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慎一郎は、クルクルと椅子を揺らしながら、外の景色を眺める。
太陽が、向かいのビルの窓ガラスに反射して、その眩しさに思わず目を細めた。
由紀子が別荘へ向かって3週間が過ぎた。
懐の深く、世話の慣れた高崎と違い、あの由紀子がどこまで叔母の面倒を見れるか?
半信半疑だったが、予想以上に頑張っているようだ。
叔母も、初めて会う甥の婚約者に対して、遠慮もあるだろうし、
高崎が戻る1ヶ月の間と思えば、二人ともなんでも我慢できるのだろう。
それにしても、叔母の由紀子に対する評価が
思いのほか高い事に、慎一郎にとっては意外というほかない。
由紀子は思ったより、家庭的だったのかもしれない。
彼女と結婚していく上で、全く期待していなかった部分であっただけに
嬉しい誤算といえばいいだろうか?
自分の人物評価も当てにならないと口元を歪めてクツクツと笑う。
うまく折り合っていないようであれば、仕事の都合をなんとかつけて、叔母の別荘へ顔を出すつもりにしていたが、
二人がうまくやっているようなら、その必要はない。
由紀子とは、叔母の家に行く前日に話したきり、連絡していないが、
叔母が不満を言っていないのだから構わない。
携帯で連絡でもと思ったが、電波状態が悪い地域に叔母は住んでおり、
別に無理をして話す事もない。
何かあれば、彼女から叔母の家の電話で連絡を取ってくるはずだ。
由紀子との婚約はまだ2人だけで交わして、せがまれて指輪を買っただけ。
彼女の両親とは、仕事の関係で軽く挨拶を交わしたことはあるが、正式な顔合わせもしていないし、
仕事関係者や親しい仲間にも、話していなかった。
由紀子は一日でも早く、公式発表をしてほしいと
再三、ねだっていたが、仕事が忙しく、後回しにしていた。
だが、叔母の世話がとうまくやれて帰ってきたら、
褒美のかわりといっては何だが、話を進めてやるべきだろう。
こんなに、叔母とうまくやれるなら、由紀子をたびたび手伝いにいかせば、
高崎も少しは楽になるはずだ。
だが、メディアへの婚約発表や周囲への通達など、
また、厄介なことに時間を取られるかと思うと気が重かった。
いっそ、そんな事は飛ばして、籍だけ入れるので済ませられないだろうか。
スポットライトを何より浴びたがっている由紀子のあからさまにがっかりした顔が目に浮かぶようだ。
まぁ、周りがお膳立てしてくれれば、自分はそれに乗るだけだ。
由紀子と事務所スタッフが何とかするだろう。
「監督、会議のお時間です」
会議の始まりを告げにきた秘書の声で、今まで頭の中で考えていた内容が一瞬で切り替わった。
今日の会議は、各方面から持ち込まれたこれまで目を通した台本の中でどのオファーを受けるか、
または、自分があたためていた本にするか、チームで検討する予定だ。
新しいチャレンジに、慎一郎は気持ちがワクワクし、由紀子の事など頭の片隅にも残っていなかった。




