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身代わりの君  作者: くれぱす


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今のキスはなんだったのだろう・・・?

彼の車が小さく見えなくなるまで、祐希はボーっと見送る。


祐季は、あんな強引なキスをされた事はなかった。

そして、その後のあんな優しいキスも今まで、誰もしてくれた事はない。


人の婚約者とキスするだなんて・・・・。

それも、こんなに嫌っている慎一郎と・・・。

でも、それを嫌だと思わなかったのが、祐季には不思議だった。


彼にとっては、あんなキス、ほんの挨拶程度の物かもしれない。

恋愛に不慣れな祐季は、わからなかった。

いや、考えたくなかった。



慎一郎が車で去っていくのを見送りながら、

祐季は、ホッとした半面、寂しい思いがした。


やはり深く考えるのはよそうと、頭中から思いを振り払う。

自分の心のモヤモヤを深く突き詰めるのが怖かった。



祐季は、残された節子との二人の時間を楽しもうと気持ちを切り替えるかのように家に入った。


「戻りました」

「慎君は行った?」

「はい」

「そう。ユキちゃんごめんなさいね。」

「え?」

「だって、ただでさえ忙しい子なのに、私の世話をしてくれていたら、

ゆっくり会える時間が少なくなっちゃったでしょ」

「そんな事、気にしないでください。」

「一緒に戻りたかったんじゃない?」

「そんな事ないです」

「そう?」

「はい」



祐季はもっと、節子に気にしないように何か言いたかったが、

慎一郎との接点は、ここが初めてなのだ。

下手に何かしゃべると、不味い事になりかねない。

いまだに偽っていることへの罪悪感とともに、

節子に気を使わせてしまい、より祐季は気が重かった。



「でも、甘い別れの時だったみたいね」

「?」

「声が少し上ずって聞こえるわ。それに何だが響きが甘いもの」



節子の耳から得る情報の鋭さに祐季は絶句しながら、気をつけなければと思い直した。



慎一郎が帰った翌日、見計らったように浩二が訪ねてきた。

彼が滞在している時は、全く顔を出さなかったと言うのに。


「浩二さん、お久しぶり」

「うん。久しぶりかな?」



浩二はいつもの穏やかな笑顔だ。


「慎一郎さんは?」

「用事があるって、戻ったの」

「君を置いて?」

「えぇ」


祐季はおかしな事を言うものだと思ったが、

『私を』というよりは、『婚約者を』という事なのだろうと解釈した。


「高崎さんが戻られるまで、叔母様のお手伝いがしたいの。

私だって、少しはお役に立っているでしょ」

「少しはって・・・。それ以上だけど。彼は君を迎えに来たのかと思ったからね」

「そんな。いちいち私に関わってられないわ」

「婚約者なのに?」


祐季は何と答えるべきか迷った。

いままで、浩二に面と向かって『婚約者』と問われた事はなかった。

彼にまで嘘を告げる事に戸惑い、出来るだけ真実に近い答えを探した。


「私によ」



浩二は納得いかない表情だが、気を取り直すかのように 訪問の用件を伝える。


「近所の人が、ジャム用の苺をくれるって言うんだけど、ユキちゃん作る?」

「わぁ、嬉しい。市販のジャムは甘すぎて好きじゃないの」

「良かった。じゃあ、明日もらってくるよ」

「え?ついでの時でいいですよ」

「いいや、早い方がいいよ。そこで、お願いがあるんだけど」

「なんですか?」

「僕にも分けてもらえる?」


祐季はその言葉に嬉しくなった。

誰かの為に作るのは、楽しいし、より作りがいがある。

まして、リクエストしてもらえるなんて、お菓子作りが趣味の祐季にとって、嬉しい限りだ。


「もちろんですよ。要らないって言っても、もらってもらいますからね」


祐季の遠慮のない言葉に二人は弾んだ声で笑う。



「あらあら、賑やかだ事。浩二君が来てるのね」

「こんにちは」

「叔母様!明日、苺ジャムを作りますね」

「苺ジャム?」

「えぇ、浩二さんがジャム用の苺を持ってきてくれるんです」

「浩二君が?」


訝しげな様子の節子に、浩二は穏やかに話しかける。


「えぇ、近所の農家がジャム用の苺を分けてくれるんです」

「去年まで、そんな事言った事無かったのに」

「いや、だって去年までは作れる人がいなかったじゃないですか」

「それはそうだけど・・・・」

「叔母様?」


節子の浮かない声に祐季はハッと気付いた。


「もしかして苺ジャム、お嫌いでした?」

「いいえ。好きよ」

「手作りジャムは苦手ですか?」

「いいえ。なぜ?」

「・・・・それならいいんですが」


祐季は節子が何となくだが、楽しみにしていないように感じられる。

いつもなら、祐季がお菓子を作る話をすると、

話が弾み、楽しい時間となるはずなのに。






浩二・・・登場…



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