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祐季は、由紀子の交わした会話を決して悟らせないように、憮然とした表情で自分を見下ろしている慎一郎に必死で言葉をつなぐ。
「由紀子はなんとかして、叔母様の助けになりたかったし。でも、先の用事をキャンセルすることもできず、彼女はすごく悩んでいました。
だから、私が言い出したんです」
「なんて?」
「お目が悪いんだから、誰が行っても分からないだろうって」
慎一郎は、明らかに今の言葉に気分を害したようだ。
目に見えて、表情が険しくなった。
「それであっさり由紀子は納得したのか?」
「いいえ、でも、何とか説得して、彼女は私に叔母様の世話を任せてくれたんです」
彼は、この説明を全く信じていないようだ。
口をへの字に曲げている。
「叔母に嘘をつく事に二人の間で、罪の意識はなかったのか?
人を騙すという事に!」
「由紀子は嫌がっていました。でも、私が大丈夫だからって・・・」
「何が、大丈夫なんだ?」
「あなたと叔母様はそれ程親しく行き来をしている訳じゃないって聞いて・・・」
「そんなことで!」
慎一郎の抑えていた、怒りがあらわになっている。
何とかして、この婚約を守らなければ・・・。
万が一、ダメにでもなろう事なら、あの家族の落胆ぶりがやがて、自分に向かい、
由紀子と叔父たちからどれほどひどい言葉が降ってくるだろう。
「とにかく、私が何とかなるから入れ代わろうって・・・。
由紀子が早く用事が終わったら、すぐこっちに来る事になっていました。
だから、ほんの少しだけって・・・。
私が嫌がる由紀子を説得したんです」
必死に由紀子を庇う祐季をみて、慎一郎は面白くなってきた。
あの由紀子がそんな殊勝な事を言うはずない。
どうせ、叔母の世話が嫌でこの従姉妹に自分の役目を押し付けたのだろう。
それなのに、自分が悪者になってまで、庇う必要がどこにあるのだ・・・。
慎一郎は心の中では、すでに由紀子との婚約解消は決定的なものとなっていた。
自分だけならまだしも、叔母の事まで騙すとは、言語道断だ。
だが、ひとまず、彼女の言葉を信じたふりをすることにした。
叔母はこの目の前の祐季が気に入っている。
とりあえず、高崎が戻ってくるまで、彼女に面倒を見てもらおう。
高崎が本調子に戻るまで、誰かが節子の世話をしなければならない。
それなら、少々の罪滅ぼしも兼ねて、彼女にしてもらえばいい。
「分かった。確かに由紀子の都合も考えずに独断だった。
だが、高崎が戻るまでもうしばらく、君が叔母の面倒を見てもらえるか?」
急に態度を変えた慎一郎に驚いたが、やっと分かってもらえたと
祐季は安堵のため息を漏らした。
誠意が通じたのだ。
目の前の男も、それ程、悪い人ではないかもしれない。
祐季は呑気にそんな事を思っていた。
「えぇ、もちろんです。高崎さんが戻ってくるまで、今まで通り、お世話をさせて頂きます!」
祐季は自分も節子と別れがたかったから、嬉しかった。
思わず笑顔で答えていた。
慎一郎は、その邪心のない笑顔にハッとした。
なぜか、見入ってしまう。
その笑顔をもっと、もっと見てみたいと思った。
祐季の笑顔が問いかける様に代わったのに気付き、気を取り直した。
「あぁ、じゃあ、よろしく」
自分の打算的な考え方に彼女が気付いていない事にホッとした。
そして、思い出したように付け足した。
「ところで由紀子の用事って何だったんだ?」
「え?」
「だからキャンセルできない用事って?」
「そ、それは……」
慎一郎は、あまりの祐季の狼狽えぶりに、自分の由紀子評は、当たってると確信した。
「ま、何でもいいけどな。来れないのは、確かなんだから」
祐季は、うまい理由を思いつかなかったのでこれ以上、追求されないことに安堵しながらも、慎一郎が由紀子に対して全く執着がないのかと怪訝に思った。




