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電話を置いた慎一郎は、椅子からゆっくりと立ち上がり、窓辺に近寄る。
眼下に縦横無尽に走る道路が見える。
いつものように車が数珠つなぎで走っており、ところどころ渋滞が発生しているようだ。
22階の窓からは、山も海も見る事は出来ない。
山の麓に建てられた別荘に住んでいる叔母の節子に一瞬気持ちが取られ、電話をかけると、
節子の弾んだ元気な声がうるさいぐらいだった。
節子と由紀子が思いのほか、仲良くやっている事にヤレヤレとひとまず安堵した。
急にかかってきた電話から始まる一連のこの出来事が、事なきを得ている現状に一番ホッとしているのは、自分だろうと思っている。
ひと月前、目の不自由な節子の面倒を一手に引き受けている高崎から、急に持病の腰痛がひどくなり、1ヶ月程度の入院が必要になったと連絡が入った。
1ヶ月、いや、リハビリやらなんやらで、それ以上になるかもしれない。
そのあいだ、節子が一人で暮らすのは難しいだろう。
すぐに手伝いの人の手配をと節子に連絡したが、他人を家に入れたくないの一点張りだ。
それならと、自分のマンションに一時的にでも同居をと持ちかけたが、これまた慎一郎の邪魔になりたく無いと頑なに拒み、住み慣れた家で一人で暮らすと頑として譲らない。
慎一郎が、どんなに危ないかを説明しても、大丈夫だと聞き入れない。
それならばと、慎一郎はある提案を持ちかけた。
「俺の婚約者を行かせるよ」
「婚約者?慎君、婚約したの?いつ?」
「あぁ、ちょっと前にね」
電話の向こうで沈黙が広がっている。
慎一郎は、節子が常々、自分の独り身を心配していたから、この報告は喜ぶものと思っていたのに、節子の意外な反応におやっと思う。
「何?喜んでくれないの?」
「え?あぁ、あなたが、結婚するとは思わなかったから少しびっくりしちゃって」
「せっついていたのは、叔母さんだろ?」
「・・・・そうね。おめでとう。それで、どんな女性?」
「ありがとう。美人だ。彼女を手伝いに行かすよ」
「美人ってそれだけ?」
「他になにを言えばいい?それだけで充分さ」
電話の向こうから節子の無言の非難が伝わってくるようだ。
「とりあえずは、彼女が少しは助けになると思う」
「・・・・。初対面なのに、悪いわ」
「いや、そんなことないさ。これから親戚としてつきあっていくんだ。
叔母さんが困っているのだから手伝うのは、当然だ」
「でも…」
慎一郎ほ、節子がまだ戸惑っているのを感じ、言葉を続ける。
「それに、一人だと危険だ。一人暮らしなんて絶対にだめだよ。
誰かに、手伝ってもらわないといけないんだから、この機会に、由紀子と会うのはかえっていいと思う」
「ユキコ?婚約者はユキコさんて言うのね。でも、彼女は手伝うのを負担に思わないかしら?」
「心配ない。彼女は必ず行くよ。いかせるから、叔母さんもそのつもりで。いいね!」
「慎君、無理強いしないでよ。私ならなんとかするから」
「わかってるさ。また連絡するから」
節子は納得したわけではないようだが、仕方なしにしぶしぶながらも受け入れた。
次は由紀子だ。
由紀子の顔を思い浮かべ、大きなため息をついた後、慎一郎は再度、電話を耳に当てた。




