持ちも体も前向きになった気がしていた。
電話で婚約者を「美人だ」と一言しか言わなかったのは、慎一郎なりの照れ隠しだったのだろう。
甥の人を見る目は確かなものだったと節子は慎一郎に会った時には、どんな言葉で褒めてやろうかと思いながらもベッドに横になった。
由紀子は、自分が外に出ていた時間が思いのほか長かったと知り、家への道を走る。
自分の持っている携帯では、かなり離れた場所へ行かないと電波が安定しない。
でも、どうしても連絡を取らなければならなかった。
今の状況をお互い共有し、辻褄を合せておかなければ・・・・。




