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浩二が去った後、それまでにも増して二人の間は気まずいものだった。
「おとなしい従姉妹がこうやって、純情な青年をいとも簡単に自分の味方につけるとは、恐れ入ったね」
「何が言いたいんですか?」
「そりゃそうだろう?
こんな短期間で、叔母を手なずけ、男を虜にしている。
あの由紀子も真っ青だ」
「私!・・・・私、そんな事してません。」
慎一郎はフンと馬鹿にしたように肩をすくめ見下ろしてくる。
「どうでもいいが・・・・。早く話を続けてくれないか?時間がもったいない」
祐希には目の前のこの男の良いところが全く分からない。
どこが良くて、あんなに、結婚したがるのか、
由紀子が今、ここにいたらぜひ、聞いてみたかった。
彼の口から、由紀子を思いやる言葉の一つも出てこない。
普通、この場にいるはずの自分の婚約者がいない事をまず、心配するのではないか?
自分をここに行くようにした由紀子も由紀子だが、目の前のこの男も男だ。
結婚しようとしているのに、相手を思いやったり、二人の気持ちが通じ合っているようには、全く見えない。
祐希は、目の前で鋭い目つきで自分を見下ろしている慎一郎を見上げ、
つくづく由紀子の話に乗ってしまった自分を後悔した。
もちろん、由紀子に無理強いされた事は事実だが、
祐希は、自分の身の可愛さも加わって、この身代わりに頷いたところもあっただけに、
ここにいて、節子と楽しく過ごせば過ごすほど、後ろめたさを感じていた。
祐希は、足元の石に視線を落とした後、意を決して瞳を上げる。
「由紀子は貴方から、叔母様の世話を頼まれ、行けると頷いたんですが、
その後に用事があった事を思い出して、私に相談して来ました」
「俺の叔母の世話より、大事な用?」
なんて、傲慢な言い方・・・・
思わず叫びそうになるのを、やっと抑えて、静かに頷いた。
「えぇ、由紀子にだって、用事はあります」
「それならそうといえばいいのに」
祐希はもう少しで、《貴方が言わせなかったんでしょ!》と叫び出すかと思った。
慎一郎は納得のいかない表情で祐希を見つめている。
その表情の中に、由紀子に対しての不信感が含まれているようで 祐希の中に不安が走る。
由紀子は今回の訪問がうまくいかないと、結婚がなくなるかもといっていた。
結婚が無くなれば、由紀子をはじめ、叔父夫婦から罵詈雑言を浴びせられるだろう。
だが、それよりも、やっと由紀子から解放されるはずが、それもなくなる。
背中を冷や汗が伝う。
口を開くのが怖い。
でも、なんとかしなければ。
「叔母様に由紀子がお手伝に行く話が伝わっているのに、
その後で断りでもしたら、お気を悪くされると由紀子は心配したんです」
「・・・・・」
「そして、何より自分が手伝いに行かなくなることで、叔母様が不自由されると
心配していました。悩んだ末に、私に相談してきたんです」
言葉を選びながら、祐希は必死で、由紀子を庇う。
この婚約を守るのなら、少しいや、大きな脚色は許されるだろう。
自分の言葉で、由紀子の婚約が守れるなら、どんな悪役になっても構わないと祐希は焦る。
あの日のリビングで、由紀子と交わした会話を
決して、慎一郎には明かしてはいけないと、ぎゅっと口を結んだ。
次話、場面かわります。




