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別荘への帰り道、和解したとはいえ、相変わらず重苦しい気分で祐希は歩く。
少し前を歩く慎一郎をどうしても意識せずにはいられない。
衿足にかかるぐらいの真っ黒な髪の毛、時折、鬱陶しそうに前髪を掻き上げ仕草、キリリと濃い眉毛とその下の鋭い目元、 眉間にはいつも皺がより、口元はギュッと上に結ばれている。
服の上からでも肩甲骨の盛り上がりが分かる。
がっしりとした肩幅に太い二の腕。
まるで、ラグビー選手のようだ。
女性としては平均身長だと思っている自分が見上げてしまうほどの
高い所から見下ろしてくるその瞳は、いつも力強い光をたたえている。
そして、全ての物を掴んでしまえるのではないかと
勘違いしてしまえるほどの、大きくて分厚い手。
全身から力がみなぎり、人を引き付ける、人を引っ張る何かが、感じられる。
この何かが、映画という非日常の世界に多くの人を引きずりこむ事の出来る、
又、多くの人に一瞬の夢を見せる事の出来る、限られた人が持つものなのだろう。
その背中から、視線を外し、祐希は首を振った。
つくづく、この目の前の男は自分とは相いれない世界の住人なんだと、
自分が平凡な人間なんだと思い知らさせれる。
すべてが印象的で、オーラがある。
そんな事を考えつつも、(でも、この人って、笑う事があるのだろうか?)
祐希は、自分のどうでもいい思考に笑いそうになった。
祐希がついてきているかなどお構いなしに、 前をずんずん歩いていたかと思いきや、慎一郎が急に立ち止り、振り向き唐突に口をひらいた。
「叔母には、君が由紀子でないことは、もう少し黙っていてくれ」
「え?でも………」
「むやみに驚かせたくない。急には困惑して、受け入れるのは難しいだろう」
「・・・・・・・」
「しばらくは、婚約者のふりをしていてほしい。何かいい案を考えるから」
「・・・分かりました」
祐希はすぐにでも節子に話し精一杯の謝罪をして、本当の自分で接したかったが、ここを去れば二度と会うことのない彼女に、むやみに嫌な思いをさせる必要がないと自分を納得させる。
自分が去った後は、慎一郎がどうとでも言い繕うだろう。
祐希は、不承不承頷頷いた。
普段なら、この季節の心地よい空気の中を歩くのは 穏やかな気持ちになれるのだが、今日は胸がざわついて、そうもいかない。
由紀子と祐希の事情も理解してもらい、何とか事なきを得て、心の重荷が少し軽くなったはずなのに、
慎一郎と出会ってしまい、かえって祐希の心は別の重荷がかかったように、晴れやかな気持ちになれない。
共通の話題も思いつかないまま、
トボトボと慎一郎の逞しい背中を見ながら歩いた。




